みんなのおススメ

ドヤ顔でつづった、若手作家の笑える日常

『学生時代にやらなくてもいい20のこと』朝井リョウ

平田祐さん(東京・中央大学杉並高校3年)

『学生時代にやらなくてもいい20のこと』(文藝春秋)
『学生時代にやらなくてもいい20のこと』(文藝春秋)

『桐島、部活やめるってよ』や『チア男子!!』などの小説で知られる朝井リョウさんによるエッセイ。小説とエッセイとのギャップが本当にすごく、とても驚きました。できれば家で1人で読んでいただきたい本です。笑いが止まらなくなるので、電車の中では読まないほうがいいでしょう。

 

何よりひかれたのが、自己啓発本のように一瞬思えるけど、全くそんなことのないタイトル、そしてこの本の面白さが凝縮されているのは、著者略歴の部分です。表表紙側には、よくみる普通の著者略歴が書かれているのですが、反対の裏表紙側には「1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学文化構想学部在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し、ネットで叩かれる。おなかが弱くファッションセンスがない。エッセイ集を出すことを友人に告げると、『作家の日常系のエッセイ集って自己満足だよね』と真顔で返される」と、こんなふうに朝井リョウさんが自らを語る上で重要と思ったことが盛り込まれた著者略歴になっています。

 

この本を読み進めるとすぐに、こんな文章に出会います。「エッセイを連載するのはこれが初めてなのだが、編集者が書いた連載初回のエッセイのあおり文を見て私は動揺した。『現役大学生作家が送る、少し不安で笑える日常へようこそ』。私がしめしめ、これはエッセイに書くと面白いぞ、とドヤ顔でつづった日常は、どうやら少し不安らしい。不安がられちゃったと、私は力なく笑ったのだが、少しどころか眠れないほど不安になった出来事を思い出しもした」。


そんな導入を経て思い出されたエピソードは100キロハイク。これは2日間かけて埼玉県本庄市から早稲田大学までの道のりを、仮装をして歩き通すというイベントです。何がそんなにも眠れないほどの不安を生み出したのか、どんな仮装をしたのかなど、朝井リョウさんがドヤ顔でつづったであろう文章で確認してみてください。

 

平田祐さん
平田祐さん

また、私が特に好きなのは、お母さんについてのエピソード。「その日は検問が行われていた。事件だかなんだか分からないが、とにかく警察官が1台1台の車に免許証の提示を命じていた。もちろん、私の母もこれになら……わずに、検問を突破すべくアクセル全開でGOみたいな、文藝春秋に苦情の電話が殺到するようなエピソードではないので、安心していただきたい。1台、また1台と検問を通過していくなか、母もいそいそと免許証の準備をする。そしてついにその時がきた。『免許証を見せていただいてよろしいですか』。窓からのぞく警察官の穏やかな表情。もちろん母も穏やかに免許証を提示する。自分の好きなようにはさみでカットされた免許証を」。このあとにもまださらなるオチは続くのですが、ここで書くと完全なネタバレになってしまうので、ぜひ読んで確認してみてください。

 

このような、お母さんのことや、大学生活、就活などのエピソードがこと細かに面白おかしく書かれていて、まさに抱腹絶倒。本当に声に出してケラケラと笑いっぱなしになること間違いなしです。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>

さ・ら・に・平田祐さん おススメの3冊

『和菓子のアン』
坂木司(光文社文庫)
中学校の司書の先生に薦められて手に取ったのですが、一人一人のキャラクターが個性豊かで魅力的であっという間に坂木司さんの小説の大ファンになったのを覚えています。和菓子ひとつひとつにつまっている物語も知れて、和菓子って奥深いんだなぁと感じました。

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『星やどりの声』
朝井リョウ(角川文庫)
この本でも朝井リョウさんのイメージが変わりました。家族のお話なのですが、それぞれの章が別々の子供の視点で書かれており、そのすべてが絡み合って謎がとけていく。あたたかな気持ちになれるストーリーはもちろんのこと、そんな構成も大好きな一冊です。

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『つるかめ助産院』
小川糸(集英社文庫)
あたたかい周囲に支えられながら主人公が成長していく様子は読み終わった後とてもほっこりしました。「生」という少し重いテーマですが、読みやすく、それでいて考えさせられるお話です。

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平田祐さんmini interview

好きなジャンル

ミステリーや日常系の小説が好きです。作家では、坂木司さんや有川浩さんなどです。


小学生のとき

青い鳥文庫を好きでよく読んでいました。特に松原秀行さんの「パスワード」シリーズが好きでした。


2014、印象に残った本

『迷子の王様』(君たちに明日はないシリーズ)垣根涼介(新潮社刊)
リストラ代行専門会社に勤める主人公の話なのですが、読みやすいのに社会情勢などがもりこまれていてとても勉強になり、印象に残っています。

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これから

いわゆる純文学を読んでいきたいと思っています。