みんなとはちょっと違う高校生 時田君の考えていること
『ぼくは勉強ができない』 山田詠美
國分愛莉さん(東京学芸大学附属高校1年)

17歳の男子高校生、時田秀美君が主人公。一つ一つの話にはつながりはあまりなく、1話でも読めますが、全部読んでいくことで主人公の時田秀美についてより理解を深めることができます。ぜひ全部読んでください。
今日はこの中で私が一番好きな「賢者の皮むき」という話を紹介します。この話は、時田君がクラスでマドンナ的な存在である山野舞子さんという女の子についていろいろ考えたり、いさかいがあったりという話です。
一番好きなせりふは、時田君が山野さんに告白をされているときに感じた「彼女のすべては無垢な美しさに満ちている。けれどこの世の中に本当の無垢など存在するのだろうか」というところです。
高校ってキャラを作ったり、自分をなるべく良く見せようとしたりしている人が多いとは思いますが、この山野さんは本当に計算高く、自分が美しく見えるように常に考えて一挙一動しています。クラスの男子のほとんどは、山野さんをマドンナ的な存在だと思っているのですが、時田君は山野さんを非常に高等テクで演技をして生活している人だな、くらいにしか思っていません。
時田君が告白を断ると、山野さんは時田君をびんたします。びんたされた時に、時田君は、「この世に本当の無垢など存在するのだろうか」と、さっきまで考えていたことを実際に山野さんに言います。それに対して山野さんは「私は人に愛される自分というのが好みなんだ」と主張をします。そういう演技を追求するのが好きであって、時田君も自分と同じように、何となく「ほかの男子とは違うぜ」的な感じの演技をしている。自分はそこにひかれた、という趣旨のことを言います。そして、「中途半端に自由ぶっているんじゃないわよ」と言って、山野さんが去っていきます。
こんなふうに、時田君は、ほかの高校生の男子とはちょっと違う感じの感性で、高校生活において勉強よりも大切なことがあるんじゃないかと思い、それをいろいろ周りの人を通しながら考えている、探っている。そんな男子高校生の話です。

國分愛莉さん
東野圭吾や赤川次郎のミステリーをよく読む。特に『白銀ジャック』(東野圭吾)や『杉原爽香シリーズ』(赤川次郎)が好き。そのほか、『月曜日の水玉模様』(加納朋子)や、『カゲロウデイズ』などのライトノベル、『文豪ストレイドッグス』などの漫画というように、幅広く読書を楽しんでいる。