いじめ問題を考える

尾木ママが高校生と語った なぜ、いじめはなくならないの?

vol.6 いじめをなくす糸口(2) ~善玉ストレス・悪玉ストレスといじめ防止対策推進法案

女子高校生A
尾木先生の『脱いじめ論』を読んで、いじめをなくすには、まずいじめる側の視線に立って考えてみることが重要ということに、すごく共感しました。私はいじめっ子が特定の相手をいじめる原因は、ストレスにあると思う。高校生って意外に忙しく、すごくストレスを受けているし、それを本音で打ち明ける相手がいないんじゃないかということをすごく感じています。


尾木ママ
ストレスは、いじめでは大きな問題です。国際比較でいうと、日本はものすごいストレスのかかっている国なんです。2007年に発表されたOECD加盟国の比較データで15歳に聞いた「あなたは孤独を感じますか?」というアンケート調査があるんです。

ほとんどの国で「孤独を感じる」のは、5~10%だったんですが、日本の15歳はその中でダントツに高く、29.8%という数字だった。2番目に高い国はアイスランドで10.3%。一番低かったのはオランダで2.9%でした。15歳というのは思春期ですから孤独を感じていてもおかしくない年齢です。だからぼくはそれで日本はだめだというつもりはありませんが、ストレスのかかっている国であることは明らかになりました。

誤解してはいけないのは、ストレスには善玉と悪玉があるってこと。善玉ストレスのいい例は、例えばぼくの大好きなイチロー選手です。イチロー選手にはすごいストレスがかかっていると思う。でもそのストレスを、集中力を高めるいい方向に引き出している。いじめで問題なのは、悪玉ストレスがものすごくかかっているということなんです。

それと、いじめ解決の糸口としてよく言われる“絆”です。人と人が繋がることはすごく大切なことですが、今、日本の教育とか社会全体のムードとして、やたら絆って言います。個と個が自立して繋がっていく絆ならいいんですけど、一人ひとりが自立していなかったら、絆ってなんか得体の知れない、顔のないつながりになってしまいます。

いじめ問題解決の糸口で、最近の最も重要な出来事は、2013年6月21日、「いじめ防止対策法案」が議員立法で通ったことです。この法案はわかりやすく言えば、国を挙げていじめをなくそうという法案です。ぼく的に言えば、30年間いじめ問題に取り組んで、ようやくここまで煮詰まったという感じです。

もちろんできたものはかなり未熟です。法律案は、重大ないじめ事件に対し学校・地方公共団体に調査を行う組織・機関を設置すると定めていますが、それには県外に住む第三者の委員を任命すべきです。だって第三者委員会の委員長が県の教育長だったら、泥棒を捕まえるのに泥棒さんに委員長を任すようなものですからね。

今日、高校生の一人が「家で話し合える関係であってほしい」と言いました。親子で同じ希望を持って、豊かな国づくりというのかなあ、お互いが信頼できて、どう揺らいでも受け止めてくれる関係がなかったら、これから世界で生きていくことはできないと思う。それが本当の意味でのグローバル化じゃないでしょうか。


<おわり>

 

尾木直樹さんが中高生に贈るBooks

『古代への情熱―シュリーマン自伝―』

シュリーマン 訳/関楠生(新潮文庫

言葉を探求する情熱と語学の学び方がヒントになります

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『人生論ノート』

三木清

(新潮文庫

人生を悩み考える羅針盤

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『論語』

孔子(岩波文庫)

声に出して読むと、人生が見えてきます

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尾木直樹さんの本

『尾木ママの「脱いじめ」論』

尾木直樹(PHP文庫)

尾木ママによれば、いじめ問題の解決のポイントは3つ。
(1)加害者にやめさせること。加害者のゆがみをいやすこと。
(2)生徒が主役で克服すること。君たちが主役。
(3)LINEのルールを決めよう。

「現代では誰でもいじめの加害者にも被害者にもなりえますし、簡単に入れ替わります。中高生のキミたちには、いじめについて、特に現代のいじめの特徴と、 なぜ思春期ほどいじめはエスカレートしやすくなるのかを、発達段階の特性から知ってほしいと思います。それが、『脱いじめ』を考える第一歩になることでしょう」

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