みんなのおススメ

圧倒的な情報量と分厚さ。でも京極節でスラッと読めるミステリー

『魍魎の匣(もうりょうのはこ)京極夏彦

蔭山俊介くん(東京都立小石川中等教育学校)

『魍魎の匣』(講談社文庫)
『魍魎の匣』(講談社文庫)

この本をパッと見て思うのは、よくこんな分厚い本が読めるなということと、『魍魎の匣』って何だよ、こんな難しい字、どうやって読むんだよ、ということだと思います。「もうりょうのはこ」と読みます。この分厚さに、よほどの根性を持った人ならともかく、かなりの人が逃げます。しかし、分厚さにも気押されずに挑戦する猛者もいて、ペラッとめくる。すると最初に旧字体が出てきて、いきなり生首みたいなのが「ああ、生きている」となって、「あ、これ、ホラー小説なの?」と言って、たいていの人が逃げるんです。

ですから、読むモチベーションを上げるために、一つだけ言っておきます。これはミステリー小説です。起きている事件や事柄について、全部ミステリー的な解き方ができます。実際に起こりうる要素だけで、きちんと説明することができます。そこさえまず知ってしまえば、読むペースが上がると思います。読んでいくと、いきなり妖怪の話や脳の話や、その他いろいろな学問の話が出てきます。それらに詳しい登場人物たちがひたすら議論していくという展開があって、「何だよ、これ、必要ないじゃん」って投げたくなるんですけど、実は全部必要あります。関係ないように見えても、9割方、伏線かこの物語の理解を深める内容しか書かれていません。だから読めば読むほど理解が深くなって面白くなっていきます。

例えば、東野圭吾の『ガリレオシリーズ』。事件の謎を科学的に解明しますが、突然、物理の法則が出てきたりします。僕のように物理がわからない人間が読むと、「え、なんの話?」となってしまう。一方、この作品は、真相が明かされる前に、科学的知識などがすべて開示されます。全部、スラッと理解できます。京極節と呼ばれる文体がすごく読みやすいから、スラッと中に入ってくるんです。でもそれが物語の根幹に関わることだということが、なかなかわかりません。最後まで読んで、あの話はここに関連してくるのかと、やっとわかります。

 

また、この本は2周も3周もできます。2周目にいくと、ここがこういう伏線だったのかという驚きがあります。さらにミステリー系でよくある怪奇的なことが起こって、実はこれは人間の仕業だったんだと分かって拍子抜けすることもあります。しかしこの小説は、何かが起き、その謎が解かれた後も、恐怖もしくは人の心に関する悲しさ、つらさ…といった何かがまだ残っている。残っているから最後のページまでずっと読めます。そして、最後のページを読んだ後でも、まだなにかすごい後味が残っているんです。京極作品を読むと、しばらくは独特の世界観に浸ってしまいます。

読んでいて「引き込まれる」という言葉がぴったりな作品です。ミステリーとして楽しめる。人の心を読み解くことも楽しめる。さらに、妖怪や民俗学、宗教学に詳しくなれる。そして、この分厚い本を読んだという達成感。そして最後に、本棚に並べる時には分厚すぎて倒れないのが便利です。



<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>

さ・ら・に・蔭山俊介くん おススメの3冊

『姑獲鳥の夏』
京極夏彦(講談社文庫)
「うぶめのなつ」と読みます。『魍魎の匣』の前作なので、ちゃんと入門したい方はこちらから。普通のミステリーにない事件、最後まで引き込まれる展開、全てはここから始まりました。処女作。


『嗤う伊右衛門』
京極夏彦(中公文庫)
京極小説の中で唯一500ページを下回る。京極入門におススメのもう一冊。薄い上に引きこまれるのでスラスラ読めます。実は恋愛小説だったりします。

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『有頂天家族』
森見登美彦(幻冬舎文庫)
古くさい言い回しと独特のテンポでスラスラ読ませてくれる一冊。ギャグ小説ですが、感動できる部分もあります。京極作品よりとっつきやすい物が欲しい人にオススメ。   

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蔭山俊介くんmini interview

好きなのは

好きなジャンルは、ギャグ、ヒューマンドラマ。作家は、京極夏彦、森見登美彦、星新一、北杜夫が好きです。


小学生のころ

『ズッコケ三人組』シリーズ(那須正幹:著)。ハチベエ、ハカセ、モーちゃんの小学生3人組がいろいろなことに巻き込まれるシリーズ。特にハチベエが好きでした。


影響本

京極夏彦さんの本は、自分の認識している世界をゆさぶってくれるような内容が多いので、人生において自分と他者との違いとか、人とは何かといった考え方は影響を受けています。


2014年印象本

『天使の囀り』
貴志祐介(角川ホラー文庫)
読んだことのあるホラーものの中で一番こわくて、悲しくなった本です。

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これから

西尾維新の「戯言シリーズ」が読みたいと思っています。