大気生物学、地域環境工学

農学としての環境工学が生んだ「大気生物学」

~スギ花粉・ヒノキ花粉、飛散モデルが予報を可能に!

 

川島茂人先生 京都大学 農学部 地域環境工学科

第2回 大気中の小生物に注目

 ~小昆虫・胞子、そして多様な花粉研究へ

最初に言いましたように、私の専門は「大気生物学(エアロバイオロジー)」という自ら開拓した学問分野です。おそらく日本で唯一の拠点と言えるでしょう。


私の研究人生は蒸発散の研究からスタートしました。蒸発散というのは河川や水田からの水の蒸発と植物の葉からの水の蒸散を合わせて、地表面から大気中に放出される水のことで、農業土木などで利用されることが多い研究です。その後、しばらく局地気象学をやりました。局地気象学は、普通の気象学よりも小さなスケールの――気象が山や川、畑に及ぼす具体的な影響が目に見えるような――気象学です。今では、大気生物学の観点から、大気中を飛散する花粉や胞子、小昆虫の研究をしています。つまり地表面の水の研究からだんだん、大気中の小さな生物へと関心が移って行ったというわけです。


その中でもとりわけ大気中を飛散する花粉をメインテーマに研究を続けています。なぜ花粉なのか。それについて話しましょう。1つの大きな問題は、遺伝子組換え作物の遺伝子が、花粉という形で大気中に飛散しているという問題があります。つまり今、人間が組み換えた遺伝子が知らず知らずのうちに自然界に広がってしまう。遺伝子組換え作物は、有用だから作りたいという生産者がいる一方で、そんなものは食べたくないという要望もあり、その遺伝子の入った花粉の飛散は様々な議論を呼ぶ問題なのです。


もう1つの重要な問題は、花粉症です。毎年春になると「ああ、また花粉症の季節か」と悩む人は多いと思います。でも実は、どうして花粉症は起こるのか、まだ分からないことも多いのです。

 

まず花粉の種類から見てみましょう。イボイボの健康ボールのような形をした花粉は、アサガオの花粉です。今のところアサガオの花粉で花粉症になった人は報告されていません。おっぱいみたいな形をした花粉。これがみなさんを悩ますスギ花粉です。花粉症のもう1つの原因のヒノキ花粉。これはつるんとした形をしています。

アサガオの花粉
アサガオの花粉
スギ花粉
スギ花粉

私たちの花粉症研究について話しましょう。花粉症の原因を解明するには、花粉の飛散動態を調べる必要があります。どこで花粉は発生し、どっちへ飛散するのかというモニタリング調査、それが周りにどのように影響を与えるかという評価。こういうことがわかるとモデル化ができます。モデル化が重要なのは、それによって、人々に役に立つ花粉症の予測ができるからなのです。

 

<今までの記事を読む>

第1回 地域環境工学って? 

~農業・生態系を基本に、温暖化も克服できる地域を生かした持続社会を

 

興味がわいたら

大気環境学の入門

『環境学入門〈2〉大気環境学』

岩坂泰信(岩波書店)

大気環境の変化は、気候変動、地球温暖化など地球規模の環境問題をひきおこす。地球の大気の性質や、人間活動との関わりを考える。

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『調べる・身近な環境―だれでもできる水、大気、土、生物の調べ方』

小倉紀、藤森真理子、梶井公美子、山田和人(講談社ブルーバックス)

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大気中を浮遊する微粒子と地球環境の関係がわかる(大気環境学の入門)

『大気と微粒子の話―エアロゾルと地球環境』

笠原三紀夫、東野達:編(京都大学学術出版会学術選書)

エアロゾルとは、大気中に浮遊する微粒子のこと。天気や、酸性雨・地球温暖化、呼吸器疾患やアレルギーといった、私たちの日常生活に密接に関わっている。エアロゾルの正体、地球環境や人体への影響がわかる。

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大気中を飛散する大気微生物が及ぼす実際問題―花粉症とアレルギーの関係がわかる本

『アレルギーはなぜ起こるか―ヒトを傷つける過剰な免疫反応のしくみ』

斎藤博久(講談社ブルーバックス)

花粉症や喘息、アトピー、食物アレルギーなど、現代病となったアレルギーの全貌をわかりやすく解説。

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※出版元に在庫なし

大気中を飛散する大気微生物のふしぎに触れる

『きのこ ―ふわり胞子の舞』

埴沙萠(ポプラ社)

きのこのかさから、ふわりけむりが見える。気中を浮遊する胞子の写真集。著者は植物生態写真家。

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