ニューリーダーからの1冊

動物行動学が専門の沓掛展之先生(総合研究大学院大学)の本「動物行動学の教科書」

 

『行動生態学』

日本生態学会:編 沓掛展之、古賀庸憲(共立出版社)

適応とは何か、淘汰の仕組みやオス・メスの性差の意味など、進化と動物行動を結ぶ教科書。

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野生動物に名前を付けて観察。動物たちの不思議な「社会」を解き明かす

沓掛展之先生 総合研究大学院大学

<専門分野:動物行動学>

豪雪地帯に暮らすニホンザルを観察したり、電気も水道もないタンザニアでチンパンジーを追いかけたり、干上がりそうなカラハリ砂漠でミーアキャットの生き様を眺めたり……。個々の動物を根気よく観察するフィールドワーク(野外調査)を重視した動物行動学は、謎に満ちた動物の社会を解き明かそうとする学問だ。

 

 先生

沓掛展之(くつかけのぶゆき) 

専門分野:動物行動学

総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命共生体進化学専攻 講師

1975年東京都生まれ

 

手前はハダカデバネズミ
手前はハダカデバネズミ

 研究

私は動物が暮らす社会を研究しています。動物も、人間顔負けの複雑な社会の中で生活しています。それぞれの個体にとって、仲がいい相手もあれば、仲が悪い相手もいます。個体間で協力したり、意地悪をして誰かの足を引っ張り合ったりもします。「利己的な遺伝子」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、個体は、自分の利益を増やし、次の世代に自分の遺伝子をできるだけ多く残すように行動するのです。

 

動物の社会に関する研究は、今までも数多くされてきました。しかし、個体識別(個体を外見で見分けて、それぞれに名前を付けて区別する方法)に基づいて、誰が何をしたのかを記録することは、動物観察の基本中の基本にもかかわらず、多くの動物でなされていません。現在までに、ニホンザル、チンパンジーなどの霊長類、ミーアキャット(二本足で立ち、ひなたぼっこする姿が有名なマングースの仲間)やハダカデバネズミ(アリやハチのように女王とワーカーがいる地下に生息するネズミ)といった珍獣奇獣を対象に、彼らの行動観察をしてきました。

 

現在の生物学では、様々な種でのゲノムがデータベース化され、実際の動物を観察しなくとも、研究をすることは可能です。しかし、生物学の醍醐味は、実際の生物のありのままの姿・振る舞いを観察し、自分の五感を使って生命の神秘さを感じることにあると思っています。研究対象の命を奪う必要はありません。

 

ミーアキャットと
ミーアキャットと

この道に入ったきっかけ

物心がついたときから動物好きだったらしく、図鑑・テレビなどを見ては動物の知識を蓄えていたようです。が、生まれも育ちも東京で、野生動物を実際に観察する機会はありませんでした。昆虫少年でもありませんでした。いまから考えると「頭でっかち」な子どもだったと思います。 

 


中高時代

漠然とですが、動物カメラマンか、動物学者になりたいと考え始めました。が、その目標に向かって、具体的な活動をしていたわけではありません。受験のために勉強はしていましたが、「何の役に立つのだろう?」といつも疑問に思っていました。

 


大学時代

勉強に熱心な学生ではありませんでした。大学に入るときには、受験から解放され、「自分が好きな勉強しかしない」と決意していました。しかし、大学には、自分が興味ある動物行動学・生態学の講義はほとんどありませんでした。生物学の講義というと遺伝子や細胞などのミクロな現象を扱うものばかりで、入学時の決意を、渋々、取り下げることになりました。勉強する気がないので、成績もよくありませんでした。

 

大学での専攻を選ぶ際には、苦肉の策として自然人類学を選びました。ミクロな生物学を避けたら、骨や人体を扱うマクロな自然人類学にたどり着いたというわけです。人類学も面白かったのですが、それでも本当にやりたい研究分野でなかったため、勉強に身が入りませんでした。動物行動学の研究ができる大学院に入ったらば、真面目に勉強するつもりでした。

 

大学院進学の際も、苦肉の策として、認知行動科学という心理学色の強い専攻に進学しました。ずっと理系のつもりでいたので、大学院になって文転するとは思っていませんでした。が、ここでようやく自分がやりたかった動物行動学の研究を始めることができたというわけです。このように寄り道の多い進路選択をしてきましたが、様々な分野の知識・理論・考え方に触れることができたので、人類学や心理学の分野に身を置いたことがよかったと今は思っています。

 

大学院の中頃からか、自然科学の考え方(仮説を考える、データを分析する)や、科学者の生活(調査や学会で海外へ行く、著名な研究者と会って話をする)にも楽しみを感じるようになりました。動物と接する楽しみのみならず、これらの楽しみを知ることができたのは、とても幸運だったと思います。

 

「好きなことを仕事にするべきかどうか」という議論をよく聞きますが、僕は迷わず「仕事にするべき」と考えています。勉強や研究にはたくさんの苦労がありますが、「自分が知りたいことを明らかにするために必要だ」という明確な目的意識があると、どんな苦労とも付き合っていこうと感じることができます。

 


趣味・休日は?

最近は、動物行動学以外の分野の本を読むことが多いです。経済学、歴史、哲学、物理、科学史などです。学生のときに勉強していなかったので、とても新鮮な気持ちで勉強できます。

 


おすすめの本

『政治するサル』

F・ドゥ・バァール 西田利貞:訳(平凡社)

動物園のチンパンジーが繰り広げる政治と権力闘争の記録。

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『ワタリガラスの謎』

B・ハインリッチ 渡辺政隆:訳(どうぶつ社)

動物行動学の現場がわかる本。 

『心の窓 チンパンジーとの三十年』

J・グドール 高崎和美・高崎浩幸・伊谷純一郎:訳(どうぶつ社)

30年わたる野生チンパンジーの研究とその偉大な成果を紹介。


先生の専門分野に触れる本

『行動生態学』

N.B.デイビス、J.R.クレブス、S.A.ウエスト 野間口眞太郎、山岸哲、巌佐庸:訳(共立出版社)

海外で定評のある行動生態学の教科書の翻訳版。図表が多くてわかりやすい。

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『行動生態学』

日本生態学会 編 沓掛展之・古賀庸憲(共立出版社)

動物行動学の大学生向けの教科書。最先端の知識が含まれています。

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