地球宇宙化学・惑星化学

隕石の中にダイヤモンドが! 隕石から太陽系形成以前の歴史を解明

松田准一先生 元大阪大学大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻(理学部物理学科、大阪大学名誉教授)

松田先生の最新著書!

『隕石でわかる宇宙惑星科学』(大阪大学出版会)

宇宙の解説から太陽系内探査、そして隕石の最新の研究成果までを、現役の東京藝大生になった松田先生自身による楽しいイラストとともに解説。隕石について興味を持っている人、また隕石について実際どのような研究がなされているのかを本格的に知りたい人におすすめです。

[出版社のサイトへ]

第1回 隕石中のダイヤモンドはどこからきたのか ~3つの起源説

1886年、今のロシアがまだロシア革命以前で帝政ロシアだった時、ロシアのノボ・ユレイというところに一つの隕石が落ちました。2人のロシアの科学者がこの隕石を調べて、ダイヤモンドが含まれていることを1888年に発表しました。彼らは、隕石を酸で溶かし、灰色をした残留物の中にグラファイト(黒鉛)とダイヤモンドを見つけたのです。これが隕石中にダイヤモンドがあることが報告された最初です。

 

その後、この隕石と同じ種類の隕石が見つかり、それらは「ユレイライト」として分類されるようになりました(現在約400個)。ユレイライトは石質隕石であるエイコンドライトの一種です。このほとんどのユレイライトにダイヤモンドが含まれています。大きさは0.001から0.01㎜ の大きさです。

 

一方、数多い鉄隕石の中のたった2個にダイヤモンドが含まれているという報告があります。一つは、南極から採集された小さい鉄隕石ALHA77283で、もう一つは、アメリカのアリゾナのバリンジャー隕石孔に落ちたキャニオン・ディアブロ鉄隕石です。これには、数㎜ 程度のダイヤモンドがあります。キャニオン・ディアブロにダイヤモンドが入っている断面は、オーストリアのウィーンにある自然史博物館に展示されています。ウィーン自然史博物館には、素晴らしい隕石のコレクションがあります。

 

 

ダイヤモンドが炭素からできているのがわかったのは18世紀です。質量保存の法則を発見した有名なラボアジエがダイヤモンドを燃焼させ、二酸化炭素(炭酸ガス)だけしか生じないことを示しました。

 

それ以来、ダイヤモンドを人工合成しようとする試みは、盛んになされました。しかし、なかなか成功しませんでした。先生があまりに熱中するので、弟子がみかねて天然ダイヤモンドをいれたという話まであります。別の研究でノーベル化学賞をもらった先生ですが、大変なハードワーカーだったに違いありません。先生の死後に弟子が告白しました。

 

1955年にジェネラルエレクトリック社が10万気圧の高圧で2000℃以上の高温を維持できる装置を開発して、初めてダイヤモンドの人工合成に成功しました。

 

 

隕石の母天体の深い高圧力下でつくられたという「静水圧説」

 

さて、隕石中のダイヤモンドがどうしてできたのかについては、長い間論争がありました。

 

1950年代半ばに、ノーベル賞学者(重水素の発見で受賞)であるアメリカのユーレイは、隕石が大きな天体をつくっていた時、その母天体の深い場所の高圧力下でつくられたという「静水圧説」を唱えました。ジェネラルエレクトリック社がダイヤモンドの人工合成に成功したのが1955年のことで、ユーレイの論文は1956年に発表されました。ダイヤモンドの人工合成実験からダイヤモンドが生成するのに必要な圧力がわかります。この圧力データから、ユーレイはダイヤモンドの入っている隕石があった母天体の大きさが推定できるとも考えたのです。天体内部の圧力は天体のサイズによるからで、大きい天体ほど内部の圧力は高くなります。そして、ダイヤモンドができるような高圧が生じるには、少なくとも月以上の大きさの母天体が必要でした。ところが、小惑星帯には、前に述べたようにそのように大きな天体はありません。

 

隕石が宇宙空間で衝突した時にできたという「衝撃説」

 

隕石中ダイヤモンドの起源についての3つの説
隕石中ダイヤモンドの起源についての3つの説

このことから、1960年代には、シカゴ大学のアンダース達は「衝撃説」を唱えました。ちょうどその頃、火薬の爆発により、数千分の1秒の間に30万気圧ほどの圧力をつくり、グラファイトをダイヤモンドに変換する技術を、フランスの総合化学会社であるデュポン社が可能にしていたのです。この方法によれば多結晶の微小ダイヤモンドができます。多結晶で一定の方向に強度があるというのでなく、全方向に同じ強度になるので、研磨材に良いというので商品化もされました。このようなダイヤモンドを「衝撃合成ダイヤモンド」と呼びます。アンダース達の主張は、隕石が宇宙空間で衝突した時、もしくは地球に落ちてきた時の衝撃によって生じた高温高圧下でダイヤモンドができたというものでした。キャニオン・ディアブロ鉄隕石中のダイヤモンドが、特に強く衝撃を受けたと思われる試料で見つかること(クレーターの場所で衝撃の度合が違います)やダイヤモンドに衝撃波がある一定方向に通過した跡(ダイヤモンドの結晶軸が並んでいる)があることなどが、衝撃説を主張する理由です。

 

松田先生の研究グループの「気相成長説」とは

 

大阪大学の私たちの研究グループは、第3の説である「気相成長説」を主張しました。それは隕石中のダイヤモンドは、原始太陽系の中でイオン化したプラズマ状態のガスから成長してできたというものです。

 

ダイヤモンドは、実は高温高圧の状態だけでつくられるのではなく、真空に近いような低圧下でもつくれるのです。これを最初に発表したのは、1970年代のロシアの科学者達です。シリコン基板(シリコンの結晶構造はダイヤモンドに似ています)を水素とメタンを混ぜたガス中において、ガスを放電させると、シリコン基板の上にダイヤモンドが成長します。このようなダイヤモンドを「気相合成ダイヤモンド」と呼びます。今ではこの技術を利用して日本の電機会社でもダイヤモンド膜などをつくっています。そして、原始太陽系星雲は、水素が主成分なので、ガスからダイヤモンドができる条件にちょうど一致しているのです。

 

興味がわいたら

『隕石でわかる宇宙惑星科学』

松田准一(大阪大学出版会)

宇宙の解説から太陽系内探査、そして隕石の最新の研究成果までを著者自身の手による楽しいイラストとともに解説。隕石について興味を持っている人、また隕石について実際どのような研究がなされているのかを本格的に知りたい人におすすめです。

[出版社のサイトへ]

『天体衝突』

松井孝典(講談社ブルーバックス)

恐竜が滅んだのは隕石の衝突によるものですが、隕石の地球への衝突というのがどのようなものか、どのぐらいの頻度があり、どのようなことが起こるのかなどについて詳しく書かれています。隕石のことに興味のある人におすすめです。

[出版社のサイトへ]

『隕石の見かた・調べかたがわかる本』

藤井旭(誠文堂新光社)

写真が大変豊富で、日本に落下した隕石について特に詳しいです。隕石とはどういうものかをまずは写真などで見たい人にはおすすめです。

[出版社のサイトへ]

『コズミックフロントNEXTNHK衛星放送の番組

難しい知識を優しく説明することを心がけ、海外ロケやコンピュータグラフィックなどもふんだんに取り入れて毎回面白い番組に仕上げています。宇宙全般の知識を楽しく学びたい人におすすめです。

 

松田先生から中高生へおススメ本

『生きること学ぶこと』

広中平祐(集英社文庫)

文化勲章をもらった世界的な数学者による自伝。数学というとスマートな学問と思いがちですが、学問に対する彼の真摯な姿勢と努力がわかり、多いに励みになる本です。

[出版社のサイトへ]

『すべてがFになる』

森博嗣(講談社文庫)

大学の工学部の先生が書いた推理小説で、テレビでもドラマ化された話題作。理系の人が小説を書くと、こういう面白いものができるのだということがわかります。

[出版社のサイトへ]

『大放言』

百田尚樹(新潮新書)

私達はテレビや新聞などの影響を大いに受けていますが、自分自身のしっかりした意見を持つことが必要です。そういった意味で、こういうはっきりした意見の本を読むことも良い機会になると思います。

[出版社のサイトへ]