環境・バイオの最前線
応用昆虫学の研究者

オールマイティの若き世界的研究者
松浦健二
京都大学 農学部 資源生物科学科/農学研究科 応用生物科学専攻 植物保護科学講座
【昆虫生態学】シロアリを対象に昆虫の社会生態の進化のメカニズムを研究。シロアリの女王フェロモンの特定に世界で初めて成功。著書『シロアリ-女王様、その手がありましたか!』ではシロアリの「不思議の国」の知恵を書いた。殺虫剤を入れた擬似卵を巣内に導入するという革新的発明の駆除技術を考案。基礎から応用まで両輪で活躍する。世界的に名前を知られる若手教授。

チョウチョ好きの驚異の観察眼
荒川良
高知大学 農林海洋科学部 農林資源環境科学科/総合人間自然科学研究科 農学専攻
【天敵昆虫学】虫の研究ができるだけで幸せという、昆虫少年がそのまま大人になったような研究者。20年以上前の若き日、コナジラミの天敵ツヤコバチが卵を産みつける際に、すでに他のハチが産んだ卵が体内にあるとまずその卵を刺し殺してから自分の卵を産むという不思議な行動を発見。しばらく忘れられていたこの発見をアメリカの学者が追試験し、一躍有名に。医学部勤務時代、蚊の調査でインドネシアに行った時も、蚊には見向きもせずチョウチョばかり追いかけていたというエピソードも。最近は高知産の天敵昆虫を、県内限定で害虫防除に利用することを、地域ぐるみで実践している。

昆虫と植物の不思議なコミュニケーションの秘密を発見
高林純示
京都大学 理学研究科 生物科学専攻 植物学系/生態学研究センター 生態学研究部門
【天敵昆虫学】例えばキャベツはアオムシに葉を食べられる。ところが、キャベツはブレンドされた化学物質を出し、アオムシの天敵のハチを呼び寄せ、自らを守る。ブレンドされた化学物質は、天敵だけを呼ぶ高い特異性がある――高林先生はこのように不思議な植物のしくみを発見した。このしくみをうまく利用すれば農薬に頼らず植物を虫の害から守ることができる。そんな植物の織り成すコミュニケーションの秘密解明に挑む。著書『虫と草木のネットワーク』では、植物と昆虫たちの不思議な交信、匂いによるコミュニケーションと相互作用のしくみをやさしく紹介、生物間の多様な関係性の世界へ案内する。

昆虫のすごい能力を追う
戒能洋一
筑波大学 生命環境学群 生物資源学類/生命環境科学研究科 生物資源科学専攻
【応用昆虫学】例えば、茶の害虫チャノコカクモンハマキの天敵バチが寄主を探す学習能力があることがわかった。天敵昆虫の行動制御による生物的防除をはじめ、昆虫の行動生態学全般を研究する。昆虫界最強のギャング、スズメバチの一撃必殺の毒針、ハエが手を合わせる本当の理由など、昆虫のすごい能力を書いた著書『けんびきょうでわかった!いきもののスゴイ能力』が面白い。

植物保護・天敵利用のエコマスターになろう
大野和朗
宮崎大学 農学部 植物生産環境科学科(/農学研究科 生物生産科学専攻)
【天敵昆虫学】主な研究はずばり、天敵利用技術だ。マメの葉にもぐって食い荒らす害虫、マメハモグリバエの天敵となる寄生バチを発見し、実際に農家のハウスに持ち込んで防除効果を確認。ハウス栽培の盛んな宮崎の農家の人たちから絶大な信頼を得ている。「宮崎大学は有用生物の多様性の維持・利用をめざす研究をリードします。あなたも植物保護や天敵利用のエコ・マスターになりませんか!」と高校生に呼びかけている。

ハチはおまかせ
上野高敏
九州大学 農学部 生物資源環境学科 生物資源生産科学コース
/生物資源環境科学府 資源生物科学専攻
【天敵昆虫学、寄生】昆虫の中で最も進化したグループといわれる寄生バチの生態の研究で知られるが、実は昆虫の収集家としても有名。研究室はカブトムシやタマムシ等外国産の珍しい甲虫類のすばらしいコレクションでいっぱいだとか。

ナミテントウムシのオス殺しバクテリアに挑む
三浦一芸
農業・食品産業技術総合研究機構
【生物的防除】ナミテントウはオス殺しバクテリアにより産卵された卵のうち半分が死亡し、孵化するのはメスばかりの現象が知られている。なぜナミテントウではオス殺しバクテリアの感染率が高いのか? チョウチョなど鱗翅目では性比がオスに偏っているのはなぜか? 農薬に頼らない世界最先端の環境保全型・害虫防御技術は? 等々について幅広く研究を続けている。

寄生バチの謎を追え
前藤薫
神戸大学 農学部 生命機能科学科 環境生物学コース/農学研究科 生命機能科学専攻
【昆虫多様性生態学】様々な昆虫の生態と分類を扱うが、その中でも主に寄生バチとゴミムシ(ひどい名前だね!でも別に汚い環境にばかりいるわけじゃない)の研究をしている。寄生バチとは、昆虫の体に卵を産み寄生するハチの仲間のことだ。この寄生バチは環境保全型の害虫防除技術に利用される。前藤研では、寄生バチを飼育し、その行動や遺伝的性質を調べその謎に迫る。


新種タマバチ発見!
阿部芳久
九州大学 地球社会統合科学府 地球社会統合科学専攻
【昆虫生態学、分類学】2010年、九州大伊都キャンパスの「生物多様性保全ゾーン」で新種のタマバチを発見し、マスコミ等でも大きく取り上げられた。キンゼイレポートで有名なキンゼイ博士は、性の科学者として名をはせる前には、タマバチの分類学者だった。彼はタマバチの起源はアメリカであると考えた。しかし阿部先生の研究が進めばアジアの方がアメリカよりもタマバチの種レベルの多様性は高いということになるかもしれない。アジアとアメリカ、ヨーロッパのタマバチの系統解析を行い、タマバチの起源に迫る。

熱帯の生態系に迫る
緒方一夫
九州大学 農学部 生物資源環境学科 生物資源生産科学コース/生物資源環境科学府 資源生物科学専攻/熱帯農学研究センター
【昆虫分類学】キャンベラに1年間滞在し、オーストラリアのアリ類の分類学的研究を行った。現在は熱帯のアリ類の系統分類学や生物地理学を中心とし、さらに熱帯の生態系における生物多様性に関する研究を行っている。著書は『ハチとアリの自然史―本能の進化学』。

クワガタムシを追って世界へ
荒谷邦雄
九州大学 共創学部 共創学科/地球社会統合科学府 地球社会統合科学専攻
【昆虫生態学】クワガタムシを題材に生物の進化の問題に取り組んでいる。この問題を追求するため、日本国内はもちろん世界各国に足をのばし、野外におけるクワガタムシの生態や行動を調査する一方、飼育による幼虫の栄養生理や生活史の解明、実験室内での形態比較、核型やDNA分析に至るまで幅広いアプローチを試みている。クワガタムシを歴史性を持った存在として総合的にとらえることを最終目標としている。

バイオロジカルコントロールの楽しい絵本を作った
仲井まどか
東京農工大学 農学部 応用生物科学科/農学府 農学専攻
【生物的防除】野外で昆虫の観察をしていると、卵から成虫まで無事に成長する個体は非常に少ないということに驚かされる。これらの昆虫の死亡原因を探ると、様々な天敵と、ウイルスや微生物の病原体がある。仲井先生は、生理学と生態学という2つのアプローチで昆虫病原ウイルスの持つ巧妙な適応戦略の謎に迫る。また、化学農薬に替わる方法として、害虫防除の目的でウイルスや寄生バチなどの天敵を野外に散布する「バイオロジカルコントロール」を始めている。農薬の正しい使用や害虫について学ぶための楽しい「絵本」も作ったりしている。

飛ばないテントウムシを生み出す
世古智一
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター
【ナミテントウ、天敵育種】今、応用昆虫学の世界で話題は「飛翔能力のないテントウムシを作り出し、害虫駆除に利用できた」という話だ。ナミテントウというテントウムシは、古くから農業害虫のアブラムシの防除に利用できないかと考えられてきた。欠点は、ナミテントウは飛んでしまうこと。世古先生は育種改良によってそれを克服した。まさに応用昆虫学界のニューウエーブなのだ。若い学生へ「チャンスをものにするには、日ごろから多くの研究者と交流し、自分の研究を積極的にPRしていくこと」とメッセージを送っている。


恋するオスが進化する?
宮竹貴久
岡山大学 農学部 総合農業科学科 環境生態学コース/環境生命科学研究科 生命環境学専攻
【昆虫生態学】生物が交尾を行う時間は生物時計に支配される。ということは、オスメスの時計遺伝子の違いは、交尾を行う機会を失わせる生殖隔離を起こし、種分化の引き金になりうる。そこでハエ、蛾などの昆虫を材料として、交尾前に生殖隔離の実態と、時計遺伝子の解析を進めてみた――このように宮竹先生の昆虫を使った進化生態学研究はユニークだ。自身の研究をベースに『恋するオスが進化する』という新書を出版。オスとメスで違う「セックスの意味」、なぜセックスに振り回されるのは男なのか、など進化論で納得のいく1冊を書きあげた。

昆虫の面白さを子供にも伝えたい
野村昌史
千葉大学 園芸学部 園芸学科 生物生産環境学プログラム/園芸学研究科 環境園芸学専攻
【昆虫分子系統学】東京生まれ、東京育ち、専門は応用昆虫学および昆虫分子系統学。クサカゲロウなどを用いた害虫防除の研究をしている。最近はデジカメで撮影した成果をサイト「戸定の昆虫」にて公開中。身近な昆虫を見る面白さを子供たちに伝えられればと夏休みには「夏休み昆虫教室」を実施。ビートルズが好き。著書『観察する目が変わる昆虫学入門』は写真・図版が豊富で中高生に最適の入門書と評判だ。


謎の昆虫=アリ博士
伊藤文紀
香川大学 農学部 応用生物科学科 環境科学コース/農学研究科 応用生物・希少糖科学専攻
【昆虫生態学】アリは意外に謎の多い昆虫だ。アリは陸上で最も繁栄した動物の1つという。様々な他の動物にも大きな影響を与えている。家屋に侵入する害虫でもある。アリは日本にもたくさんいるが、熱帯地域に数多く生息している。そこでアリ博士は、日本でアリの防除をするだけでなく、インドネシアやマレーシアにしばしば出かけ、現地研究者と共同研究を進めている。

カブトムシ博士
吉冨博之
愛媛大学 農学部 食料生産学科 農業生産学コース/農学研究科 食料生産学専攻
【昆虫分類学】昆虫類の中でも最も種の多様性の高い、甲虫類(カブトムシ)の専門家。フィールド調査に加え、これまでの調査で愛媛大ミュージアムに蓄積された標本の研究を進め、これまでに100種以上の新種を発見し学術論文として発表している。
応用昆虫学を知る
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◆学問ことば解説
昆虫分類学/昆虫生態学/昆虫生理学、生化学、遺伝子工学