動物実験で気が狂ったネズミと反乱を起こした動物たち
『ドクター・ラット』ウィリアム・コッツウィンクル
奥山わかばさん(千葉県・市川高校3年)

私はこの本の面白さを一切保証しません。その代わりに、これを読み終わった後、皆さんが「なんだこりゃ」というのは保証いたしましょう。
主人公は白いネズミ、その名もドクター・ラット。舞台はアメリカの、とある大学の研究室。ドクター・ラットは度重なる動物実験のせいで気が狂って、ついには人間と同レベルかそれ以上の知識を持ってしまったのです。彼はネズミなのに歌をうたう、踊る、詩を作る。さらには論文まで書いてしまいます。そして、そのことを教授や学生たちは知りません。
ある日、彼がゲージの中で論文を書いていた時、事件は起こります。世界中で動物たちが一つの電波を受け取るのです。奇妙な感覚に襲われた動物たちは、一斉にある場所を目指し始めます。しかし、ドクター・ラットだけは動物たちの行動に同調しません。ドクター・ラットだけは本能に逆らうのです。
ところで、「動物」と言われた時、何を思い浮かべたでしょうか。動物園のパンダ、サバンナのシマウマ…いろいろあると思いますが、屠殺場のブタや卵工場のニワトリも立派な動物です。私たちの生活というのは、食はもちろん、様々なことが動物の上に成り立っています。
でも、動物たちの言っていること、考えていること、行動の意味がわかるという人はいないと思います。でもそれってすごく怖いことだと思いませんか。私たちの生活は、何考えているかわからなくて、何をしでかすかわからなくて、とても不安定な動物たちがいなくては成り立たないのです。もし、その動物たちが一斉に反旗を翻したら…。あるいは忽然といなくなったら…。

私はこの本を大晦日に買いました。お正月の三が日、ゴロゴロしながら分厚い本を読んでドキドキワクワクしようかなと思っていたら、その日のうちに読み終わってしまいました。もうこれは文字通り、手も目も離せない怒涛の展開。さらに外国文学にありがちな翻訳者の堅い文章が、一種独特の雰囲気を醸し出していています。舞台は少し昔のアメリカなので、今は法律で禁じられている動物実験なども行われていますが、そこは勘違いされないようにお願いします。
この本は1回目に読んだ時は「なんだこりゃ」となると思います。でも、2回目、3回目と読むうちに、だんだん動物たちの怖さ、そして人間の怖さ、そして世界の不安定さということを深く深く考えさせられてしまうのです。
<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>
さ・ら・に・奥山わかばさん おススメの3冊

『マルドゥック・スクランブル』
冲方丁(ハヤカワ文庫)
この作品はSFである以上に、成長の物語といえるでしょう。一度死んだ少女が金色のしゃべるネズミと共に戦い、自らの存在意識を探すその過程と結末は、誰もが予想しえないと思います。文庫で全3巻というボリュームは少し多いと感じるかもしれませんが、読み進めるうちにそんなこと気にならなくなることを保証します。
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『聊斎志異』
蒲松齢(岩波文庫)
中国清代の怪奇短編集です。切ない恋愛談や武勇伝、とんち話など飽きが来ない編成で、軽く何かを読みたい時にはぴったりです。
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『生物と無生物のあいだ』
福岡伸一(講談社現代新書)
生物と無生物の境界線という、生物学最大のミステリーに挑む研究について綴った一冊です。専門的な生物学知識がなくてもサクサク読めるので、分子生物学への入門としてもぴったりです。
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奥山わかばさんmini interview
好きなのは…
好きなジャンル:ファンタジー、新書全般
好きな作家:冲方丁、浅井ラボ、福岡伸一、ウィリアム・コッツウィンクル
小学時代
小学校のころにお気に入りだったのは、東海林さだおの「まるかじりシリーズ」です。大人になったら、こうやって食べ歩きに行ったり、新しい料理に挑戦したりしたいと思ったのを覚えています。
影響本
ローワン・ジェイコブセンの『ハチはなぜ大量死したのか』を読んだことは、もともと理系に進むか文系に進むか迷っていた私の気持ちを、文系側に押しました。というのも私はこの本の内容にも心を動かされましたが、それ以上にこの本の訳の上手さに感動したからです。
2014、感動本

『バカボンのパパと読む「老子」』
ドリアン助川(角川SSC新書)
受験勉強のために読みはじめましたが、危うく勉強を放り出してしまうくらいにおもしろく、わかりやすいものでした。現代翻訳をさらにかみくだいた口語訳に新しい境地を感じました。
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これから
今私が読んでみたいのは、食品加工産業についての本、古代中国に関する本です。