気象学・気候学
スーパーコンピュータを使った熱帯巨大雲塊の予測
~地球規模の気候・環境変動予測モデル
木本昌秀先生 東京大学 大気海洋研究所

木本先生監修の本
『天気と気象 異常気象のすべてがわかる!』
佐藤公俊:著、木本昌秀:監修(学研パブリッシング)
大気、気圧、積乱雲、前線などの気象の基本や天気図、天気予報にはじまり、ゲリラ豪雨、竜巻、豪雪、猛暑など異常気象や、温暖化の影響など、天気と気象について、カラー図解でよくわかる。 [出版社のサイトへ]
第1回 スパコンを使った気象モデル~なぜ「京」が必要か

スーパーコンピュータ「京」は世界でもダントツに速いスパコンです。大規模な気象モデルにはスパコンは欠かせません。我々は「京」を使い、「防災・減災に資する地球変動予測」というテーマで、地球規模の気候・環境変動予測に関する研究を行いました。人類の未来を決める地球温暖化予測にも寄与する、私たちの開発した「全球雲システム解像モデル」という気象モデルの方法について話しましょう。
みなさんが中学のときに習った理科の原理を使って、地球の気候変動を計算します。それを使ってコンピュータの中でシミュレーションします。というのは地球について何が起こっているのか、実験では確かめられません。なにせ二酸化炭素がちょっと増えただけでも温暖化するんじゃないかと、世界中で大騒ぎになるんです。そこで次善の策として、我々の気象の知識をコンピュータに教え込んで、その現象をシミュレーションで捉えるんですね。そういう方法を考えました。
さてその予測の計算の仕方ですが、専門的に言うと、微分を使います。微分は高校で習いますが、空間の各点、各点での局所的な振る舞いを調べる解析法のことです。空気の対流現象のなどの各点をとって連続的な振る舞いをする現象を調べるには、微分は必要なわけです。しかし、スパコンに微分なんて計算はできません。コンピュータって実はそんなに賢くない(笑い)。
仕方がないから微分に準じた、近似的な方法を、我々がコンピュータに教えてやって、計算させる。そんな方法を取ります。もう少し具体的に言うと、地球を縦×横×高さの非常に細かい計算格子というものに分割します。たとえ話をすると、地球儀を作るとき、世界地図を短冊状に切って張り合わせれば、円球を作れます。それと同様、この計算格子は細かければ細かいほど、なめらかな現実の地球全体の気象を捉えることができるわけです。
今回行った計算では、サッカーボールの模様をどんどん細かくしていったような格子を使いました。スパコン「京」を使うと、従来のコンピュータを用いた気象モデルと比べてはるかに細かくすることができます。従来の計算格子の間隔は数100kmというマス目でしたが、京で用いた計算格子のマス目の間隔は最小で870メートル。なんと最大で100分の1以上細かく見られる精度です。つまり「京」は、より現実に近い解像度を実現できたわけです。それによって、今までできなかった雲の対流を直接計算できるようになり、積乱雲の構造そのものを見ることができるようになったのです。

※2014.8.23「京」未来をひらくスーパーコンピュータ 講演より
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『天気と気象 異常気象のすべてがわかる!』
佐藤公俊:著、木本昌秀:監修(学研パブリッシング)
大気、気圧、積乱雲、前線などの気象の基本や天気図、天気予報にはじまり、ゲリラ豪雨、竜巻、豪雪、猛暑など異常気象や、温暖化の影響など、天気と気象について、カラー図解でよくわかる。
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『異常気象と人類の選択』
江守正多(角川SSC新書)
著者は気象学者にして、コンピュータシミュレーションによる地球温暖化の将来予測とリスク論の専門家。異常気象と温暖化の関係を解説し、さらに、温暖化の科学についての誤解を論破している。2章では、3.11以降、地球温暖化問題をどのように考えればよいか提案。
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『気候は変えられるか?』
鬼頭昭雄(ウェッジ)
酷暑、豪雨、台風。これまでにない記録的な気象現象の数々。異常気象はなぜ起こるのか。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告執筆者が解説、気候のしくみがよくわかる。
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『都市型集中豪雨はなぜ起こる?―台風でも前線でもない大雨の正体』
三上岳彦(技術評論社)
都市部で近年増えている、数時間という短時間に爆発的に降る都市型集中豪雨について解説。雨が降るしくみや台風などの基礎知識もわかる。著者は、帝京大学教授・首都大学東京名誉教授で、都市気候・気候変動が専門。
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