日本文化論
僧侶か神職になりたかったが研究が面白くて教員に。関心に沿って自由に学べば面白い道が開ける
津城寛文先生インタビュー
津城寛文先生 筑波大学 人文・文化学群 比較文化学類/人文社会科学研究科 国際日本研究専攻

◆先生が今後さらに発展させようとしているご研究を教えてください。
3つあります。
1つめは、「公共宗教」論との関連で、現代社会と宗教のかかわりについて、宗教が戦争やテロの口実となり、差別や憎悪の根っこになっていることを、浮き彫りにしたいと考えています。世界から少しでも宗教に由来する紛争が減ることは、世界全体の利益になります。
2つめは、「近代スピリチュアリズム」論との関連で、死生観に「死後」の信仰を組み込むことを試みます。死生観がしっかりしていることは、必ず訪れる死を、心確かに迎える準備になり、多くの高齢者の安心に貢献できるでしょう。
3つめは、「日本文化」論との関連で、グローバル化を求められる学術世界で危うくなっている日本語を、翻訳の問題を中心に、適切に位置付けたいと考えています。母語、とくに日本語のような豊かな作品を持った母語は、貴重な財産であり、これを保護、維持、発展させることは、日本にとって、また世界全体にとっても、有益です。
◆先生が指導されている学生や大学院生の研究テーマを教えてください。
・宗教間対話(宗教学)
・死者祭祀(宗教学)
・近代日本の政教関係(宗教学)
・原風景(日本研究)
・日本文化の翻訳(日本研究)
◆先生のゼミの卒業生は、どんな就職先で、どんな仕事をされていますか。
図書館職員、教員、公務員。特殊なものとして、仏教僧、フリーの神職、宗教団体の事務局職員。
◆授業やゼミでは、どのような指導、内容の講義をされていますか。また、どのような学生が、先生の分野の研究には向いていますか。
講義では、自分の研究テーマを中心に、関連する話題を講義しています。演習では、学生の好きなテーマでレポートをしてもらい、私の視点からコメントし指導します。
向いている学生としては、政治的、社会学的な「公共宗教」に関心のある学生、死者観や他界観など、「スピリチュアリティ」「スピリチュアリズム」に関心がある学生です。また、日本文化の深層や頂点的な達成(能、和歌など)に関心のある学生です。
大学院は、出ても就職が難しいので、積極的には受け入れていません。
◆先生は研究テーマをどのように出会われたのでしょうか。
もともと、中学生くらいから宗教や文学に関心があって、僧侶や神職、物書きになりたかったのですが、本を読んで勉強しているうちに、研究も面白くなってきて、大学教員になりました。授業や受験勉強以外に、自分の関心に沿って自由に学び考えると、自分にとって面白い道が開けることがあります。
◆この分野に関心を持った高校生に、具体的なアドバイスをお願いします。
どんな分野に関心を持つにしても、まず関心のある本を中心に、気になる本や芸術作品を手当たり次第に吸収すること。今はキーワードを入力すると、図書や作品が簡単に検索できます。学校の図書室はあまり本が多くないと思うので、公立図書館に通う習慣をつけると、基礎学力、基礎知識が増えるでしょう。この、一見無駄なような基礎がないと、あとあとの研究に、広がりと深さが出てきません。
◆高校生でも考えられる身近な研究テーマをお願いします。
お盆の墓参り、正月の初詣は、多くの人が経験するが、どういう意識で行っているか、家族や友達に聞いて、まとめてみてはいかがでしょう(宗教学)。身近な外国人、あるいは異文化体験者に、違和感、カルチャーショックを聞いて、まとめてみてはどうでしょう(日本文化研究)。
◆高校時代は、何に熱中していましたか。
読書に熱中し、とくに高校2年の夏に、ドストエフスキーを読みふけり、深刻な危機を体験し、成績が急降下しました。このような読書は、高校生には敢えて勧めません。
◆こちらからも先生の記事が読めます◆
◆先生のブログ
◆先生の論文記事
・「死者の幻影・再考――非常事が増幅する合法性の問題」『宗教と倫理』第14号
・「日本オリジナルの人文社会系キーワード」『国際日本研究』第8号
興味がわいたら Book Guide

『菊と刀』
ルース・ベネディクト 長谷川松治:訳(講談社学術文庫)
70年くらい前に、日本語もできず、日本に来たこともない文化人類学者によって書かれた、日本論の古典。欠点を含めて、作品として味わう価値のある本です。
この本は、誤解を含めて、他者理解とはなにか、どうあり得るかというヒントを多く含んでいます。とくに、課題設定の仕方が、うまい。これはセンスの問題であり、著者が詩人であったことが、決定的です。鈍感な研究者は、何を研究しても、理解が鈍いが、繊細な研究者は、細かい材料を見る前に、何をどう考えるか、見通しができます。そのようなセンスのよさを、視点や課題設定の仕方から、学ぶことができます。作品として、物語として、見事である。
冒頭部分で、本書が明らかにしたい課題が、様々に言い換えられています。「生活の営み方に関する日本人の仮定」「日本人をして日本人たらしめているところのもの」「国民に共通の人生観を与える、焦点の合わせ方、遠近の取り方のこつ」「思想・感情の習慣」「習慣がその中に流し込まれる型、パターン」など。まとめると、日本的なパターンを見つけることが、『菊と刀』の課題です。
『菊と刀』からは、センスのよさを培うことを、再確認させられます。ベネディクトが採った方法は、文化人類学的なもので、研究対象は「日本人、日本文化」でしたが、他の研究対象も、センスよく扱うべきことを、この作品は例示しています。具体的な知識を得ようとしてこの本を読むと、著者の間違った解釈を学ぶか、あるいはそれを批判するだけか、どちらにしても、表面的な読み方になります。自分の関心のある対象を、どんな方法を使って研究し、どのような作品に仕上げるかの「考えるヒント」にしてください。
[出版社のサイトへ]

『「お迎え」されて人は逝く 終末期医療と看取りのいま』
奥野滋子(ポプラ新書)
超高齢化を迎え、どう生きるかとともに、どう死ぬかを考えることが必要な時代になりました。死生観を考える参考になります。若い人でも、「なぜ生きるのだろう?」と悩む人には、おすすめ。
[出版社のサイトへ]


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