大量の伏線と最後の一行のどんでん返しを楽しめる短編集
『幸福な生活』百田尚樹
足立剛史くん(大阪府・関西創価高校)

僕が紹介するのは、今まで読んだ本の中で一番すごいなと思った本です。初めて読んだときに、心の中から「うわ、すげえ」っていう自分の声が聞こえたような、そんな本です。
このすごさをどのように伝えようかと考えているうちに、二つのポイントが浮かんできました。まず一つめは、文章構成がとてもおしゃれだということ。この本は、19本の短編から成っているのですが、ペラペラめくっていくと、不自然な文章がずっと続きます。一瞬、駄作なのかもと思わせるほどの不自然さ。でも、ある瞬間ハッと気付きました。大量の伏線が張られているのだということに。これが、不自然な文章の理由なのです。
でも、それに気付く頃には、一つの短編は終わりに近づいています。では一体、どういったフィナーレを迎えるのかというと、この中にある物語はすべて共通して、必ず右のページで終わるようになっているのですが、そのページにはたった一行しか文章が書かれていないのです。そして、その一行が、一つの物語の起承転結でのうちの「転」と「結」をすべて含んでいます。今までの大量の伏線の回収が、その一行でなされてしまう…すべての物語が、そのような美しい文章構成なのです。
そして、すべての物語が、最初は日常的な生活が描かれているのに、最後のたった一行でそれが崩れ去ってしまうというストーリーです。けれども、タイトルは「幸福な生活」だなんて皮肉ではありませんか。僕はこういう、粋な計らいというか、百田さんのおしゃれなところが大好きです。

ポイントの二つ目、それはこの物語の主人公です。この本は短編集で、それぞれに主人公がいます。ただ、全部の話に共通していることは、私たちの身にも起こり得るような日常的な状況が舞台になっているということ。だからこそ、この本の主人公は僕であって、あなたであって、すべての人間が主人公になることができ、大どんでん返しもとても身近に感じられます。
また、読んでいるときに恐怖感も味わえます。でも、この恐怖感により、また次の物語を読みたくなって、どんどんはまっていってしまう…この本はそんな本なのです。
<全国高等学校ビブリオバトル決勝大会の発表より>
さ・ら・に・足立剛史くん おススメの3冊

『DIVE!!』
森絵都(角川文庫)
オリンピックをめざすダイビングの選手たち。中学・高校生の繊細な心情描写がきれいな一冊です。
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『ルパンの消息』
横山秀夫(光文社文庫)
時効ギリギリの難事件を解決するのは誰か、といった本です。お洒落です。
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足立剛史くんmini interview
小学生のころ
学研まんが「○○のひみつ」シリーズが好きでした。科学や数学に興味が湧くと思います。
これから
『NARUTO』(岸本斉史)をマンガでちゃんと読もうと思って、受験勉強の息抜きに読んだりしています。友情、平和など少年漫画とは思えない深い価値観が秘められた作品だと思います。