生命情報科学

生物の教科書を書き換える発見は情報科学が担う時代に

清水佳奈先生インタビュー

早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科/基幹理工学研究科 情報理工・情報通信専攻

◆先生がご専門の「生命情報科学」とはどのような研究分野でしょうか。

 

DNAの塩基配列やタンパク質の立体構造など、生命に関わる情報を計算機科学の手法を駆使して解析し、新しい知見を発見するのが生命情報科学です。例えば、生命の設計図であるゲノム配列の解析は、生命情報科学の中心的な課題です。ヒトの全ゲノムが初めて解読された2000年当時は、一人分のゲノムを読むのに数億ドル必要でしたが、今ではわずか1000ドルで読むことができるようになり、従来とは比べ物にならないほど大量のゲノムデータが手に入るようになりました。こうしたデータを計算機科学の高度な技術を駆使して解析することで、病気の原因遺伝子を特定したり、人間にとって有用な機能を持つ微生物を見つけたりと、医学や生物学に貢献することができます。

 

◆先生の研究とその目指すところを教えてください。

 

私は特に、DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列から有用な情報を発見するためのアルゴリズムの開発を行ってきました。最近では、爆発的に増加しているゲノム情報を解析する手法の開発に興味を持っています。従来、生物学と言えば実験による研究が何よりも重視されてきましたが、ゲノム情報を安価に取得できるようになった昨今では、情報解析の重要性が非常に高まっています。例えば、10年前には、ガン細胞において発現して(使われて)いる遺伝子を網羅的に調べる方法はありませんでした。ところが、今では片っ端からゲノムを読んで、ガン細胞と正常細胞の差異を解析することができます。このような大量データの解析には情報科学の力が必要不可欠です。今後、生物の教科書が書き換わるような発見が多数報告されるでしょうが、その主役は情報解析になると期待されています。 

 

◆この分野に関心を持った高校生に、具体的なアドバイスをいただけますか。

 

・今年2016年に行われた国内最大級のバイオインフォマティクスの会議(http://www.jsbi.org/iibmp2016/)では、高校生の参加費用が無料でした。次年度以降も同様の方針となる可能性がありますので、このような機会を利用してみてください。

 

・研究室に遊びに来ていただいて構いません。

メール(shimizu.kana(アット)waseda.jp)にご連絡ください。(※(アット)は@に変えてください)

 

 

◆研究室やゼミでは、どのような指導をされていますか。

 

1.毎週の朝食会では、朝食をみんなで食べた後(話題を聞く方は食べながらでも可)、担当者が科学や工学に関する面白い話題を提供し、ディスカッションをします。最近では、ゲノム編集(ゲノム配列を自在に編集する技術)やAR(拡張現実空間)に関する話題提供がありました。

2.毎週のゼミでは、文献や論文の輪読、各自の研究発表を行います。

3.研究室内での活動のほかに、例えば、バイオハッカソン(世界各国から研究者、プログラム開発者が集結し、ソフトウェア開発を集中して行うイベント)への参加や、国内外の学会での研究発表も行っています。

 

◆清水先生の研究室HP

www.cbio.cs.waseda.ac.jp

◆Kana Shimizu's personal page

http://iskana.github.io/web/index.html

 

◆清水先生の他の記事を読む

生物学の新しい主役は情報科学」(早稲田大学のHPへ)

 

興味がわいたら

『利己的な遺伝子』

リチャード・ドーキンス 日高敏隆、岸由二、羽田節子、垂水雄二:訳(紀伊国屋書店)

遺伝子の視点から生物の進化を論じた古典的な名著です。生命と遺伝子の関係に興味のある方はぜひ。

[出版社のサイトへ]

『プラチナデータ』

東野圭吾(幻冬舎文庫)

全国民のゲノム配列がデータベース化された近未来のSFで、ゲノムと個人情報がテーマです。秘匿ゲノム検索に興味を持った方にお勧めです。

[出版社のサイトへ]

「Foldit」URL:https://fold.it/portal/

Center for Game Science at University of Washington、UW Department of Biochemistry.

http://fold.it/portal/info/credits

アミノ酸配列を折り畳んでタンパク質の立体構造を創るゲームです。科学とゲームの両方が好きという方にお勧めです。

 

タンパク質はアミノ酸が連なった一本の鎖ですが、生体内では折り畳まって一定の立体構造を形成しています。折畳まってドーナツのような形になるものもあれば、ダンベルのような形になるものもあります。アミノ酸は全部で20種類あり、各々が化学的な性質(例えば、プラスに帯電しているなど)を持っているので、アミノ酸の並びに固有な折畳まれ方があります。実は、この折り畳みの原理を解明するのはとても難しい課題の一つで、専門家が解析をしてもなかなか最適な構造を見つけることができない場合も多いのです。そこで、ワシントン大学を中心としたチームでは、世界中のゲーマーの力を利用することを考え、ここで紹介する「Foldit」と呼ばれるオンラインゲームを作ったのです。

 

これは、折り畳まれていない状態のアミノ酸の“鎖”を折り畳んで生体内の状態と同じ構造を創るゲームなのですが、プロの研究者が実際の研究で使う解析技術が組み込まれています。Folditは公開されるや否や瞬く間に人気になり、その結果、スーパーコンピューターを用いても解明することができなかった立体構造をわずかな時間で創ることができてしまったのです。この成果は、世界で最も権威のある科学雑誌「Nature」に論文として掲載され、論文の最終著者には「Foldit players」としてゲーマーたちが名を連ねました。これはとても異例なことです。ゲームとしても良くできていて、きっとハマってしまう人も多いでしょう。

 

このゲームには、研究者が実際に研究の現場で解析を行う際に使う技術が正確に組み込まれています。そのためタンパク質の立体構造(生物物理学の中心的な話題)に関して、ゲームで遊びながら知識を深めることができます。また、分野違いですがクラウドソーシングやゲーミフィケーションといった、情報科学の分野で注目されている要素も多分に含みます。

 

英語なので敷居が高いかもしれませんが、高校生には元論文にも挑戦してもらえるとよいかと思います。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2956414/

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清水佳奈先生 早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科/基幹理工学研究科 情報理工・情報通信専攻

 

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