校舎に閉じ込められた高校生8人。でも、私たちは7人のはず…
『冷たい校舎の時は止まる』辻村深月
中村朱里さん(静岡県・日本大学三島高校2年)

この物語は、ある雪の降る日、高校生たちが「寒いよ、休校にすればいいのに」と、文句を言いながら登校をしてくるところから始まります。ところが、雪の中、がんばって登校したのにもかかわらず、校舎に着いてみると8人しかいない。そのあとも、待てど暮らせど、生徒も先生も一人もやってこない。不思議に思った8人は校舎の外に出ようとしますが、扉が開きません。8人は校舎に閉じ込められてしまったのです。
助けを呼ぼうと思っても電話がつながらない。ふと見れば、自分たちの腕時計も校舎の時計も、すべてが5時53分で止まっている。そんな中で、一人が気付くのです。「あれ、私たちは7人のはず。一人多い」と。この物語の魅力は、なんと言ってもストーリーの面白さなのですが、それを話してしまうと8人目が誰かということがわかってしまうかもしれませんので、ストーリー以外の魅力について3点紹介したいと思います。
まず一つ目は、個性豊かな8人の登場人物。舞台は県下でも有数の進学校で、全国模試1位の秀才や、誰からも慕われる学級委員長もいます。その他にも、賭け麻雀で受けた停学から戻ってきたばかりの不良や、自分に自信がなくて何でも消極的に考えてしまう女の子など、みんなバラバラの個性を持っています。彼らは8人目を探していく過程で、自らの悩みや不安と真っ向から向き合わなければならなくなりますが、それが高校生である私の身にも覚えがあることばかり。彼ら全員にとても感情移入ができるのです。この本を読み進めていくうちに、彼ら全員のことを大好きになっていること間違いなしです。
二つ目は謎解きについて。この本のいろいろなところに、「誰が8人目か」ということへのヒントが隠されています。その伏線をひもといて、ぜひ、8人目が誰かを考えながら読んでみてください。きっと、ラストの思いがけない展開には驚きで鳥肌がブワーッと立つはずです。

最後の三つ目は、この本を読み終わったあとについて。この本を読んでいる時、私は「早く続きが読みたい」「最後が知りたい」という思いで、どんどんページをめくりました。しかし、終わりが近づいてくるにつれ、「読み終えてしまったら、彼らとはもう二度と会えない」ということに気づき、とても寂しくなりました。それからしばらくして、この本の作者である辻村深月さんの別の小説で、私は懐かしい友人に思いがけない場所でばったり出会ったような、そんなうれしい気持ちになりました。なんと、冷たい校舎で出会った彼らが、今度は、主人公の先生として、親として、友人として、別の物語に登場していたのです。「彼らはずっと生き続けていて、またどこかで出会えるのだ」と思い、とてもうれしくなりました。
果たして、8人目とは誰なのか、彼らは無事に校舎の外に出ることができるのか、興味を持った方は、ぜひこの本を読んで確かめてみてください。
<2014年度全国高等学校ビブリオバトル決勝大会の発表より>※学年は取材時
さ・ら・に・中村朱里さん おススメの3冊

『ふちなしのかがみ』
辻村深月(角川文庫)
どこの学校にもある「花子さん」の怪談や小学生たちの無邪気なスクールカーストから始まる短編ホラー。自分の身近にも起こるかもしれない出来事に、じわじわと追い詰められるような恐怖を感じました。
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『精霊の守り人』
上橋菜穂子(新潮文庫)
遠い昔、人と精霊が共生した世界で始まる、女用心棒バルサと新ヨゴ皇国の皇子チャグムの冒険物語。この一冊から始まって、全10巻ある「守り人シリーズ」を読み終えたとき、こんなに素晴らしい物語を読んでしまったら、次に読むべきファンタジーはあるのだろうかと不安になるほど、面白かったです。
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『キケン』
有川浩(新潮文庫)
ごく一般的な工科大学に存在するサークル「機械制御研究部」、略称「キケン」の物語。犯罪スレスレの実験や破壊活動にもわくわくさせられ、男子っていいなぁ、楽しそうだなぁ。こんな大学生活を送ってみたいなと羨ましくなりました。
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中村朱里さんmini interview
好きな作家は
辻村深月さんです。
小学生のころ
柏葉幸子さんの『霧のむこうのふしぎな町』『天井うらのふしぎな友だち』『地下室からのふしぎな旅』(全て、イラスト:杉田比呂美、講談社青い鳥文庫)の3冊が大好きでした。毎晩布団の中で、わくわくドキドキしながら読んでいました。
2014年印象本

『宝石の国』(市川春子/講談社アフタヌーンKC)という漫画が印象に残っています。過去に「にんげん」が存在したと伝えられる世界で、自身を装飾品にしようと来襲する月人と戦う宝石たち、というストーリーとキャラクターの美しさに惹かれました。
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これから
ビブリオバトルで紹介された本を読もうと思っています。