幼稚園児レベルから天才レベルへ。知能のギャップに悩む
『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス
嶋田誠也くん(福井県立高志高校2年)

この世は様々なギャップにあふれています。例えば、醤油と間違って目玉焼きにソースをかけて、思っていた味とのギャップ。「この大学に行きたい」と夢に思い描いていたけれども、のっぴきならない事情で断念せざるを得ないといった夢と現実のギャップ。
この主人公、チャーリイ・ゴードンは自分の知能のギャップに苦しみます。彼は32歳で幼稚園児レベルの知能しかありませんでした。しかし、ある大学の先生から「君を今よりずっと賢くしてあげよう」と言われます。彼はその話にのり、天才となっていくのです。そして、彼は思い描いていた理想と現実のギャップに悩みます。その過程で僕たちと重なる部分が必ずやあると思います。彼がギャップで苦しむ姿を追体験してほしいと思います。
この本は、二つのポイントから読みやすくなっていて、ページをめくる手が止まらなくなります。まず一つ目、この本は100%日記調の第一人称で書かれています。そして二つ目のポイントですが、翻訳がとてもユニーク。彼の知能が低い時は、ひらがなばかりで読みにくいのですが、知能が上がっていくにつれて、漢字が増え、句読点が付き、そして慣用句も使うようになります。そして最終的には……。このあとは、皆さんがぜひ手に取って読んでください。ストーリーも、彼が見つけたその結論も、僕たちが今葛藤しているギャップに対する答えの一つ、もしくは、考える材料の一つになるかもしれません。
もう一冊の本を紹介します。『人類は衰退しました』(田中
ロミオ/著)というライトノベルですが、その中にこんな一文があります。「ペットのテントウムシのなまえはあるじゃーのんいうとです。わたしがおばかになったら、だれかあるじゃーのんにエさをくらわせてやってください」。僕はこの本を読んで、「なぜ、テントウムシにアルジャーノンなんてかっこいい名前を付けたのだろう」と引っかかりました。アルジャーノンについて調べたら、この『アルジャーノンに花束を』と出会ったというわけです。『人類は衰退しました』の主人公は女の子ですが、彼女はだんだん知能レベルが下がっていきます。『アルジャーノンに花束を』のチャーリイはだんだん知能が上がっていくのに対して正反対ではありませんか。
読み進めると、さらにこの二つの関係性が続いていきます。こちらの本もぜひ読んでみてください。

僕は普段、レビューを見てから本を買うのですが、本書のレビューには、「ノンフィクションじゃないかと思わせる」というコメントがたくさんありました。人間が想像できるのは実現可能なことだけであるとよく耳にしますが、もしかするとこの現実世界にも本当にアルジャーノンがいるかもしれません。
<全国高等学校ビブリオバトル決勝大会の発表より>
さ・ら・に・嶋田誠也くん おススメの3冊

『星新一ショートショートセレクション』
星新一(理論社)
言わずと知れた超有名作品ですが、改めてこの短編に折り込まれた皮肉を噛みしめながら読むと、少し見方が変わるかも・・・。

『人類は衰退しました』
田口ロミオ イラスト/戸部淑(小学館)
ライトノベルといって甘くみると損します。少しぶっ飛んだ世界ながらも、生々しくそしてコミカルな表現…うまく説明できないので、ぜひとも手に取ってみてください。
(ちなみにテントウムシの「アルジャーノン」は2巻に出てきます)
『ユンカース・カム・ヒア』木根尚登(角川書店)
犬と話せる、奇跡が起こる、など奇想天外なシーンが多いのですが、ある意味どんなジャンルを読んでいる人からも愛されるような作品かと思います。
嶋田誠也くんmini interview
小学生のころ
『ぼくらの七日間戦争(シリーズ)』(宗田理)が気に入っていました。
2014年印象本
『図書館戦争』有川浩の小説。映画も。
これから
今日の日本でメディアにはなかなか取り上げられない問題を扱った作品や、ノンフィクション、フィクション問わず、人の一生を描いたような作品が読みたいです。