この仕事をするならこんな学問が必要だ<化粧品業界編>

サイエンスの力で、お客さまが満足する化粧品づくりを

資生堂

田村昌平さん(前 資生堂イノベーションセンター研究推進部R&D企画グループ グループリーダー、現 資生堂中国研究所 副総経理)

 

大手化粧品メーカーの資生堂は、研究に大変な力を注いでいる企業です。皮膚科学に基づく数々の知見と界面化学を駆使した優れた製剤技術を有し、多くの化粧品を開発してきましたが、化粧品を使うお客さまの心理も科学すべく「ヒューマンサイエンス」にも、最近は力をいれています。資生堂リサーチセンター、R&D企画グループリーダー、田村昌平さんに、これからの化粧品開発に必要な学問について伺いました。

 

おすすめ本は『女が感じるサイエンス -美肌への誘い』

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第1回 使い心地の良さや、きれいになる効果を生み出す製剤技術

資生堂の中で、化粧品の研究・開発を担当する資生堂イノベーションセンターの大きなねらいは、「美を追求することによってお客さまの幸せに貢献する」ことです。化粧品ができるまでには、基礎研究-製品設計・開発―生産―品質管理など多くの仕事が関わります。

 

化粧品開発においてベースになるのは、膨大な化粧品原料の探索と、その原料を組み合わせる製剤技術です。これらによって心地よい使用感や美しさを導く効果を生み出しています。

 

水と油の混ぜ方を研究する「界面化学」

 

シミやシワは女性にとって大きな悩みです。この悩みを化粧品で解消するには、化粧品を使い続けていただく必要があります。使い続けたいと思う化粧品、すなわち使い心地がとても良い化粧品を作るために製剤技術が発達しました。学問で言うとコアになるのは「界面化学」です。化粧品の多くは水と油という、相反する物質からできています。この2つの成分の界面を化学的に研究する学問分野が「界面化学」です。水と油の界面を研究し混ぜ方を創意工夫することで、本当に様々な使い心地が実現できるのです。

 

また、レオロジー(rheology)も大切です。レオロジーとは、ギリシャ語で「流れる」に当たる「レオ」に由来し、日本語では流動学と訳される学問です。物質の流動と変形を扱う科学で、流体の高度処理技術を担う技術として、産業界では、プラスチック、ゴム、接着剤、食品の口当たりや喉ごしの評価などに幅広く利用されています。化粧品においては、レオロジーは、製品が肌に触れた時の着け心地・使い心地を物理評価するために活用します。

 

そしてもう1つ重要なのは、化粧品を使う人の心理評価です。使い心地を実感するお客さまの気持ちをきちんと捉え、満足いただける製剤を作ることこそが、何より大切です。 

 

このように界面化学を駆使し、レオロジー特性を自由自在に扱い、お客さまの気持ちに応えられる製剤を作ることが、化粧品開発には必要なのです。

 

この業界に興味がわいたら

『女が感じるサイエンス -美肌への誘い』

熊野可丸(丸善出版)

美しく健やかな肌を保つための基本内容や、化粧品の効用・化粧の可能性などが、わかりやすく記されています。また、化粧品には多くの研究知見や、それに基づいて開発された技術がたくさん応用されていますが、そういった研究・開発の実例にも触れています。ところどころにイラストも挿入されていて読みやすく、化粧品の研究をイメージするにはお薦めの一冊です。

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田村さんから高校生へのおススメ本

『皮膚は考える』

傳田光洋(岩波科学ライブラリー)

皮膚の捉え方が斬新で、生物の神秘を感じさせられる一冊。生物科学系を目指す方には是非読んでもらいたいです。

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『日本の曖昧力』

呉善花(PHP新書)

他国の方から見た日本の良さが記されており、自分たちは何者で、どういうことを誇れるのか、何を変えるべきかを考えるきっかけになる一冊です。

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『ハイブリッド』

木野龍逸(文春新書)

トヨタがプリウスを世に送り出すまでの開発物語。メーカーの研究・開発者を目指す方に「開発の醍醐味」、「組織のパワー」、「志の大切さ」を感じていただければと思います。

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