ニューリーダーからの1冊

比較認知科学が専門の川合伸幸先生(名古屋大学)の本!
『心の輪郭 比較認知科学から見た知性の進化』(北大路書房)
「ザリガニからネズミ、サル、チンパンジー、ヒトを含め、知性がどのように進化したか、またヒトに固有の知性とはどのようなものかを実験結果に基づきながら平易に解説しているので、高校生などにも読みやすいと思います」
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ヒトは本当に賢いか。サルもチンパンジーも驚くほど賢いことを証明
川合伸幸先生 名古屋大学
<専門分野:比較認知科学、認知科学、実験心理学>
人間はあらゆる動物のなかで飛びぬけて「賢い」。チンパンジーやゴリラも知性が相当高いことが近年あきらかになってきた。ではサルはどうか?実はサルも5年以上かけた訓練により「賢くなる」ことを証明。川合先生は、サルの祖先と人間が分岐するころの「知性」とはなにかということを、比較認知科学の手法で知ろうという研究を続けている。
先生
川合伸幸(かわいのぶゆき)
専門分野:比較認知科学、認知科学、実験心理学
名古屋大学大学院 情報科学研究科 メディア科学専攻 准教授
1966年京都府生まれ 京都市立日吉ケ丘高校出身

研究
実験心理学の中でも生物学に近い研究をしています。怒ったときや、そのあとに謝られた時の人間の脳や心拍の変化を調べる研究を行う一方で、「人間の賢さ」をサルやチンパンジー等、近縁な動物との比較を通じて解明しようとしています。
人間ともっとも近縁であるチンパンジーをはじめとした類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)の知性が高いことはわかっていましたが、サルも十分頭がいいのです。これまでサルに人間並みの知性を要求するような課題の訓練が行われたことは、それほどありませんでしたが、5年以上もかけた訓練によりサルは驚くほど賢いことを証明しました。
また、体重が300 gほどしかない南米のマーモセットという小型のサルに対するこんな実験があります。マーモセットに、2人の人物が食べ物を交換する演技を見せました。一つの条件では、お互いに食べ物をやり取りする互恵的なもので、もう一つは一方が公平な交換を拒否する非互恵的な条件で演技を行いました。それぞれの演技後に、2人の演技者が同時にマーモセットに食物を差し出し、マーモセットがどちらから食物を受け取るかを調べましたところ、マーモセットは、互恵的な演技を見た後では、2人の人物から同じ割合で食物を取りましたが、非互恵性を示す演技の後には、非互恵的な演技者から食物を受け取ることを避けました。ズルをした状況かどうかを見極め、ズルをする人からは餌をもらわなかったのです。
私たち人間は突然頭がよくなったわけではなく、サルの祖先と人間が分岐する頃にはある程度の知性を備えていたと考えられます。

この道に入ったきっかけ
多くの人も経験があると思いますが、中学生のころに、生命や精神について強く関心を持つようになりました。そこで、理解できないなりに、哲学や精神に関する入門書などを読んでみました。その結果、数千年も歴史のある学問に、自分の考えは埋没してしまっていることと、もし自分が研究をしても出番はないということがわかりました。心理学は、当時まだ100年しか歴史のない学問だったので、これなら自分もこの領域でなにかできるかもしれないと不遜なことを考え、心理学科のある大学だけを受験しました。
中高時代
小学校の高学年から高校卒業まで、先生が一人でやっている寺子屋のような塾に通っていました。変わった考えをする先生で、自分にユニークな発想があるなら、その先生に少なからぬ影響を受けていたのだと思います。
大学時代
大学生になってアルバイトをし、はじめて購入した車が、イタリア製の、エアコンも効かない狭い二人乗りの小さいスポーツカー。壊れてばかりで、いつも修理工場に入っていたような気がします。いつ壊れるかとひやひやしながらも、高速道路に乗らずに1日に何百キロも走ったのはよい思い出です。
1年生のときに社会心理学の田中國夫先生の講義を受けて、それ以降、大学院を含めて通算6年先生の授業を受けました。話がとびきりお上手で、とても楽しく、わかりやすく講義をされて、口下手な私にとってはあこがれの先生でした。
おすすめの映画
映画『ゴッドファーザー』F.コッポラ監督
人間の家族、社会、階層、正義についてよく理解できます。
映画『時計仕掛けのオレンジ』S.キューブリック監督
暴力の制御方法や、心理学で代表的な条件づけの手法がよく理解できます。人間の本性とその矯正について考察を深められます。
先生の専門分野に触れる本

『ヒトはいかにして知恵者となったのか』
ペーテル・ヤーデンフォシュ
井上逸兵:訳(研究社)
言語を含めた人間の思考がどのように進化してきたかを理解するための名著。

『心の輪郭 比較認知科学から見た知性の進化』
川合伸幸(北大路書房)
ザリガニからネズミ、サル、チンパンジー、ヒトを含め、知性がどのように進化したか、またヒトに固有の知性とはどのようなものかを実験結果に基づきながら平易に解説しているので、高校生などにも読みやすいと思います。
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『ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか』
川合伸幸(講談社現代新書)
ヒトは仲間を殺す珍しい動物です。しかし、見ず知らずの人のために、自分の命を犠牲にすることもあります。わたしたちヒトの本性とは獰猛なサルなのか、仲間に共感し助け合う生き物なのか、どちらなのでしょう。そんな疑問に答える一冊です。
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『コワイの認知科学』
川合伸幸(新曜社)
ヘビに対する恐怖を軸にして、コワイという感情はどういうものかを、心理学の実験や脳の研究でどのように調べてきたかを、わかりやすく説明しています。高校生を対象とした「認知科学のススメ」シリーズの一冊です。
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『はじめての認知科学』
内村直之、植田一博、今井むつみ、川合伸幸、嶋田総太郎、橋田浩一(新曜社)
認知科学とはどのような学問でしょうか。心理学や人工知能の研究に似ていますが、どんなことが研究されているのかがわかる一冊です。日本認知科学会が高校生向けに「認知科学のススメ」というシリーズを刊行した最初の一冊です。
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