商法学

なんでお母さんが株式会社の会議に出るの? ~会社組織の法

三浦治先生 中央大学 法学部

第4回 社会も会社をチェックしている

株式会社が株主のために経営されるべきだというしくみだとしても、株主が利益を得るためなら何をしてもよいという経営をしてしまったら、社会からの信頼を失ってあっという間につぶれてしまうでしょう。たとえば慈善事業や震災復興活動に寄付をすること自体は会社の財産を減らしますが、社会の評判を高めることでかえって株主の利益に資するかもしれません。エコ活動でもフェア・トレードでも、社会の動向に沿った活動をしていかなければ、会社の信頼を維持することはむずかしいでしょう。

 

会社が大きくなればなるほど、本業とするビジネスが社会の役に立ち、ひいて株主の利益になっているか、ビジネス以外の活動としても適切な活動をしているかなど、取締役にまかせっきりにはしておけず、取締役会や代表取締役をチェックすることが重要になってきます。

 

会社法上のチェック体制

 

会社法が用意しているチェック体制にもいろいろありますが、伝統的には、株主総会で取締役のほか「監査役」も選任して、監査役にチェックのための権限を認めるという方法がとられてきました。監査役は選任しない代わり、取締役会のチェック権限を強化するという会社のあり方も認めています。規模の大きな会社では、公認会計士などの専門家による会計監査も受けなければなりません。

 

会社経営は社会全体の問題

 

これらは会社のしくみとしてのチェック体制ですが、会社の活動は広く社会の目にさらされてもいます。長年の不正会計が明らかになって倒産してしまった会社もありますし、不正がなくても、業績悪化が続けば、他の会社に買収される危険もあります。他の会社からもチェックされているのです(これはあわよくば買収してやろうというチェックですが)。業績が悪化すれば株価も下がるという意味では、市場によるチェックもあります。

 

かつての日本では、会社のビジネスに使う資金を銀行から借りることがほとんどだったため、その会社の主要な取引銀行(メイン・バンク)が、その会社の経営に目を光らせていました。

 

株式会社は株主(実質的所有者)のために経営されるべきだといっても、会社の経営は多くの人たちに影響を与えます。会社経営に対するチェックは、社会全体の問題でもあるのです。

 

社会全体としてどのようなチェック体制を整え、しかも社会に役立つビジネスが多くの会社で行われるようになるためにはどうすればよいか、永遠の課題です。法学だけでなく、経営学でも会計学でもその他の学問領域でも問題になるでしょう。

 

 

おわり

 

『高校生からの法学入門』執筆者・三浦先生よりメッセージ

◆三浦先生執筆

「第7章 なんでお母さんが株式会社の会議に出るの?

本書の第7章では、株式会社の組織に対する私法による規制(会社法)を題材にしました。そして、私たちのまわりにはこれだけ多くの株式会社があるのに、たとえば「株式って何?」という疑問をもっている人が多いのではないかと思い、株式会社のしくみのうちもっとも根本的なところ、つまり「株主って誰?」をテーマにしました。

 

まず、伝統的な私法の目からみると株主が会社の実質的所有者と捉えられることを、示しています。株主が株主総会で経営者を選ぶことなどを通じて、会社を支配するのが株主であること、そのしくみがわかります。しかし株主もいろいろですから(100万人も株主がいると、様々な人がいるはずです)、株主たちが絶対的な支配者であっても困ります。株式会社は、それ自体、法人として社会において活動し、多くの人たちに影響を与える存在であるからです。社会全体で、会社の活動をチェックしていくしくみも必要です。社会が変われば、チェックのしかたも変わっていかざるをえません(たとえば、メインバンクの影響力の変化、「ある種の多数株主」(これは機関投資家を意味しています)への期待)。

 

株主を会社の実質的所有者と捉えつつ、株式会社の活動が、適法に、また社会全体にとっても望ましい方向で行われるようなしくみを整えていくことが大事です。そのような中で、株主を会社の実質的所有者と捉えるというもっとも根本的なところにも見直しが必要になってくるかもしれないとも書きました(それは、上記の「伝統的な私法の目」というものに修正を加えていくことでもあります)。

 

法は社会とともにありますし、他の学問領域とも関連します。法を勉強するということは、よりよい社会をつくっていくために、ひとりよがりの考えに陥ることなく社会に対する見方を育んでいくための、一つの重要な方法だということでしょう。

 

※尚、本記事は、先生の執筆記事からの一部紹介です。

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