みんなのおススメ

SFに社会風刺がピリリと効いた192作品

『小松左京ショートショート全集』小松左京

下高下健介くん(東京・多摩大学附属聖ヶ丘高校)

 『小松左京ショートショート全集』(勁文社)
『小松左京ショートショート全集』(勁文社)

小松左京さんは、『日本沈没』や『日本アパッチ族』など主に長編でSFを書いています。その小松左京さんの世界が、原稿用紙4、5枚のショートショートに込められているのがこの本です。小松左京さんの世界とは、メインとなるSFの中に現代社会への風刺が合わさった世界。その中で僕が気に入った話を三つほど紹介したいと思います。

まず一つ目は『ゴールデンウィーク』という話。あるゴールデンウィークが終わった5月6日の朝、ニュースを見るとなぜか4月29日の朝でした。4月29日から5月5日までのゴールデンウィークだけが続く世界になってしまったのです。人々は最初、休みが増えて喜びますが、次第にこの休みを苦しむようになります。しかしその世界では、年に一度だけゴールデンウィーク以外の週が巡ってきます。その週に人々は6日間張り切って働くようになり、いつしかその週を逆にゴールデンウィークと呼ぶようになったという話です。

二つ目に気に入ったのは『秋の味覚』。ある秋、川を見てみるとサンマが押し合いへし合いさかのぼってきます。みんなは喜んでつかまえますが、実はこのサンマは環境破壊によって生まれた猛毒のサンマで、とても人間が食べられるものではありませんでした。その後毎年サンマが川をのぼってきますが、人々は二度と秋の味覚であるサンマを楽しむことはできなくなりました。この話ができたのは1970年の秋。当時、公害問題が少しずつ出始めた頃で、これは時代に対して左京さんが訴えたかった風刺なのかもしれません。

三つ目に紹介する話は『新幹線』という話で、SFらしく宇宙とか宇宙人が登場します。ある時、地球の上を宇宙船が通ります。みんな「なんだ、あれは?」と驚きますが。何も起こらなかったので、そのうち、誰も気に留めなくなります。しばらくすると、世界各地でダイヤモンドがたくさん見つかります。これはどこから来たものかというと、実は宇宙船から落とされていたものでした。宇宙船からどんどんダイヤが落とされたせいで、ダイヤモンドの相場は大幅に下がり、世界中が大混乱に陥ります。次は金も降ってきて同じことになりました。やっと宇宙船と連絡が取れたので、なぜこんなことをするのかと宇宙人に聞いたところ、「あれはわれわれの排泄物です」と。つまり、ダイヤや金の価値も、それに喜ぶ我々人間も、広い宇宙の中から見たらちっぽけな存在なんだということを教えてくれる一作です。


下高下健介くん
下高下健介くん

「ショートショートに終わりはいらない」…左京さんの言葉ですが、僕はこれはショートショートの本質というものを表しているのではないかなと思います。ショートショートというのは、読む人によっていろいろな読み方があって、読者自身が考えられる。それが魅力であり、本質でもあり、楽しさであるのだと僕は思います。この本には192のショートショートが入っていて、思う存分、ショートショートの魅力が楽しめる一冊だと思います。


<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>

さ・ら・に・下高下健介くん おススメの3冊

『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門』
ダレル・ハフ(講談社ブルーバックス)
「統計でだまされない」ためには「統計でだます方法」を本によって知ることが必要だ!と書いてあるこの本は、日ごろ私たちがよく目にする、アンケートや調査、グラフなどがどのような方法で「ウソをついている」のかがわかる本です。他の統計学の本のように数式を使っているわけではないので、非常に読みやすい本です。

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『新釈 遠野物語』
井上ひさし(新潮文庫刊)
医療所に勤めている“私”は、洞くつに住んでいる奇妙な人である“犬伏老人”から「腹がよじれるような話」を聞かされる。本家の遠野物語は難しい話ですが、井上さんは、その「遠野物語」をベースにして、軽快な文章で面白く、遠野の“伝奇”を伝えようとしているのはさすがだなと思いました。

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『またたびトラベル』
茂市久美子(学研)
小学校の時、好きだった本です。「またたびトラベル」という不思議な旅行会社がいろいろな人を「心に残る旅」へと連れて行ってくれる話です。一応小学生向けの本にはなっていますが、大人が読んでも心がほっこりとさせられる本です。

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下高下健介くんmini interview

小学生のころ

「黒ねこサンゴロウシリーズ」や「ズッコケ三人組シリーズ」など冒険ものの本や、漫画ですが「ジュニア版プロジェクトX」なども印象に残っています。


影響本

『そうだったのか!日本現代史』

池上彰(集英社文庫)

政治や経済の分野に興味が湧き、大学でそういった勉強をしたいと思いました。

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2014年印象本

浅田次郎さんの『鉄道員』です。短編集ですが、その中でも表題の「鉄道員」と「角筈にて」が印象に残っている話です。不器用な主人公がつくり出すストーリーに感動しました(特にラスト)。


これから

気に入った本を読むようにしていますが、経済系の新書や池上彰さんの本などを読んでいきたいと思っています。