みんなのおススメ

温かい気持ちになれる、少年と少年が拾った月のお話

『君といたとき、いないとき』ジミー

叶内亜実さん(埼玉県・星野高校2年)

『君といたとき、いないとき』(小学館)
『君といたとき、いないとき』(小学館)

「先生! 先生の指揮と私たちの合奏、合ってないと思うんですけど‥」。中学3年生の夏、吹奏楽部に所属していた私は顧問の先生にこう言いました。その時の私は荒ぶっていて、先生に冷たいことを言ったりしたり。そして「先生がいなくたってできるよ」というところを見せようと思い、自分たちだけで練習。けれども、それが全然うまくいかなくて、「やはり顧問の先生がしていたことはすごいんだな」と思いました。その顧問の先生は、普段は私たちを孫のようにかわいがっているとてもいい先生でした。その先生のありがたさに気づかせてくれた本があります。それがこの絵本です。

「高校生で絵本なんて」って思われるかもしれませんが、この絵本、普通の絵本ではありません。私がそう言いたくなる理由は、この絵本の冒頭文にあります…「見えていた物が見えなくなってしまった。風が心の中を駆け抜けていき、覚えていたことも今はもう思い出せない。ただ、霧がかかったような記憶の影がかすかに揺れて」。私が今まで読んだ絵本の中で、こんな難しい冒頭文はこれだけでした。全体に漢字が使われていますが、ふり仮名はありません。ということは、幼児向け絵本ではないのだと思います。

ストーリをお話ししましょう。ある日、地球に月が落ちてきます。それは手のひらサイズの小さな月なのです。その月を拾った少年は、家に持って帰って世話をするんですね。一方、月がなくなったことに気づいた人たちは、「月がないと大変だ」と、おもちゃの月を作ります。おもちゃの月が夜に光り、そのおもちゃの月で遊ぶようになった子どもたちは、夜更かしをするようになり、学校に遅刻します。学校の先生は、「これは駄目だ」と月を取り上げてしまいます。

少年の拾った本物の月も取り上げられて、少年と月は離ればなれになってしまいます。その少年は、周囲とうまくやっていけないかわいそうな少年なのですが、彼が月と出会ったシーンが私は好きなので紹介します。「少年は、森に落ちていた月を柔らかいタオルでくるみ、小さな電灯で温めました。初め、月は赤ちゃんのように左右に頭を振り、時々淡い光を点滅させました。夜、空中に浮くことができるようになった月は、少しぎこちなく満ち欠けを繰り返しました」。何回も読み返していますが、何回読んでも温かい気持ちになります。この月はどんどん元の大きさに戻ろうとしていき、少年はそんな月を裏で支えてあげます。この、うまく周りの人とやれない少年と月とのやさしい関係が、すごくすてきだなって私は思っています。

 

叶内亜実さん
叶内亜実さん

月と少年の関係について考えているうちに、私と元顧問の先生の関係はどうだったのだろうと考えるようになりました。私があんなに冷たいことを言ったり、ひどいことをしたりしても、先生は優しく接してくれました。普段気付かない、周りの支えや優しさに気付かせてくれる、そんな絵本だと私は思います。そして、つらい時、悲しい時、または温かい気持ちになりたい時、この本を読んでほしいと思います。

離ればなれになってしまった少年と月。そこからいったいどうなるのでしょうか。そしてまた、人工の月で照らされている街はこれからどうなっていくのでしょうか。私はこの絵本を何度も何度も読み返していますが、読むたびにワクワク、ゾクゾクしています。

 

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<2014年度全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>※学年は取材時

さ・ら・に・叶内亜実さん おススメの3冊

『往復書簡』
湊かなえ(幻冬舎文庫)
書簡形式のミステリー。3つの話が入っていて、すべて別々の話ですが、どれも全部好きです。特に3つ目の1組のカップルの往復書簡がおすすめです。

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『葉桜の季節に君を想うということ』
歌野晶午(文春文庫)
2004年のあらゆるミステリーの賞を総なめにした作品。主人公が行動的で、次に何をするのかわくわくします。主人公の私生活が、自分がまだ体験できないような刺激的な生活でドキドキします。

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『魔女の子どもたち』
アーシュラ・ジョーンズ(文)/ラッセル・エイト(絵)(あすなろ書房)
絵がかわいくておもしろい。海外の方の絵は色使いや形などが個性的でインパクトがあって、きっと読んだ人はみんな好きになる本だと思います。

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叶内亜実さんmini interview

小学生のころ

『バッファローのおじさんのおくりもの』(岩佐めぐみ)
小学生のとき、そんなに本大好きっ子ではなかったけれど、動物がしゃべったりする本をたまに読んで、かわいくておもしろいなぁって思っていました。


2014年印象に残った

※『エバー・アフター』DVD発売中/¥1,419+税
※『エバー・アフター』DVD発売中/¥1,419+税

映画『エバー・アフター』20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン)
ドリュー・バリモア(女優)が好きで、出演していたので観ました。シンデレラのアナザーストーリーなのですが、全く違う話で、とてもおもしろかったです。トマス=モアの「ユートピア」の一節を引用して、ヘンリー王子にたてついたり、いじわるなお姉さん達に負けないで、自分の思うままに行動したりする、そんな主人公にすごく憧れました。i