エンタテインメント・ゲーム情報学

エンタテインメントの力で新しい視点、新しい行動を

福地健太郎先生インタビュー

明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科/先端数理科学研究科 先端メディアサイエンス専攻

◆先生が研究される「エンタテインメント分野」とはどのような分野でしょうか。

 

科学の面白さの一つは、私たちの日常的な感覚では知ることのできない現象をとらえることを可能にする、という点にあります。例えば地球温暖化のようにゆっくりと進行する現象は広範囲での長期的な観測と分析によって初めて理解することができます。

 

「役を演じる」行為も、日常的な「デフォルト」視点をいったん解除して、いつもと違った角度からものごとを捉えることを促します。「運動が苦手」という自己意識がデフォルトになっている人に、それとはちょっと異なる役を与えてみるとびっくりするくらい体が動いたりするのは、自分の自分に対する認識ですら不確かだからなのです。

 

エンタテインメントには、人を役に没頭させる強い力があります。この力を利用して、新しい視点を獲得し、行動につなげていくことを支援するのが、私たちの研究の中心テーマです。

 

◆どのように研究を進めていますか。

 

私は大学では研究室の指導教員として、卒業研究や修士研究に従事する学生の指導をしています。エンタテインメント分野を志す学生が私の研究室にはたくさんいますので、まずは「面白いもの」を作ってみよう、というところから研究はスタートします。それぞれの学生が、自分が魅力を感じる分野の作品を作るため、自ずとみな真剣に取り組んでいます。そこから研究のヒントがたくさん生まれてきます。

 

最近はバーチャルリアリティ技術を応用することが増えてきていますが、それにこだわらず、大画面ディスプレイを使うものや、遊園地のアトラクションのようなものまで、様々な技術を使うのもこの分野の特徴となっています。

 

◆先生は研究テーマをどのように見つけたのかを教えてください。

 

大学院生のときに従事していた研究が一段落したときに、その研究用に開発したソフトウェアを、その頃趣味で手掛けていた映像関係の仕事に応用できないかと、しばらくメインの研究をほったらかして試作を続けていました。そのソフトウェアをネットに公開したところ音楽関係者の目に留まったのが、最初のきっかけです。その後いくつかの音楽フェスティバルで使っていただいた時の観客の反応の観察が、現在の研究につながっています。

 

いまどきは作ったものを公開するのも容易ですから、どんどん作っては公開してみるのが、高校生にとっては一番の「研究」になると思います。

 

◆この分野に関心を持った高校生がより深く知るための具体的なアドバイスをいただけますか。

 

いろんな学会に顔を出してみるとよいでしょう。情報処理学会が主催する「インタラクション」という学会は年に一回東京で開催されています。高校生以下は情報処理学会のジュニア会員の仕組みを使えば無料で参加できます。また「エンタテインメントコンピューティング」という学会も毎年、場所を変えて開催されています。2019年は福岡で開催されます。こちらも高校生以下は無料で参加できます。

 

・インタラクション http://www.interaction-ipsj.org/

・エンタテインメントコンピューティング http://www.entcomp.org/

 

◆先生ご自身の高校時代は、何に熱中していたかを教えてください。

 

高校生の頃はプログラミングとゲームに明け暮れていました。その一方で、紙工作とかデザインの真似事など、興味を持てることはなんでもやっていました。本格的に受験勉強に取り組み始めたのは人よりちょっと遅かったかもしれません。ただ、受験勉強も「興味を持てること」の一環として、楽しんでやっていたように思います。

 

◆指導に関わってきた研究室の卒業生は、どのような就職先で、どのような仕事をされていますか。

 

ゲーム会社や映像制作会社などいわゆる「エンタメ企業」に就職する学生が多いです。また、広告系や、コンピュータを使った展示を手掛ける企業への就職も多いです。この分野では大学院まで進んでより深く学んだ人材が求められることも多いので、進学を選ぶ学生も少なくありません。

 

◆研究室などでの学生指導はどのようにされていますか。

 

できるだけ、学生が自主的に考え、行動するように指導しています。自分の興味関心からスタートする方がやはりのめりこみ方が違います。

 

◆関連サイト

◇研究室のHP Fukuchi Lab.

◇meiji net 記事

「不安? 便利? もう始まっている人工知能が働く社会」

 

興味がわいたら

『人間・この劇的なるもの』

福田恒存(新潮文庫)

福田恒存は、シェイクスピアやヘミングウェイらの作品の翻訳や、劇作家として著名な人物で、またすぐれた評論を数多く残しています。多くの評論で人間を「演技」という観点から読み解くことを試みており、「人間・この劇的なるもの」はその代表的なものです。一節を引用します。

 

「個性などというものを信じてはいけない。もしそんなものがあるとすれば、それは自分が演じたい役割ということにすぎぬ。」

 

学校での友達付き合いやオンラインでのコミュニケーションにときに流されつつ、「本当の自分」とはなにかと悩んだりしたときには、ぜひこの一節を思い出してみてください。

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『フィンチの嘴 ガラパゴスで起きている種の変貌』

ジョナサン・ワイナー(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

生物はいかにして進化するのか。気の遠くなるような長い年月をかけて、しかし日々少しずつ着実に変化していく「生命」というシステムを科学的に探究する課程を丁寧に追ったもの。

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『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』

ダン・アリエリー(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

人間の行動は決して合理的ではない。私たちはなんでこんなに間違えるのか?そしてそれは本当に間違いなのか?人間の認識能力についての研究と経済を結び付けた「行動経済学」の魅力を、豊富な実例で解説。

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『はじめて考えるときのように 「わかる」ための哲学的道案内』

野矢茂樹(PHP文庫)

「考える」ってどういうことだろう、どうやって「考え」ればよいのだろう。「考える」ことを「考える」本。といっても小難しい本ではなくて、詩集や写真集を眺めるように、時折思い出してパラパラとめくるだけでいい。そんな存在感を持った哲学書です。

 

「それぐらい自分で考えろ!」と突き放された経験はありませんか。でも、どうやって考えればいいのか、ちゃんと教えてもらったことはない人がほとんどでしょう。だからといって「どうやって考えればいいの?」とさっきの人に聞いたとしても、また「それぐらい自分で考えろ!」と言われるのが関の山。本書はその「考え方」を教えてくれる本です。しかし、考え方の実践的なノウハウが並んでいるわけではありません。「考える」ってどういうことなのかを、著者が一緒になって考えてくれる、そんな本です。そう、「考える」という行為は、決して自分一人で行うものではないのです。

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先生の研究を知る

人生は「ロール・プレイング」~演技を引き出すシステム設計

福地健太郎先生 

明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科/先端数理科学研究科 先端メディアサイエンス専攻