みんなのおススメ

復讐したい感情はなぜ生まれる  

『水底フェスタ』辻村深月

小林和貴くん(東京都・攻玉社高校2年)

『水底フェスタ』(文春文庫)
『水底フェスタ』(文春文庫)

突然ですが、ちょっと重い質問をさせていただきます。皆さんに、復讐したい人はいますか。紹介するのは復讐をテーマにした本で、作者は辻村深月さん。『ツナグ』や『太陽の坐る場所』という作品が映画化されて、『鍵のない夢を見る』という本で直木賞をとった作家です。

この物語の舞台は閉鎖的な村、主人公の少年は村長の息子ということで、村の中では高い地位にいます。少年はある日、女と出会います。その女は昔この村に引っ越してきましたが、閉鎖的な村の中で地位は低く、村民からあまりいい目で見られていませんでした。それに嫌気が差して上京し、女優になって戻ってきたのです。その女が少年に、この村に復讐をしに来たと言って近づきます。村への復讐、つまり共同体への復讐です。この本では、共同体というのが何なのかを考えさせられます。

 

小林和貴くん
小林和貴くん

復讐したい人がいる場合、その相手は自分よりも共同体での地位が高いか同格の場合が多いと思います。共同体にもヒエラルキーがあって、自分の方が下の場合、そこに劣等感が芽生え、復讐したいという感情が生まれます。

 

なぜこの本を選んだのかというと、自分はけっこう嫉妬深いたちなのですが、この本の帯に「この村に復讐するために私は帰ってきた」とあり、それが気になって買いました。この本には、そういう感情がどう生まれるのかとか、そこに対する葛藤についてがしっかり書かれていて、とても気が滅入リました。復讐したいという気持ちは、まわりからはけっこう白い目で見られているということもわかるような内容になっています。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>

さ・ら・に・小林和貴くん おススメの3冊

『14歳からの哲学』
池田晶子(トランスビュー)
「人生とは何か」「善悪とは何か」といった答えのない質問に対して哲学的な答えやそこから派生した新たな疑問をわかりやすく提示してくれる本です。ヨースタイン・ゴルデルの『ソフィーの世界』のソフィーになった気分で読んでいただきたいです。   

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『告白』
湊かなえ(双葉文庫)
この本も『水底フェスタ』同様、「復讐」がテーマとなっている小説です。子供を生徒に殺された教師がその生徒への復讐を企てるというストーリーで、復習者、被復讐者、第三者など様々な視点で話が進んでいくので、登場人物ごとに「復讐」が異なり興味深いです。

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『読書は一冊のノートにまとめなさい[完全版]』
奥野宜之(ダイヤモンド社)
読んだ本の内容を忘れてしまった、だとか、読書ノートをとりたいけど、とり方がわからない、などの読書をする人ならではの悩みを一手に解決してくれるのがこの本です。読書ノートのとり方だけでなく、本の収納ラックの紹介、読書をする際のちょっとしたノウハウなどが書いてあるので、本が好きな方に是非読んでいただきたいです。

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小林和貴くんmini interview

好きなのは

特にジャンルにこだわって読むことはありませんが、小説ではミステリーやサスペンス、専門書では事件史や心理学の本を多く読みます。小説家では辻村深月さんが好きです。


小学生のころ

『レイン』や『デルトラ・クエスト』『七つの封印』、他はややマイナーですが、『ミストボーン』等のシリーズもののファンタジーが小学生の頃は好きでした。『ジキル博士とハイド氏』は初めてしっかり読み終えた本なので、今も気に入っています。


影響本

『本の話』鳥生芳夫
もう絶版になってしまった本で、古本屋巡りをしていた時にたまたま見つけたものですが、この本を読んで検閲に興味を持つようになり、文系に進む一つのきっかけとなりました。


2014年印象本

『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』
伊坂幸太郎(幻冬舎)
伊坂さんの著書には珍しく、泥棒や殺し屋、超能力に代表される特徴的な人物や奇妙な設定があまり見られず、普通の登場人物が小さな奇跡を起こす物語です。「劇的」をいつも求める自分たち普通の人々に「普通っていいな」と思わせてくれます。

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これから

最近、友人が古代エジプト史やロシア革命に関する本を読んでいるのを見て、読んだことがあまりなくて面白そうだなと思ったので、そちらの方に裾野を広げようと考えています。