赤ちゃんとの生活で引きこもり少年はどう変わるか
『さよなら、ベイビー』里見蘭
小山大我くん(埼玉県立春日部高校)

物語は、主人公の雅祥(まさよし)のお父さんが知り合いの女性から赤ちゃんを預かってくるところから始まります。雅祥は、お母さんの死後、記憶をなくし、4年間引きこもりをしている少年。そして、赤ちゃんを連れてきたお父さんも死んでしまいます。つまり、一人の引きこもりの少年と赤ちゃんが暮らしていくというお話です。また、サブストーリーとして、不妊治療を行う夫婦の話や、望まない妊娠をしてしまった14歳の少女の話なども描かれています。とても、シビアで重い、考えさせられる内容です。
この本は、ぜひ男性の方に読んでいただきたいと思います。男性はどうがんばっても子どもを産めないので、この本を読んで様々な視点から赤ちゃんについて触れていくことで、少しでも女性の考えに近づけたら、それは素晴らしいことだと思うからです。
ところで、赤ちゃんってすごいと思いませんか。全身を使って泣いて、生きたいとアピールします。この本の中で印象に残っているのは、「赤ちゃんは自分の持てる時間、エネルギーを全て使って成長に費やしている」という一文。そんなふうに赤ちゃんを見てみると、ちっぽけな悩みに煩わされている自分が嫌になると思います。1日1日を成長に使っている、フルでがんばっている赤ちゃん。私たちも、もうちょっとがんばってみようかなって思える気がします。
本では、主人公の雅祥が失った記憶と向き合うとき、この本の最大の謎である、赤ちゃんは誰の子どもなのか…という謎が解き明かされます。それと同時に、登場人物の小さな謎がドミノ倒しのようにわかっていきます。

題名に入っているベイビーという言葉が、この本の中には一度も出てきません。1度読んだだけではわからず、2度、3度読み、これかなという答えが自分の中にできました。やはり『さよなら、ベイビー』なので、最後は赤ちゃんとの別れがきます。最初に出会ったときは、本当に彼にとって赤ちゃんは邪魔者です。しかし、だんだんと存在が変わっていき、それが彼が成長する鍵にもなっていく。それで最後、彼が成長しきったとき…これ以上は言えません。ぜひ読んで、あなたなりの答えを出してみてください。
ちなみに里見蘭さんは、赤ちゃんについていろいろなお話を書いていますが、実は男性です。あとで調べてびっくりしました。
<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>