人類が念動力を手に入れた、今から1000年後の世界
『新世界より』貴志祐介
倉又遼太郎くん(長野県松本深志高校2年)

先日、長野県北部で巨大な地震がありました。ちょうどそのとき、僕はお風呂に入っていたのですが、死んでしまうのかと思いました。地震に限らず、例えば竜巻や津波、ただの強風だとしても、そういうものに遭えば、人間は自然に対する畏怖を覚えるものだと思います。ところが、僕が紹介する『新世界より』に描かれている大人たちは、自然に対する畏怖をまったく持っていません。なぜかというと、彼らは全員、自然現象を打ち消すことができるほどの念動力を持っているからです。社会体制もまったく違っていて、貨幣経済ではない、犯罪も起こらない、文明的には機械がまったくない。こういうと、異次元の世界を思い浮かべるかもしれませんが、この本に描かれているのは、今から1000年後の日本です。
人類が超能力を科学的に立証してそれがどんどん広まり、それから1000年たったという設定ですが、人類が1000年後の社会体制に到達するまでの過程で、ものすごいことがいろいろ起こります。例えば、とんでもない念動力を一人ひとりが持つことになるので、まず社会体制が崩壊します。その後、独裁者が現れたりしながら血みどろの歴史が繰り返され、最終的に平和な世界に到達します。その平和な世界というものはいったい何でできているのか。結局人類が自分の力を強制的に封じることになるわけですが、その封じる手段とはいったい何なのか。そういうことも描かれています。
この物語は主人公の手記という形で進んでいきます。最初は、まだ子どもの主人公が念動力を練習する場面が描かれていきます。そして次第に、なぜ自分たちの世界がこんなに平和なのかということを知っていきます。僕たちから見たらすごく異常な世界というか、「そんな世界、本当に実現できるの?」と思うのですが、ちゃんと実現できる理由が存在していて、主人公たちはそれを知っていき、最終的には知ってしまったことで大惨事が起こります。それがこの物語のあらすじです。

とても独特な生き物が出てきたり、東京が廃虚になっていたり、荒涼とした世界が描かれています。また、その世界に至る過程の中に現代社会に通じる矛盾みたいなものが描かれています。いろいろな意味でもとても読み応えのある作品だと思います。ちなみに僕は、テスト前に友だちからこの本のことを教えてもらって一気読みしてしまい、赤点ギリギリのところまでいきました。とにかく伏線がとても多い作品で、飽きずに最後まで一気に読めます。
<全国高等学校ビブリオバトル関東甲信越大会予選の発表より>
さ・ら・に・倉又遼太郎くん おススメの3冊

『ソロモンの偽証』
宮部みゆき(新潮文庫)
とても長い作品であります。最近映画化されたようですが、とても映画に収まるとは思えません。中学校3年生の時に、受験期にも関わらず一気読みをしてしまいました。ものすごい数の登場人物とそれら一人一人のエピソードを細密に描いた宮部さんの力量はすさまじいとしかいいようがなく、それがこの作品を一気読みできる原因だと思います。
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『悪の教典』
貴志祐介(文春文庫)
私が貴志ファンになったきっかけの本です。「クラス全員皆殺し」とう物騒な宣伝文句の書かれた作品です。性悪説の立場から鋭い社会批判をする作品であり、貴志さんの思想が強く反映されています。『新世界より』には負けるかもしれませんが、高校が舞台の作品で読みやすいと思うので、おススメです。
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『プリンセス・トヨトミ』
万城目学(文春文庫)
人間の暖かさが感じられる作品です。ジャンル的にはファンタジーに入るかと思いますが、舞台は大阪です。大阪全体が隠している「あること」を会計検査院の主人公達が解き明かしていくという話ですが、その過程はもちろん、最終的に主人公達の出した結論も素晴らしい作品となっています。
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倉又遼太郎くんmini interview
好きなジャンル
ミステリーやファンタジー、歴史モノです。貴志祐介や万城目学、司馬遼太郎が好きです。
きっかけ
本を読むのが好きになったのは、小学校2年生のときです。「デルトラ・クエスト」(エミリー・ロッダの小説)というシリーズ本がきっかけでした。ファンタジーで低学年にも読み易いですが、後半になるにつれて残酷に…。
小学生でのハマり本
「少年探偵」シリーズ:江戸川乱歩の作品です。友人にすすめられ、小3時にハマりました。
「ハリー・ポッター」シリーズ:目が悪くなった原因です。
「アルセーヌ・ルパン」シリーズ:フランス文学の情熱が感じられます。訳の違いも面白かったです。