みんなのおススメ

「寄生虫の国」「正義の国」…。話せるバイクと不思議な国へ

『キノの旅 -the Beautiful World-』時雨沢恵一

生沼美夏さん(千葉県立沼南高校3年)

『キノの旅XV -the Beautiful World-』時雨沢恵一 イラスト/黒星紅白(電撃文庫/アスキー・メディアワークス刊)
『キノの旅XV -the Beautiful World-』時雨沢恵一 イラスト/黒星紅白(電撃文庫/アスキー・メディアワークス刊)

この本は時雨沢恵一作のライトノベルで1巻から18巻まで刊行されています。主人公のキノという少女が、会話のできるバイク「エルメス」とともに大小様々な国や街を旅する、1話完結型の短編集です。この本の面白いところは、キノが行く先々にある国や街の特徴にあります。例えば「正義の国」や「規制の国」といったように、国の名前がそのままその国の特徴となっています。

私が最も衝撃を受けた話では、キノとエルメスは「寄生虫の国」に行きます。その国は、旅人たちの間で「国民が一生、一切の病気をしない国」とうわさされていて、そのうわさを確かめるべくその国へ向かったのです。そこはのどかな農村で、とても医療が発展している国には見えません。すると、50歳くらいの男性とその家族が現れました。なんでも、この国の最年長者として国内を案内してくれるそうです。キノとエルメスは、どうしても一生健康でいられる秘訣がわからなかったので、案内人に尋ねました。すると、案内人は答えました。「明日全てを話しますよ」と。

次の日の朝、案内人とその家族が待っており、案内人は楽しそうにこう言いました。「さて、秘訣をお教えしましょう。私たちが一生健康でいられるのは、体内に寄生虫を飼っているからです。そして今日、私は死にます」。実は、この虫に寄生されると病気とは無縁の生活を送ることができ、けがをしてもたちまち治ってしまいます。しかしこの虫は、宿主が50歳になると体内から出てきます。その時、宿主は必ず死んでしまうのです。それがわかっていた案内人は、「幸せな人生だった」と言うと、キノの目の前で倒れてしまいました。家族は笑顔で案内人を見送りました。案内人の家族に「虫を寄生させてあげようか?」と勧められましたが、「50年は短いかなあ」と言って断りました。限られた時間の中で幸せな50年と、楽しいことも悲しいこともある不確かな未来とでは、皆さんはどちらを選びますか。

生沼美夏さん
生沼美夏さん

この他にも、国中で読書が盛んな「本の国」や、国民が好きな暴動ができる「自由暴動の国」など、面白い話がたくさんあります。強制的に大人にさせられる「大人の国」には行きたくないですね。本編だけではなく、あとがきを楽しみに本を買う人もいるほど工夫されたあとがきにも注目です。

 

 [本の出版社のサイトへ]

 

<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>※学校・学年は取材時

さ・ら・に・生沼美夏さん おススメの3冊

『文鳥・夢十夜』
夏目漱石(新潮文庫)
10の夢にまつわる短編からなりますが、特に1話が気に入っています。とても幻想的なお話です。

 [出版社のサイトへ]

『ミミズクと夜の王』
紅玉いづき イラスト/作画 磯野宏夫

(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)
ミミズクという少女と夜の森の王の話です。まるで絵本のようなストーリーであっという間に読んでしまいます。

 [出版社のサイトへ]

『プロイセンの歴史』
セバスチャン・ハフナー(東洋書林)
建国から消滅まで書かれており、その複雑さは類を見ないと思います。ドイツの元となった大国の歴史を読むのはワクワクします。

 [出版社のサイトへ]

生沼美夏さんmini interview

好きなのは

現代小説やファンタジー、近代文学を主に読みます。芥川龍之介さんと時雨沢恵一さんが好きです。


小学生のころ

『アレクサンダとぜんまいネズミ』(レオ・レオニ)が好きだったと思います。人間から嫌われる生きたネズミと人間から愛されるおもちゃのネズミが出会う話です。私は生きたネズミの視点に学ぶことがいろいろありました。


これから

今、少し変わったミステリー小説を読んでいるので、ほかのミステリー小説も読んでみたいです。