環境・バイオの最前線
循環型社会工学/リサイクル工学/ゴミ問題が学べる大学
1950年代後半、土木工学の中に、廃棄物処理を研究する衛生工学が誕生したが、その目的は出てきたゴミを処理すること。故岩井重久先生や故平岡正勝先生の京都大学や丹保憲仁先生の北海道大によって今日のゴミ問題研究がスタートした。ゴミの処理処分技術を工学的に取り組むのみでなく、やがて、社会を巻き込んだゴミの発生抑制が必要だと考える末石冨太郎先生や高月紘先生の京都大で社会構造や消費者との関係が研究されていった。とりわけ、末石先生は、その後、社会学的視点を加えて総合的に研究する環境工学に発展させ、それは大阪大、滋賀県立大、関西大などに広まった。さらに、社会システムや法制度、市民運動の観点に立ったその発想は、環境経済学の草分けとなった植田和弘先生に引き継がれ京都大、同志社大、慶應義塾大などの経済学部で花開いている。
※現在、丹保憲仁先生は北海道大学名誉教授、末石冨太郎先生は大阪大学名誉教授、高月紘先生は京都大学名誉教授 植田和弘先生は京都大学名誉教授
とくにおススメ

1.京都大学
工学部 地球工学科 環境工学コース/工学研究科 都市環境工学専攻/環境安全保健機構環境科学センター
【すべて】ゴミの発生抑制や、市民参加の社会システム作りの重要性にいち早く着目し、現在のゴミ問題研究をリードし続けてきたパイオニア。工学部の中には、ほかにも廃水処理やダイオキシン問題、地球温暖化など環境問題に取り組むグループがある。生産業・流通業やNPOとの連携があり、現場の問題をたえず吸収しようとする姿勢も強い。経済学部や農学部の関連分野の講義を聞く機会も多く、学際的、総合的な学問であるゴミ問題の研究には、うってつけの環境だ。
<研究者>
・米田稔 →紹介ページ
・高岡昌輝→紹介ページ
・浅利美鈴→紹介ページ
・平井康宏→紹介ページ
<関連サイト>

2.東京大学
工学部 (2)システム創成学科、(3)化学システム工学科
工学系研究科 (1)マテリアル工学専攻、(2)システム創成学専攻、(3)化学システム工学専攻
【中間処理、公衆衛生】平尾雅彦先生は化学、岡部徹先生は金属と他分野の学問からリサイクルを扱い、東京大は循環型社会学を幅広い観点から学ぶことができる。学内の実験廃棄物の処理業務を踏まえて、実際的な廃棄物の処理の技術開発を担う環境安全研究センターもある。
<研究者>
・(1)岡部徹(教養学部学際科学科)→研究室HP
・(2)村上進亮 →研究室HP
・(3)平尾雅彦 →研究室HP
<関連サイト>
■工学部 システム創成学科 Aコース(E&E) 環境・エネルギーシステム HP

3.東北大学
工学部 (1)化学・バイオ工学科、(2)材料科学総合学科、
(3)機械知能・航空工学科
工学研究科 (2)金属フロンティア工学専攻
環境科学研究科 (1)(2)先端環境創成学専攻、(3)(4)先進社会環境学専攻
(3)多元物質科学研究所
【中間処理・リサイクル】最も躍進著しいのが東北大だ。もともとは無機工業化学講座としてスタートしたが、現在はその技術をプラスチックのリサイクルに応用。廃プラスチックを付加価値の高い化学原料に再生する技術が学べる。奥州藤原氏の黄金郷伝説以来、鉱山金属材料の総本山ともいうべき地盤を背景に、もともと東北大学は金属工学に強い伝統があった。その伝統力を基盤に、環境やリサイクル研究に目をつけ、新たな循環型社会学の拠点として大きく花開きつつある。基礎からポリ塩化ビニルリサイクルへの応用まで幅広く研究し、若手も元気だ。
<研究者>
・(1)吉岡敏明 →研究室HP
・(2)長坂徹也 →研究室HP(金属プロセス工学講座)
・(3)柴田悦郎 →研究室HP(中村・柴田研究室)
・(4)グラウゼ ギド→研究室HP(吉岡研究室)
<関連サイト>

4.北海道大学
工学部 環境社会工学科 環境工学コース
工学院 環境創生工学専攻
【処分地問題、市民運動、環境影響】元総長の丹保憲仁先生(北海道大学名誉教授)が衛生工学の重鎮だったこともあり、歴史的にゴミ問題に最も先鋭的に取り組み、リードしてきた。家電リサイクルでは、社会科学の要素を取り入れ、大学では随一の成果。北海道という土地柄から、ゴミの焼却熱を地域暖房に再利用する研究も盛ん。処理・処分に関わる技術的なことから、廃棄物の発生から処分に至る一連の管理に関する計画策定や政策といった社会学的なことまで、理系でありながら実に幅広いのが特徴だ。
<関連サイト>

5.福岡大学
工学部 社会デザイン工学科
工学研究科 資源循環・環境工学専攻
【処分地問題】30年以上も廃棄物の埋め立てを研究してきた花嶋正孝先生(福岡大学名誉教授)の伝統を継ぐ研究室。それは、田中綾子先生に後継される。徹底的な現場主義の研究から生まれた埋め立て方式は「福岡方式」と呼ばれ、環境にやさしい理想的な工法として国内外の評価が高い。JICA(ジャイカ)との協力事業も盛んで、国際貢献への関心を高めることもできる。
<研究者>
・田中(立藤)綾子
<関連サイト>

6.早稲田大学
(1)政治経済学部 経済学科/経済学研究科 経済学専攻
(2)法学部/法学研究科 民事法学専攻
(3)創造理工学部 総合機械工学科/環境・エネルギー研究科 環境・エネルギー専攻
【LCA、市民運動、中間処理・リサイクル】経済学の中村愼一郎先生のもとでは産業とゴミの連関を、日本では希少な環境法律学の大塚直先生のもとでは廃棄物関連の環境法等を、従来とは異なる視点での研究ができる。実際にゴミ収集やリサイクルを体験・調査し、地域行政と関わり進める研究は、まさに実学の早稲田。環境関係のクラブやサークルも多い。理工学系ではソーラーカーの開発を通じて、新しい環境技術の創造を体験できる。
<研究者>
・(1)近藤康之 →紹介ページ
・(1)中村愼一郎→研究室HP
・(2)大塚直 →紹介ページ
・(3)小野田弘士→研究室HP
<関連サイト>

7.立命館大学
(1)理工学部 環境都市工学科/理工学研究科 環境都市専攻
(2)経済学部 経済学科/経済学研究科 経済学専攻
【発生抑制、環境政策】散乱するゴミ、家庭ゴミ、事業系ゴミなど地域のゴミ問題を丹念に調査し、その統計データの解析研究は随一。高度なコンピュータ運用能力を身につけられるため、IT関連への就職が多い。ゴミ循環だけでなく橋本征二先生の研究する温暖化問題と廃棄物処理の接点を学べる。環境経済系も躍進著しい。島田幸司先生のもとで、環境政策全般や循環型社会学の国の政策論を学べる。
<研究者>
・(1)橋本征二 →研究室HP
・(2)島田幸司 →紹介ページ
・天野耕二 →研究室HP(食マネジメント学部 天野ゼミ)
<関連サイト>


9.名古屋大学
工学部 環境土木・建築学科 環境土木工学プログラム
工学研究科 土木工学専攻
未来材料・システム研究所
【中間処理・リサイクル、LCA】伝統的にリサイクル、廃棄物管理への化学アプローチに強い。片山新太教授のリサイクル化学や有害物質管理研究は特筆もの。
<研究者>
・片山新太 →研究室HP
<関連サイト>

10.岡山大学
環境理工学部 環境デザイン工学科
環境生命科学研究科 資源循環学専攻
低炭素・廃棄物循環研究センター
【中間処理・リサイクル、発生抑制、公衆衛生】廃棄物工学の草分け的展開を図られた田中勝教授は退官し鳥取環境大学へ移ったが、その後、藤原健史教授が廃棄物マネジメント研究センターを率いて、中四国地域の廃棄物研究をけん引している。システム工学的アプローチに優れ、災害廃棄物問題にも実績が多い。
<研究者>
・藤原健史 →研究室HP
<関連サイト>
おススメ

11.愛媛大学
(1)理学部 理学科 化学コース
理工学研究科 環境機能科学専攻
(2)農学部 生物環境学科 環境保全コース
農学研究科 生物環境学専攻
(1)沿岸環境科学研究センター
【有害化学物質管理】環境残留性・生物蓄積性の化学物質について研究できる。先進国から途上国まで、陸から海までの全球・全生態系を対象としている。
<研究者>
・(1)国末達也→研究室HP(環境化学研究室)
・(2)高橋真 →研究室HP
<関連サイト>

12.九州大学
工学部 地球環境工学科 建設都市工学コース
工学府 都市環境システム工学専攻
【処分地問題】もともと水工学が強く、廃水処理などの衛生工学が充実していたのに加えて、福岡大との結びつきの中で埋め立て地の研究も重点化。さらに東アジア地域の廃棄物問題にも取り組んでいる。
<研究者>
・島岡隆行 →研究室HP(資源循環・廃棄物工学研究室)
<関連サイト>

13.滋賀県立大学
環境科学部 環境政策・計画学科
環境科学研究科 環境計画学専攻
【中間処理・リサイクル、処分地問題】もと京都大・末石冨太郎先生の流れをくみ、文系・理系の枠を超えて廃棄物問題を幅広く学ぶことができる。自然環境に配慮した、美しいキャンパスも魅力。
<研究者>
・金谷健 →研究室HP
<関連サイト>


15.横浜国立大学
理工学部 化学・生命系学科 化学応用教育プログラム
環境情報学府 人工環境専攻
【発生抑制】廃棄物や汚染物質の排出をゼロに近づけるゼロエミッションの試みを、地域社会で行おうとする研究のアクティブな拠点の1つ。微生物機能を利用した廃棄物処理技術の開発でも独創的だ。
<関連サイト>

16.大阪公立大学
工学部 都市学科
工学研究科 都市系専攻
【中間処理・リサイクル、発生抑制】建築廃材の半分近くを占めるコンクリート塊など、建設廃材のリサイクル研究が特筆。建築廃材を用いたアスファルトや、廃棄物を使ったエコセメントの開発ができる。
<研究者>
・貫上佳則、水谷聡 →研究室HP
<関連サイト>

17.関西大学
環境都市工学部 都市システム工学科
理工学研究科 環境都市工学専攻
【LCA、市民運動】市民自らの合意形成や政策決定への参加を通じてゴミ問題を解決しようという研究が特徴。市民啓発の環境イベントを実施するなどユニーク。理系でありながら、文系的なマネジメント能力を鍛えることもできる。
<関連サイト>

18.北九州市立大学
国際環境工学部 環境生命工学科
国際環境工学研究科 環境システム専攻
【環境経済】公害都市で有名だった北九州市が、マイナスイメージをてこに環境問題に取り組み、地域政策、大学教育に力を入れた。経済学系の松本亨先生のもとで環境システム論を学ぶことができる。
<研究者>
・松本亨 →研究室HP
<関連サイト>

19.大阪工業大学
工学部 環境工学科
工学研究科 環境工学専攻
【ごみ分析】京都大から移った有害有機化合物研究の渡辺信久先生のもと、伝統的な環境工学を核に教育研究をしている。福岡先生も、歴史ある京大の廃棄物研究の出身。
<研究者>
・渡辺信久 →研究室HP(循環基盤工学)
・福岡雅子 →研究室HP(地域循環研究室)
<関連サイト>

20.大阪産業大学
デザイン工学部 環境理工学科
人間環境学研究科 人間環境学専攻
【住民参加】生活者の視点から廃棄物、循環問題を捉える。花田眞理子教授、花嶋温子講師という花コンビの女性研究者が支えている。
<研究者>
・花田眞理子
・花嶋温子
<関連サイト>
世界へ出るなら
ゴミ問題の日本の研究レベルは、世界的に見ても非常に高く、衛生工学科の設立も早かった。高温多湿のアジアでは、ゴミの腐敗が早く、衛生問題の解決が急務であったため、焼却処理技術の開発が優先され、その結果きめ細かい処理技術は世界一となった。しかし、ゴミ資源のリサイクル、燃焼エネルギーの再利用などの研究では、ヨーロッパが圧倒的に進んでいる。もともとヨーロッパは生産者責任の観念が強く、基本的なリサイクルシステムが社会の中で確立している。循環型社会システムや法制度の研究など、日本が学ぶべきことは多い。逆に、日本は、すぐれた衛生工学の技術を、東南アジアの環境問題の解決に役立てたいところだ。


2.ベルリン工科大学(独)
循環型社会学の先進国、ドイツをリードする総合工科大学。家電リサイクルの研究などが盛んで、最近、若手女性教授のロッター教授が誕生したことが話題を呼んだ。それも今の同大学の元気さを示している。
■Technische Universität Berlin HP

3.ウイーン工科大学(オーストリア)
水、資源、廃棄物問題に総合的に取り組む古都、ウイーンの総合工科大学。地域代謝系をシステム工学的に研究するブラナー教授やその研究グループは欧州の資源リサイクル研究をリードしている。
■Technische Universität Wien HP
働くなら
ゴミ処理には行政が深く関わっているため、就職先としてはまずは公務員。しかし、多くの地方自治体ではゴミ問題は専門職ではなく、廃棄物処理の基本計画や処分場建設計画など具体的な課題は企業が請け負う。そんな自治体からの依頼を受けるのが、コンサルタント会社。いわば環境問題のプロデューサー役だ。一方、2000年成立の「循環型社会形成推進基本法」を受けて、自治体や企業がリサイクル施設や産業廃棄物処理施設の整備を進めているため、現在は焼却処理施設系のプラントメーカー、埋め立てや処理場のゼネコン系建設会社などが活気づいている。さらに、今後の規制強化によって、熱回収やリサイクル技術、土壌浄化など、より高度で専門的な知識や技術を持った人が求められることになる。循環型社会の形成をめざしてゴミ問題政策が多様化するのに合わせて、またアジア地域の経済成長に伴い、廃棄物管理や3R政策に関連する環境ビジネスの市場もますます拡大することは間違いない。

1.環境省
国の環境政策の本丸。水や大気の環境規制から温暖化対策、循環型社会形成、生物多様性対策まで、その政策の対象は幅広く、放射能汚染対策も視野に入ってきた。国際的な環境政策展開の動きも多様で、国際派としての活躍の場面も多い。


3.国立環境研究所
環境省の独立行政法人。東南アジアにおける廃棄物データベースを構築した大迫政浩先生ほか、循環型社会学の研究を続けるなら、優秀な研究者が目白押しにそろっている。

4.産業技術総合研究所
経済産業省の独立行政法人。日本の産業を支える環境・エネルギー、ライフサイエンス、情報通信・エレクトロニクス、ナノテクノロジー・材料・製造、計測・計量標準、地質という多様な6分野の研究を行う我が国最大級の公的研究機関。溶融炭酸塩を用いた使用済みの電子機器からレアメタルを回収する研究の加茂徹先生ほか、予算と人材に事欠かない。

5.タクマ
ボイラー製作のトップメーカー。工業用焼却処理加熱炉の開発では、他のメーカーがヨーロッパの技術を導入したのに対し、日本の気候や廃棄物の特性に合わせた独自の燃焼炉を生み出した。

6.エックス都市研究所
環境専門の研究本部を持つコンサルタント会社。国土交通省や環境省の委託を受けたゴミ処理の基本計画や、東京、神奈川、千葉など大都市圏の循環基本計画などを手掛けた。

7.パシフィックコンサルタンツ
ゴミ処理問題担当のセクションを持ち、処分施設の施工計画から地元住民に対する環境アセスメント報告会の実施まで、一手に行なっている環境コンサルタント。

8.鹿島建設
もと福岡大の花嶋先生らとともに環境に影響の少ない処理施設(クローズドシステム)の開発に成功。半地下式やスポーツ施設併用型など、新しいタイプの処理施設の研究では先駆的な存在だ。

9.大成建設
環境マネジメントのシステムといったソフト面にも、処理場建設などのハード面にも強い。開発部門も充実し、処理が難しい医療廃棄物の病院内処理システムや建築廃材の巡回収集車などを開発。
循環型社会工学/リサイクル工学/ゴミ問題
◆トピックス1
20世紀の成長を支えた炉の技術は、21世紀の課題、再資源化への答を出せるか?
◆トピックス2
循環型社会工学のニューウェーブ:レアメタル、バイオマス、そして災害廃棄物
◆学問ことば解説
循環型社会形成推進基本法|市民運動、合意形成/行政|有害廃棄物の処理・管理|LCA