悪魔目線で解説すると、言葉に新たな意味が生まれる
『新編 悪魔の辞典』アンブローズ・ビアス
岩下咲來彩さん(東京・東京成徳大学高校1年)

私は悩みがあったときなどは、図書室に行って何かの本を読み、そこから悩みを解決する糸口や答えを求めようとします。先日もそんなふうに図書室の辞典のコーナーを見ていました。そこに『悪魔の辞典』という、この変な本があったわけです。なにか怖そうなイメージ。デーモン閣下を始めとする悪魔が大好きな私は、思わず手に取りました。解説されているのは、誰でも知っているような単語ばかりです。
例えば「相談」という言葉を引いてみます。「相談とは、自分がすでにとろうと決めている行動に対して、他人からさらに同意を得るために話しかける行動である」って書いてあります。けっこう共感できると思いませんか。次に「ハンカチ」を引くと、「ハンカチとは、ちっぽけで四角い布きれのことである。その布きれを使って通常汗を拭ったりするのだが、このハンカチが特に役立つのは葬式の時だ。葬式の時、涙がまったく出てこなくて困ってしまった時は、このハンカチを使って顔を隠すのだ」と書いてあります。普通の辞典に書いていたら怒られてしまうようなことですが、これは「悪魔の辞典」だからいいんです。
このように、悪魔の辞典だからといって、魔界への行き方とか地獄のこと、悪魔との契約の仕方といった恐ろしいことが書いているわけではなく、誰でも知っている言葉を、皮肉やユーモアをたっぷり交えた悪魔的目線で解説しているわけです。
次に「幸福」を引いてみます。「幸福とは、他人が不幸を覚えている状況を見ることによって生じる、気持ちのいい感覚である」と書いてあります。ひどいと思いますが、否定しきれない部分があります。続いて「安心」。「安心とは、他人が不安を覚えている様子を見ることによって生じる、気持ちのいい感覚のことである」。この筆者がいかに意地悪か。しかし、安心とか幸福という言葉の裏には、不幸や不安を覚える人がいるのかもしれないということを、見いだすこともできます。
このような感じでこの「悪魔の辞典」を読むと、私たちが普段信じていたり見ていたりしている物事の側面が本当に正しいのか、というふうに考えることもできます。また、物事の表面だけを見るのではなくていろんな目線から見ることができる。そうすると世の中が楽しくなるということで描かれています。もちろん、ブラック・ユーモアや皮肉にあふれていて、とても面白い辞典なので、悩みもストレスが吹っ飛び、あしたから頑張ろう、そんな気持ちになれると思います。

なお、これを書いたのはアメリカの作家で、100年以上も昔に新聞に連載していたものです。この作家、実は謎の失踪を遂げています。インターネットで名前を検索すると、「アンブローズ・ビアス、もしかして神隠し?」みたいなものが出てきて、むちゃくちゃ怖いんです。私が思うに、このアンブローズ・ビアスという人は、悪魔的なことを書きすぎて悪魔に魅入られてしまい、悪魔に連れていかれたのではないかという気がしています。
<2014年度全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>※学年は取材時