HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)

整理整頓好きが、効率的な「ユーザインタフェース」作りへの関心につながる

加藤淳先生インタビュー

産業技術総合研究所 情報技術研究部門 メディアインタラクション研究グループ

◆ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(Human-Computer Interaction) とはどのような研究分野でしょうか。

 

Human-Computer Interaction (HCI)は、人とコンピュータの関係をよりよくしていこうという未来志向の新しい学問です。例えば、スマートフォンでは二本指を使って写真や地図を回転させたり拡大縮小させたりできますが、これは誰かがそう意図してプログラムしたから、そのような動作になっています。スマートフォンに限らず、人が情報機器を触ったときの動作は、すべて誰かの意図によってデザインされています。HCIは、そのようなインタラクションデザインを提案し、人に使ってもらう評価実験などにより実証して、みんなに使ってもらおうという研究分野です。インタラクションデザインを実装するためには情報科学の知識が必要ですし、人を理解するためには心理学や認知科学などの素養も必要になります。

 

今どき情報機器が関与しない社会活動は皆無であり、その意味でHCIの影響範囲は非常に幅広く大きいものになってきています。人の健康意識を効果的に高められるスマートウォッチの通知方法をデザインするのもHCIですし、自動運転車がその判断内容を乗務している人に伝える方法を考えるのもHCIです。ロボットへの直感的な指示出し手法を考えるのもHCIですが、とくに人とロボットの関係を考える分野としてHuman-Robot Interaction (HRI)と呼ばれることもあります。私は、HCIのなかでも情報機器をより直感的にプログラミングできるようにする研究をProgramming Experience (PX)と呼ぶよう提唱しています。

 

このように、HCIの研究は対象とする情報機器の種類(パソコン?スマートフォン?ロボット?)や人の活動(日常生活の支援?運転?事務作業?プログラミング?)の数だけ成立します。HCIを究めるには、産学(産業と学問)の内外に引かれている境界を飛び回れる知的好奇心が必要になると思います。

 

◆先生が目指しているものや、それが社会でどのような成果となるのかを教えてください。

 

すべての情報機器は人が記述したプログラム(アプリ)に沿って動作しています。私の研究は、プログラムを作りやすくすることで、もっと情報機器が人の役に立つ社会を実現しようというものです。プログラムを作る行為は一般にプログラミングと呼ばれています。私は、IPSJ-ONEの講演でも紹介したようにプログラミング環境を改善する研究をしてきました。これによってプログラムを作る人、つまりプログラマ(ソフトウェアエンジニア)の能率が上がり、最終的にはみなさんが使っている情報機器の使い勝手が向上する、ということを期待しています。

 

一方で、私は今のプログラミングが難しすぎると感じています。料理が下ごしらえと調理に分けられ、そのためにさまざまな調理器具が用意されているように、「プログラミング」と一括りにされる活動も「コーディング」「パラメタ調整」「デバッグ」など複数のステップや種類に分けて考えることができ、それぞれに必要な知識、技能や、適しているユーザインタフェースが異なっています。例えば、私は「パラメタ調整」だけを切り出して誰でもできるようにするLive Tuningという技術を研究開発しました。これによって、いわゆる「プログラミング」ができない人でも、既存のプログラムをカスタマイズして世界に一つだけのプログラムを作れるようになりました。

 

私の研究は、既存のプログラミング環境を改善していくだけでなく、プログラミングの前提知識を持たない人も含むさまざまな人々が、それぞれの立場からプログラムをよりよくしていけるようなプラットフォームを構築することを目指しています。かつてロジックを精密に設計することを意味していた「プログラミング」は、機械学習やInternet of Thingsの台頭により、データを管理し、適切にパラメタ調整することも含めより幅広く複雑な活動に変容しつつあります。これは、従来のプログラマやソフトウェアエンジニアが担ってきた範囲を大きく超えるものです。そこで私は、自分の研究を通してプログラミングという行為を脱構築し、社会で広く分担できるようにしたいと考えています。

 

◆先生は研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。

 

研究テーマは、ゼロからは生まれません。自分の経験や先人たちの研究成果などを参考にしながら、社会のなかに転がっている問題を見つけるところからすべてが始まります。とくにHuman-Computer Interactionのような応用研究では、社会で今何が起こっているのか、よく観察することが必要になります。とはいえ、そのような一般論はあまり面白くないので、私がなぜ今の研究テーマに興味を持つに至ったのか考えてみます。

 

私は昔から、整理整頓が好きで、掃除が嫌いでした。授業を聞くことよりも、ノートをいかに効率よくきれいに取るかに興味がありました。中学、高校になってパソコンが使えるようになると、 DTP(Desktop Publishing)やWebデザインに熱中しました。

 

これら好きなことに共通しているのが、ものごとがうまく回る「ユーザインタフェース」を作るという行為です。整頓は、収納空間を便利なユーザインタフェースに仕立てる作業です。きれいなノートは、人に読みやすく誤解なく情報を伝えられるユーザインタフェースです。ノートが印刷冊子やWebページ になれば、これはDTPやWebデザイン になります。当時から「これはユーザインタフェースデザインだ!」と思っていたわけではないのですが、どうやらそういう兆候はあったようです。

 

嫌いなことに着目してみると、掃除や授業の聴講は何をどう工夫しても絶対にやらなければならない回数が減りません。一方、 整理整頓やノートテイキングで効率的なユーザインタフェースを作ることができれば、物をしまったり情報を探したりする回数は必ず減ります。このように、一度作ったらそのあとも効果が持続する「しくみ」に対する興味がとても強かったように思います。コンピュータの強みはまさにそういう「しくみ」をプログラミングによって簡単に作れるところにあるわけで、私が今プログラミングの研究をしているのも道理かもしれません。

 

◆この分野に関心を持った高校生への具体的なアドバイスをお願いします。

 

Human-Computer Interaction分野は非常に幅が広いので、その気になれば何でもHCIと結びつけることができます。大学入学前であれば、HCIの専門書を読むというより、HCI以外に何か一つ興味を持って深堀りしておくのが大事だと思います。例えば、本屋に行って、ふだんは見ないような棚も眺めてみてください。

 

私個人の研究について関心を持たれた方は、詳しくは以下のポートフォリオサイトをご覧ください。連絡先も書いてあります。

http://junkato.jp/ja

 

興味がわいたら

『ポピュラーサイエンスの時代―20世紀の暮らしと科学』

原 克(柏書房)

原氏の著書の多くは、大衆から見た科学技術のイメージを具体例を通して議論したもので、人とコンピュータの関わりを考えるHCI分野の研究に興味のある人なら面白く読める内容だと思います。ここでいう具体例とは、20世紀の大衆向け科学雑誌に掲載された新技術に関する記事です。科学技術が切り拓く未来を誰にでも分かりやすく伝えようという記事群は、人とコンピュータの新しい関係を研究用プロトタイプで示し、説得しようというHCI研究とだぶって見えます。そこから一歩引いて論じている本書は、豊富な図版と具体的な記述で読み物としても面白いし、今のHCI研究が50年後どう見えているか考える材料としても面白いでしょう。

ちなみに、この本が入手しづらい場合は、他にも同著者の本で大衆文化史を扱ったものがあるのでそちらでもよいと思います。(どれも上記のような読み方ができます。)

[出版社のサイトへ] 

『電脳コイル』

磯 光雄(監督)のテレビアニメ

「電脳メガネ」と呼ばれる眼鏡型のウェアラブルコンピュータが全世界に普及した社会が舞台。『攻殻機動隊』という作品が20世紀的サイバーパンクな未来像を描いたものだとすれば、『電脳コイル』はすぐそこにある未来を日常的な世界観の中で描いたものです。Augmented Reality (AR)/Mixed Reality (MR)/ Virtual Reality (VR)のような言葉がブームになる直前、ポケモンGOが配信されるよりずっと前に作られたものですが、そういった技術が実用化された社会像が非常に真っ当です。もちろん話も面白いので楽しんで見ることができます! HCI分野の研究者が太鼓判を押す近未来を舞台にした日常系アニメを見てみたい人は、ぜひどうぞ。

 

『翠星のガルガンティア』

村田和也(監督)のテレビアニメ

地球が温暖化でほぼ全面大洋で覆われ、人類のほとんどが宇宙で暮らしている時代を描いたSF作品です。宇宙生物と戦っていた少年が相棒のロボットと共に地球に不時着し、大洋上の船団のなかで言葉も通じないところから徐々に居場所を作っていき、仕事を通して社会の中に位置づく物語です。ロボットのユーザインタフェース設計にほんの少しだけ加藤が関わったことから、エンドロールに東京大学五十嵐研究室がクレジットされています。

裏テーマとして、人類が新しい環境に適応する際に、人体を侵襲的に改変して進化するべきなのか、それとも人を補完するロボットのような相棒を作って共生していくべきなのか、という議論があり、このような未来志向の思考実験は非常にHCI的です。HCI分野に興味のある人なら面白く視聴できると思います。

 

『serial experiments lain』

中村隆太郎(監督)のテレビアニメ

1998年に放映されたアニメとは思えないほど、人々がネットワークで繋がった時代を的確に描いた作品です。不気味なところもありますが、わくわくします。見る人を選ぶと思うので多くは語りません。

 

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