みんなのおススメ

永遠の子ども「キルドレ」の終わらない戦闘

『スカイ・クロラ』森博嗣

戸井悠規くん(東京・広尾学園高校)

『スカイ・クロラ』(中公文庫)
『スカイ・クロラ』(中公文庫)

『すべてがFになる』でも有名な森博嗣さんの小説『スカイ・クロラ』。物語の舞台は究極の平和が実現した世界です。人は争わないし、国同士の戦争もありません。しかし、人々に平和を実感してもらうためにショーとしての戦争が繰り広げられています。その戦争の戦闘機パイロット、函南優一(カンナミユウイチ)という人が主人公のお話です。

この物語の中で重要なのが「キルドレ」の存在です。彼らは殺されるか自殺をするまでは永遠に生き続ける人間。ショーとしての戦争に参加している戦闘機パイロットのほとんどがキルドレで、またキルドレのほとんどは戦闘機パイロットになります。戦闘機パイロットになったキルドレは、成長も老化もせずまったく変わらない日常を永遠に繰り返さなければなりません。そこから抜け出す方法はただ一つ。戦争にパイロットとして出撃し、敵に落とされて死ぬことです。ですから、このキルドレには非常に死にたがりな人が多いですし、唯一死ねる場所である空が好きな人が多いんです。

キルドレがたくさん登場するなかで、私が特に好きなのは草薙水素(クサナギスイト)という女性です。普段は無口で無表情で堅い人ですが、空の上では叫び声を上げたり笑い声を上げたりテンションマックス。そして、航空戦が終わり地上に降りてくると、病気もしていないのにフラフラして血色も悪い。それくらい空が好きな人です。僕も飛行機から見える空や戦闘機のビジュアルが大好きなので、彼女に共感できます。この本を手にとったのも、大好きな戦闘機が出てくるからなのです。

さて、スカイ・クロラシリーズには5つの物語があり、この『スカイ・クロラ』は5つのうちの最終章ですが、最初に発行されました。森博嗣さんはシリーズを手がけるにあたって、まず最終章から書いたというわけです。時系列的には『ナ・バ・テア』が最初ですが、私のお勧めはまず『スカイ・クロラ』から読み始めることです。なぜかというと、『スカイ・クロラ』を読んでから残りの4つの作品を読むと、そういえば『スカイ・クロラ』であんなことを言っていたけれど、本当の意味はこうだったんだ…ということが非常にわかってきて、さらに、すべてを読んだ後にもう一度『スカイ・クロラ』を読むと、それはもう何倍も面白くなるんです。それが本当にこの本の魅力の一つであり、私はその読み方を非常にお勧めしています。

 

戸井悠規くん
戸井悠規くん

最後に私が大好きで、この小説のテーマでもあるフレーズを紹介します。
「僕はまだ子どもで、ときどき右手が人を殺す。その代わり、誰かの右手が、僕を殺してくれるだろう。それまでの間、なんとか退屈しないように、僕は生き続けるんだ。子どものまま」

 

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<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>

さ・ら・に・戸井悠規くん おススメの3冊

『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』
山田真哉(光文社新書
かねてから経済学の系統に興味を持っていた私にとって、これは入門書のような本です。会計と聞くと何だか堅苦しいイメージがありますが、お金を使う人全員にとって、とても身近で実用的な学問なのです。そのことを書名の疑問を筆頭に、身近な疑問からわかりやすく教えてくれるので、オススメです。

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『これからの「正義」の話をしよう──いまを生き延びるための哲学』
マイケル・サンデル(早川書房)
会計よりもさらに堅苦しそうな「哲学」の本です。しかし書名にある「正義」というのは古今東西の人類の一つの行動原理であり、これもまた身近に感じるテーマです。この本を読んだ人にとって、この本は人生の分岐点に現れ、導いてくれるような本になると思います。

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『空想科学読本15 [愛は地球を滅ぼす]編』
『空想科学読本15 [愛は地球を滅ぼす]編』

『空想科学読本シリーズ』
柳田理科雄(KADOKAWA メディアファクトリー)
今から8年ほど前にこのシリーズを父親からもらい読んでみた時の衝撃は今でも覚えています。この本の概要は知っている人も多いと思いますが、この本は往来の特撮映画ファンから最近のマンガ、ライトノベル好きまで幅広い層の人が読めるもので、本の内容が周りの人たちと共有しやすいと思います。収録されている作品を見たり読んだりするキッカケにもなります。

※『空想科学読本16』は4月24日発売予定

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戸井悠規くんmini interview

好きなのは

経済やカルチャーに関する新書が好きです。手軽に読める短編集も好きです。


影響本

『まおゆう魔王勇者』(著:橙乃ままれ)という、いわゆるラベル。書名の「魔王」と「勇者」が登場する、ドラクエなどでよくある中世のファンタジーな世界観で、経済学に精通する魔王が勇者と共に、その学識を使って、恒久的な世界平和をめざす物語です。私が経済学に興味を持ったきっかけであり、ある意味入門書でもあります。


これから

私は元々戦闘機、特にレシプロ戦闘機が好きなのですが、『スカイ・クロラ』のような航空機のものや、または、戦車をクローズアップしたものは全然見たことがないので、それらの戦争ものが読んでみたいです。