計算機システム<情報学>

研究テーマ探しは、自分を知り、社会を知ることから始まる

三輪忍先生インタビュー

電気通信大学 I類(情報系)/大学院情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻

◆先生の専門分野である「計算機システム」とはどのような学問でしょうか。

 

「計算機システム」は、「今よりも低コストでより高い性能を達成するコンピュータシステムをどのようにすれば作ることができるのか」を研究している分野です。

 

スーパーコンピュータのような超大型のコンピュータシステムから携帯情報端末のような小型のコンピュータシステムまで、あらゆるコンピュータシステムはより少ないコストでより高い性能を実現しようと発展してきました。

 

例えば、インターネット動画の視聴やTVゲームのプレイは、10年前はPCやゲーム専用機で行うのが普通でしたが、最近はスマートフォンで行うのが当たり前になっています。これは、10年前のPCやゲーム専用機に搭載されていたハードウェアが、今はスマートフォンに搭載できる程度にまで小型化・低消費電力化されたことが大きな理由です。

 

このように、コンピュータシステムの性能向上は、産業の発展に役立つだけではなく、私たちの生活様式をも変える大きな役割を果たしています。

 

◆研究が発展すれば社会にはどんな意味があるのでしょうか。

 

私は、より少ない消費電力でより高い性能を示すコンピュータシステムの構成方式を研究しています。最近では、スマートフォンからスーパーコンピュータまで、いずれのシステムにおいても電力当たりの性能が重要な評価指標となっています。この電力当たりの性能を改善する、次世代のコンピュータハードウェアやシステムソフトウェアの研究開発を行っています。

 

コンピュータの電力当たりの性能が改善されることによって、様々な恩恵を受けることができます。例えば、コンピュータの電力当たりの性能が現在の1,000倍になった社会を想像してみます。スマートフォンやタブレット端末もソーラー電卓のように太陽光で駆動できるようになり、いちいち充電する必要がなくなるでしょう。また、日本国内のIT機器の総消費電力は、原子力発電所の総発電量に匹敵すると言われていますので、コンピュータの電力当たりの性能が1,000倍になった社会では原子力発電所が必要ないかもしれません。このような社会の実現を目指して日々研究を行っています。

 

◆先生は研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。

 

研究テーマを決める上で大事なことは、まずは自分の興味がどこに向いているのかを知ることです。興味のある研究テーマでなければ研究に打ち込むことはできません。私の場合は、現在のコンピュータはどんな場合に電力を無駄に消費しているのかという問題に興味があり、それをもっと詳しく知りたいというのが研究のモチベーションになっています。

 

次に、工学では、世の中をよく知ることが重要です。世の中で今どのようなことが問題になっているのか、将来どのようなことが問題になりそうかを、様々な情報を元に分析します。工学研究は社会の役に立つことが求められますので、世の中の顕在的・潜在的なニーズを常に把握しておく必要があります。

 

私は、自分の興味の対象と社会のニーズが合致した時に、私が夢中になることができ、社会的に研究する価値があるということで、そのテーマを研究テーマとしています。

 

◆この分野に関心を持った高校生に、アドバイスをいただけますか。

  

専門知識は大学に入ってから身につけることができますし、研究方法は研究室に配属されてから学ぶことができます。ですから、高校生の間は基礎学力を伸ばすことに重点を置いた方がよいでしょう。

 

例えば、私の分野では、電磁気などの物理の知識、微積分や線形代数などの数学の知識が研究で必要になることが度々あります。また、研究者は論文や口頭で研究成果を発表しますが、人にわかりやすい論文を書き、プレゼンを行うためには、日本語や英語で論理的な文章を構成する力が必要です。

 

学校の勉強もきちんと行った上で何か専門的なことをしたい人は、プログラミングの勉強から始めるとよいと思います。情報系の学科ではプログラミングに関する講義、実験、演習がたくさん行われており、大学では短い時間で高度な内容を教えるため、授業についていけない学生が毎年のように出ます。入学前にプログラムを一から自分で書くことができるようになっておくと、大学の授業についていくのが楽になると思います。

 

◆先生は、高校時代は、何に熱中していましたか。

 

自宅が高校の近くだったため、週末になると同級生を自宅に呼んで、よく麻雀を行っていました。あまり真面目な学生ではなかったですね(笑)。

 

麻雀は4人で行うのですが、麻雀の打ち方に4人の考え方の違いが如実に現れるんですね。場の状況を考慮しながら慎重に手を進める人とか、最初から完成形をイメージして一直線に手を進める人とか。麻雀を一緒にするとその人の考え方の癖みたいなものがわかって面白かったです。また相手の手を予想して、自分の読みが当たった時は楽しかったですね。

 

研究者にも様々なタイプの人がいて、私は、研究テーマを選ぶ際の分野の中での位置づけ、提案手法を初めて聞いた時の直観的な良し悪し、研究者としての着眼点の鋭さなど、研究上の判断を大事にする傾向があります。麻雀も判断力が問われるゲームですので、高校時代の経験が今の私の研究スタイルにも多少影響しているのかもしれません。

 

◆先生の研究室の卒業生は、どのような仕事をされていますか。

 

私の研究室はスタートしたばかりなので卒業生はまだいません。私が過去に在籍していた研究室では、大手電機メーカー(日立、東芝、富士通など)やそのグループ会社のIT系の研究開発職に就く卒業生が多かったです。国内のほとんどのメーカーはコンピュータの製造業務から撤退してしまったため、コンピュータ設計の仕事をしている人はあまりいませんが、多くの人は、周辺ハードウェア設計やデバイスドライバ開発などのコンピュータハードウェアの知識を生かした仕事を今も行っています。

 

◆研究室やゼミでは、どのような指導をされていますか。

 

学生の自主性を尊重した指導を行っています。私は、学生本人がやりたいことをサポートするのが教員の役割だと思っていますので、各人の研究テーマは本人と相談を重ねながら設定しています。また、日々の研究活動は学生本人の自主性に任せています。教員は、毎週行われるゼミを通して各人の研究の進捗を定期的に確認し、研究の進め方をアドバイスします。その際は、各人の到達目標や説明方法を学生によって変えるなど、学生に応じた指導を行うようにしています。

 

 

◆三輪先生の研究室のHP

http://www.hpc.is.uec.ac.jp/miwa_lab/index-jp.html

 

計算機システム<情報学>でリードする大学・研究者

興味がわいたら

『スティーブ・ジョブズ I・II』

ウォルター・アイザックソン 井口耕二:訳(講談社)

Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズの伝記。マッキントッシュに代表される数々の洗練されたコンピュータが、どのようにして生み出されたのかを知ることができる。コンピュータに限らず、ものづくり全般に興味のある人は読んでおいて損はない本である。

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『攻殻機動隊』

士郎正宗(講談社コミックス)

IT技術が高度に発達した近未来の社会における犯罪者と公安組織の攻防を描いたSF漫画。映画化もされている。IT技術が発展し続けていくと、いずれこの漫画のような世界が訪れるかもしれない。この漫画をきっかけにコンピュータに興味を持つようになり、この分野に足を踏み入れた人も多い。

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『スーパーコンピューターを20万円で創る』

伊藤智義(集英社新書)

この本は、1980~2000年代にかけて東京大学で行われていた、GRAPEという天体シミュレーション専用コンピュータの研究開発を行うプロジェクトを題材としたノンフィクション小説です。著者の伊藤智義先生はこのプロジェクトの初期メンバーの1人で、プロジェクトの最初の頃の様子が伊藤先生の視点で描かれています。作中には専門用語も登場しますが、これらの用語がわからない人でも、コンピュータ開発の現場や大学の研究室の雰囲気を、プロジェクトXを見るような感覚で楽しむことができます。値段も高くない(680円+税)ので高校生の皆さんにお薦めの一冊です。

 

本書には著者がコンピュータの設計開発において試行錯誤するようすが描かれていますが、この場面は計算機システム分野の醍醐味をよく表しています。

 

コンピュータのハードウェア設計においては性能やハードウェア量などの様々な制約条件がありますが、これらの制約が相反することはよくあります。例えば、ハードウェア量を増やせばコンピュータの性能は一般に上がりますが、金銭的・時間的なコストも上昇するのでハードウェア量の増加はなるべく抑えたい、といった具合です。本書の中で1.5乗を計算する回路の計算精度を8ビットに落としてROMを使ったエピソードが紹介されていますが、このようにあまり重要ではない部分の性能を犠牲にしてハードウェアを簡単化することは今も一般的に行われており、ハードウェア設計の本質を表した非常に象徴的なシーンだと思います。

 

この場面に象徴されるように、ハードウェア設計者には様々な制約条件をバランスする最適な設計を創ることが求められており、熟慮の末によい設計ができた時の喜びは格別なものがあります。私たち、計算機システム分野の研究者は、そのような設計を日々探求しています。

 

理系の大学生は4年生になると研究室に配属されて指導教員の下で研究生活を送るようになります。大学院の修士課程に進学すれば、学部の最後1年+修士2年の計3年間、研究に打ち込むことになります。この本には、著者の伊藤先生が大学4年生から博士後期課程を中退するまで過ごした研究室のようすが詳細に描かれています。天体シミュレーション専用のコンピュータを作るという目標に向かってチームが努力する姿、またその過程で生じたチーム内での衝突などを読むと、高校の部活動のようで親近感を抱く人も多いのではないかと思います。

 

理系学生の多くがこのような毎日を過ごしています。おそらく今この瞬間にも、どこかの研究室で新たなドラマが生まれているのではないかと思います。この本を読んで、皆さんには研究をもっと身近に感じてほしいと思いますし、コンピュータの研究開発に興味を持つ人がもっと増えてほしいと思っています。

 

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