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海の底にいる人に手を差し伸べる希望の光

『海の底』有川浩

熊沢怜くん(東京・成城学園高校)

『海の底』(角川文庫)
『海の底』(角川文庫)

実は私は、高校に入ってからライフセービングを始めました。その影響か、この『海の底』の海にひかれて手にとりました。ここには、子どもたちが6人、小学1年生から高3まで出てきます。その子どもたちの心の成長物語です。桜祭りでにぎわう横須賀の街に大きな赤いザリガニが大群で襲撃し、街は大パニック。潜水艦「きりしお」の隊員、夏木と冬原は逃げ遅れてしまった6人の子どもたちを助け、艦内に立てこもります。その短い期間で子どもたちが成長していく様子が書かれています。

『海の底』では、『ドラえもん』ののび太とジャイアンに似た関係が出てきます。本書では、のび太が吉田茂久、ジャイアンが遠藤圭介です。ここで少し私の話をます。私は小学4年生の春に大阪に引っ越しました。方言や地域の壁はとても厚く、しばらくすると嫌がらせに遭うようになりました。毎日毎日、嫌がらせはエスカレートします。担任の先生に相談すると、先生はその一軒一軒生徒たちの家に行くなど、手厚くこの問題を解決してくれました。『海の底』では、吉田茂久は遠藤圭介にしょっちゅうからかわれたりします。しかし、潜水艦の隊員・夏木は、この問題に強くぶつかり、茂久は「自分は負け組ではない。まだ負けていないんだ」と気付かされます。

このシーンを読んだとき、小学校4年生の私と吉田茂久は同じ立場にいて、同じ気持ちでいたんだなと思いました。そして、昔の担任の先生のことを思い出しました。私は担任の先生から何か大切なことを学び、そして何か重要なことを気付かされたのです。

茂久は圭介に、自分の名前のことや点数が悪いことなどをばかにされます。毎日「ばーか、ばーか」と言われてすごく傷付きます。夏木は、そこで、茂久が名前負けをしていると感じていることに対して「ばか」と言ったのです。「ばか」ということは、茂久はまだ自分の違う面に気付いていないということです。私も同じで、自分の違う面や他人の違う面に気付いていなかった。そのことを担任の先生に気付かせてもらいました。

 

熊沢怜くん
熊沢怜くん

最後に、皆さんは、海やプールやお風呂の底に潜って上を見上げたことがありますか。私は練習中、ときどき見るのですが、下から見ると光が差し込んでくるように見えます。『海の底』というのは、海の底にいる茂久や小学4年生の私に、先生や夏木のような人たちが、希望の光が降るように、手を差し伸べている様ではないかと思います。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>