NPO「Homedoor」、2015年Googleインパクトチャレンジグランプリ賞受賞!
受賞プログラムは「GPS による治安維持とホームレス雇用の両立」
受賞したNPO法人Homedoorは、女子大生だった川口加奈さんが中心となって始めたNPOです。川口さんと、彼女たちの活動の一つ、「HUBChari(ハブチャリ)」について紹介します。
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おっちゃんたちの命と尊厳を守る女子大生!生活保護・ホームレス問題と放置自転車問題を一気に解決する「HUBchari」
2012.05.16

14歳でホームレス問題に関わり始め、2012年キャンパスベンチャーグランプリ経済産業大臣賞を初めとする多数の賞を受賞。ワールドビジネスサテライト等、多くのメディアにもその活動が取り上げられた21歳(取材時)の現役女子大生、川口加奈さん。
NPO「Homedoor」の代表を務める彼女は一見フツーの女の子ですが、その言葉と眼差しからは、内面に秘めた強い思いがひしひしと伝わってきます。
「ホームレスのおっちゃんたちを助けたい…!」
その思いを胸に、川口さんが活動を始めたきっかけは何だったのでしょう? そして新たな事業「HUBChari」とは?
大阪市内だけで年間200人も亡くなっている…!
「中高一貫校に通っていたのですが、通学の途中で、たくさんのホームレスの人たちを見かけたんです。2003年度、ホームレスの方は大阪市だけで6,603人。
釜ヶ崎のあいりん地区は市内でも特に多い区域なのですが、豊かなはずの今の日本でなぜこれだけ多くの人が家を失うのだろう、と。」
こんな疑問を持った川口さんは、市民グループによる炊き出しに参加するようになります。生まれて初めて接するホームレスの「おっちゃん」たち。彼らの住む地域に何度も足を運び、言葉を交わしていくことで見えてきたのが、あまりにも意外なおっちゃんたちの「素顔」でした。

「出会ったホームレスのおっちゃんたちはみんないい人で、とても優しくしてくれたんです。それでホームレスの方のことを何も知らずに偏見を持っていた自分が悔しくて、罪滅ぼしというかなんというか、できることはないかと考えるようになったという気持ちが一番大きかったです。」
ホームレス状態はいわゆる「自己責任」でくくられてしまいがちです。でも、やむを得ない理由でホームレスになった人も大勢いるし、そんな環境でも人としての温かみを失わず、日々を生き抜いている人たちも大勢いる…。それが炊き出しに参加することで川口さんに見えた、おっちゃんたちの姿でした。
ですが、彼らは常に凍死、餓死、襲撃といった、「死」の恐怖と隣合わせで生きています。おにぎりを差し入れようと、寝ていると思ったおっちゃんに声をかけてみるとすでに亡くなっていた…なんてこともあったのだとか。大阪だけで年間200人ものホームレスの人が、その過酷な生活に耐え切れずに命を落としているという現実を、川口さんは活動を通して直視することになったのです。
特に川口さんが心を傷めたのが、同世代の少年による襲撃事件です。川口さんが知るホームレスのおっちゃんが襲撃で殺されてしまったり、寝ている時に突然ナイフで目を刺されてしまったりといった悲惨な事件が多発していたのです。その根底にあるのは「ホームレスの人=社会のゴミ」という偏見です。
おっちゃんたちは決してゴミなんかじゃない。自分のお父さんやお爺ちゃんと変わらない、同じ人なんだ。
このことを同年代のみんなに伝えれば、襲撃事件が減るのではないか…。そう考えた川口さんは、自分なりの行動をスタートしました。校内新聞や講演会などを通じて、ホームレスの方々の姿を発信し始めたのです。
おっちゃんの代弁者たれ!
川口さんが進学先を大阪市立大学に決めたのは、ホームレス問題の研究が一番進んでいたから。そして2年生の春に現在も活動しているNPO法人「Homedoor」を設立しました。
とはいえ、川口さん自身はソーシャルベンチャーを起業するつもりなんてなかったのだそう。3組しか参加できないNEC社会起業塾に史上最年少で参加することになったのも、立ち上げメンバーの一人が「活動するなら、組織としてきっちりさせよう」と、独断で申し込んだのがきっかけでした。

「私自身は起業しようなんて気は全くなくって(苦笑)。卒業したらどこかに就職して社会経験積んで、30歳くらいになったらまた本格的に問題に関わろうと思ってたくらいなんです。だから起業塾で起業家としてのイロハ全てを教わったようなものですね。大阪から東京まで通うのは本当に大変でしたけど(笑)
特に大きかったのは、リサーチの大切さ。メンターには「ニーズの代弁者たれ」と言われたのですが、本当にホームレスのおっちゃんの代弁者になるには、徹底したリサーチが必要なんです。でもこれがとても厳しいんですよね。その負担が大きくなりすぎて、残念ながら活動から離れざるを得なくなってしまったメンバーもいました。」
「Homedoor」が最初に手がけたのは「ココモーニング事業」。これは釜ヶ崎あいりん地区にあるカフェで、モーニングタイムにスタッフとしてメンバーが入り、ホームレスや生活保護受給者のおっちゃんたちと仲良くなるというものです。この活動を通じておっちゃんたちと仲良くなりつつ、起業塾で学んだリサーチを続けて行く中で、川口さんは、おっちゃんたちのある「強み」を発見します。
「自転車修理が得意なおっちゃん、多いんです。ホームレス生活中には自転車で缶集めをします。重い缶を長距離運ぶと自転車が壊れますから、自分で直しているうちに技術を身につけてしまうんです。これは活用できるんじゃないかと。
大阪では放置自転車もまた大きな社会問題となっています。だったら放置自転車を引き取っておしゃれに作りなおして売り、それをおっちゃんたちの支援金に充てたら良いんじゃないか、と、思いついたんです。」
「HUBchari」スタート!

ですが川口さんは、その計画を自らバッサリと却下してしまいます。これでは、一方的に与えるだけの従来型の支援と何ら変わらない。おっちゃんたちが生きがいを持って、自分が社会に必要とされていると感じながら働き、社会へと復帰する手助けにはならないと考えたのです。
こうして生まれたのが「HUBchari(ハブチャリ)」。放置自転車を使ったシェアサイクルのサービスです。
店舗やホテル等の軒先を使った「ポート」に自転車を置き、有料で貸し出します。借りたのとは別のポートで返却することもできるので、ちょっとした移動手段としてとても便利です。スタッフは生活保護の受給によって何とかホームレス状態を脱したものの、仕事を見つけられずにいるおっちゃんたち。つまりHUBchariはホームレス・生活保護問題と放置自転車問題の両方を同時に改善しようという試みなのです。
「Homedoor」が実証実験を行ったのは、2011年の夏でした。ポートの設置については、梅田ロフト、済美福祉センター、USTREAM CAFE OSAKA、谷町空庭といった大阪市内のスポットが協力に名乗りを挙げてくれました。
無料で行われた「HUBchari」は大好評で、「こういうサービスを待っていた!」といった喜びの声も多く寄せられたのだとか。また、利用者の約4割が軒先を提供した店舗に入店するなど、心強いデータも得られました。こうした準備段階を経て、いよいよ「HUBchari」が本格的にスタートします。
当初はほとんど川口さんが一人で運営していましたが、今ではポート設置をお願いするための飛び込み営業までこなしてくれる、心強い仲間たちがたくさん出来ました。ですが「HUBchari」が目指すのは、雇用と放置自転車問題の改善だけではありません。「HUBchari」事業に込められたもう一つの意味について、川口さんは切々と語ります。
おっちゃんたちの「孤独」
「一時に比べてホームレスの方は随分減りましたが、これは制度が変わってホームレスの方でも生活保護の申請ができるようになったために過ぎません。こうした人たちの一番の精神的な負担は「孤独」です。
仕事探しが大変な上、家に閉じこもりがちになってしまって人と話す機会もない。すると、働かないでお金だけもらって申し訳ない、と、自分を責めてしまうんです。おっちゃんたちが「自分なんて生きてる価値がない」とか「いっそ死んでしまいたい」なんて言葉を口にするのを何度も聞いてます。」
一人ぼっちの孤独を味わうのが嫌だからと、あえて生活保護を受け取らずに路上に留まる人もいるのだそう。現在、「HUBchari」に関わっているおっちゃんは生活保護受給者の方です。いずれも行政のあっせんで来た人たちですが、「生きがいを感じる」「人との対話が楽しい」といった、働く喜びを強く感じているのです。
中には自主的に「HUBchari」の看板や置物を作ってくれたスタッフのおっちゃんもいます。廃材のみを使って作られたというその置物は見事な完成度で、「HUBchari」への愛がひしひしと感じられます。

こうした「HUBchari」の取り組みは、現在も着々と進行中。このインタビューをした当日にも、梅田駅近くの大型ビルの敷地にポートを設置する許可がおりるという嬉しいニュースがありました。ですがこれらはまだまだ始まりに過ぎません。
川口さんは3年後には自転車300台100ポート、100人の雇用を生み出すことを目標に掲げているのです。これが実現するかしないかは、ポートの数をどれだけ増やせるかどうかにかかっています。

「自転車3台置けるスペースさえあればどこでもポートを設置できます。お金もかかりませんし、集客にも繋がります。私たちは「ノキサキCSR」と呼んでいるのですが、道路に面したちょっとした空きスペースを貸してもらえるだけで、就業支援と放置自転車問題緩和という、2つの問題を改善させる社会貢献になるんです。」

「ポート設置の力になりたいけど、提供できるスペースがない…」と思ってしまった方もご安心を。目下、Homedoorではビニール傘をリサイクルしてシェアする「HUBgasa(ハブガサ)」プロジェクトを準備中です。スタート予定時期は今年6月の梅雨シーズン。これなら「HUBchari」よりもさらに小さなスペースで間に合います。
読者の皆さんも、大阪に行った際には手軽な移動手段として「HUBchari」を利用してみては?
公式サイトをチェック!
• 「Homedoor」公式サイト
• 「Homedoor」公式ブログ「ホムドっ子の成長物語」
記事提供 greenz.jp http://greenz.jp/
もっと知りたい人へ Guidebook

『どんとこい、貧困!』
湯浅誠(イースト・プレス)
日本社会を覆う「貧困」の問題を、「だれか」の自己責任論ですますのは終わりにしよう。そう語るのは、反貧困ネットワーク事務局長であり、2008年末に東京・日比谷公園で行われたイベント、『年越し派遣村』の”村長”としても知られる湯浅誠氏。現在は、法政大学現代福祉学部の教授でもある。同著の『反貧困 ―「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書)も広く知られる。
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『弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂』
阿部彩(講談社現代新書)
貧困と格差社会についての新しい必読書。社会的排除とは「社会から追い出されること」。社会包摂は「社会に包み込むこと」。この新しい視点なしに今後の社会保障政策は語れない。著者は首都大学東京で、貧困問題を研究する気鋭の研究者。『子どもの貧困』(岩波新書)なども執筆。
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『ルポ 若者ホームレス』
飯島裕子・ビッグイシュー基金(ちくま新書)
20~30代のホームレスが激増しているという。若者ホームレス50人へのインタビューをもとに、若者が置かれている困難な状況から、貧困を再生産する社会構造をあぶりだす。
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『世界「比較貧困学」入門 日本はほんとうに恵まれているのか』石井光太(PHP新書)
世界とくらべて、日本の貧困にはどのような特徴があるのか。『絶対貧困』『遺体』などのベストセラーで知られるノンフィクション作家・石井光太は、これまで世界の最底辺を取材しつづけてきた。その経験をもとに、途上国の貧困を「絶対貧困」、先進国の貧困を「相対貧困」と定義し、あやふやな「貧困」の本質に迫る。
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『ハウジングプア』
稲葉剛(山吹書店)
ワーキングプア(働いても働いても抜け出せない貧困)に加え、ハウジングプア(住まいの貧困)が、生活を不安定で困難なものにしている。――生活困窮者の自立を支援するNPO「もやい」で活動を続ける筆者が、ハウジングプアという概念で貧困の実態をとらえ、解決への展望を語る。
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『現代の貧困』
岩田正美(ちくま新書)
著者は日本女子大学人間社会学部の先生(現在は退職)。貧困問題をどう捉えるか、その実態はどうなっているのか。ある特定の人たちばかりが貧困に苦しみ、そこから抜け出せずにいる現状を明らかにし、その処方箋を示す。
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『子どもに「ホームレス」をどう伝えるか? いじめ・襲撃をなくすために』
生田武志、北村年子(HCネット)
学校教育でホームレス問題を扱うことを提唱する「一般社団法人ホームレス問題の授業づくり全国ネット」の本。ハブチャリの川口さんもこの団体の理事の一人。
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