乙女目線で紫式部や坂本龍馬を紹介すれば
『乙女の日本史』堀江宏樹、滝乃みわこ
山口千夏さん(東京・都立大島高校)

堅苦しい日本史のイメージを吹き飛ばす乙女チックなピンクの表紙。もちろん乙女の方にも読んでもらいたいですが、男性にもお薦めです。乙女心がよくわかります。教科書では名前と一言の説明で済まされている人物の奥深いところを、乙女目線で紹介しています。
例えば、『源氏物語』を書いた紫式部。彼女は、藤原道長の娘、彰子に仕えていたもののインテリキャラを売り過ぎて周りからいじめられてしまいました。そのため、家に5カ月ぐらい引きこもります。その後、もう一度彰子のところに戻りますが、そのときは見事にキャラ替えをして空気の読める女となり、周りから受け入れられ、『源氏物語』もクチコミで広がったそうです。また紫式部は自分の日記に、ライバルの清少納言について、風流気取りだとか漢字の誤字が多いだとか、悪口を散々に書かています。紫式部と清少納言に、女のバトルがあったというのは驚きでした。
他の例としては、「日本の夜明けは近いぜよ」でおわかりですね。坂本龍馬です。幕末の人物では、最も愛されているのではないかと思われる人物ですが、実は坂本龍馬、たくさんの愛されテクを持っていました。子ども時代は泣き虫で勉強ができなくておねしょもずっとしていた龍馬ですが、コミュニケーション能力だけは長けていて、大人になってからも人と人との間に入り込む天才だったのです。龍馬は仕事をあまりしなくて、大政奉還を予見させる論文も書きましたが、友達のほうが9カ月も早く書いているのに、なぜか龍馬のほうだけが取り上げられた、といった、「本当は‥」、「実は‥」、という龍馬の残念なところが多く紹介されています。

暗殺時のエピソードがあり、龍馬と一緒に、論文を書いた友達も襲われたのですが、龍馬はその場で亡くなったのに対し、友達は2日間もうんうん苦しんで亡くなっているのです。とてもかわいそうな友達だと思う一方、龍馬がちょっと憎らしく思えました。私から見た龍馬の点数は65点です。
このように、その人は実はこういうことをしていた、その時こういうことを思っていたということを知るのは、とても素晴らしく楽しいことです。それぞれの人物のキュンキュンするポイントが違って、それもまた面白いと思います。幕末・明治のイケメン図鑑も載っていますよ。
<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>
さ・ら・に・山口千夏さん おススメの3冊

『白鳥異伝』上・下
荻原規子(徳間文庫)
匃玉シリーズの中で、私が1番好きな本です。日本のファンタジーでヤマトタケル伝説がモチーフです。難しいと思われがちですが、全然そんなことはなく、流れるような物語や面白い登場人物たちがとても魅力的です。
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『プシュケの涙』
柴村 仁(メディアワークス文庫)
株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス
自殺した女子高校生の謎を追う2人の同級生--。この本は誰もが感動する物語なのではないかなと思います。物語前半はとても重苦しく、暗いのですが、後半、視点が切り変わるとどんどん物語は進み、あっという間の結末です。前半の謎がだんだん明らかになっていく瞬間はとても面白いです。
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『どんぐり姉妹』
よしもとばなな(新潮文庫刊)
姉はどん子、妹はぐり子の姉妹のお話。とても短いお話ですが、その中にたくさん胸打たれるシーンがあって、読みごたえは充分です。姉妹の仲の良さ、考え方、生き方など読み終わったら、少し自分が変わった気がすると思います。いいお天気の昼下がりに読みたい本です。
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山口千夏さんmini interview
好きなジャンル
ファンタジーなら、荻原規子さん、上橋菜穂子さん。恋愛ものなら、有川浩さんが好きです。
幼いころは
小さい頃からファンタジーはすごく好きでした。よく読んだのは“あしながおじさん”とか“若草物語”だと思います。小学生の時のお気に入りは、『魔界屋リリー』シリーズです。人間の女の子リリーが魔界から来た魔界人とバトルしたり仲良くなったりする冒険物語です。魔法とかに憧れていたのでとても好きな本でした。
影響本
中学1年生の時に読んだ梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』です。本の選択の幅、視野が広くなった本です。これを読んで、感動して、図書室にある梨木さんの作品をすべて読んでしまいました。今までよりも、一歩大人になれた気がするような本でした。
2014年印象本

村山由佳さんの『星々の舟』(文春文庫)です。直木賞を受賞している作品で、ちょっと大人向けの重い話が詰まっている短編小説。古本屋で何となく手にとりました。愛とか家族とか、人のつながりを考えさせられる、最後は感動する本でした。読み終わってもずっと頭に残る、ずっと考えさせられる作品です。
これから
よしもとばななさんの作品を制覇したいと思っています。