エネルギー化学

身近な材料で『エネルギー』を創り出そう!

第3回 化学エネルギーを熱や電気に変える  

小久保 尚先生 横浜国立大学 理工学部 化学・生命系学科

活性炭の入った封筒を持ち、説明する小久保先生
活性炭の入った封筒を持ち、説明する小久保先生

活性炭を用いて発熱しよう

ここで簡単な実験をしましょう。化学エネルギーを熱エネルギーに変える実験です。発熱反応を利用する実験ですが、わかりやすくいうと使い捨てカイロの仕組みです。



用意するものは
・活性炭(消臭などに使われる炭)の粉末
・アルミニウムの粉末
・飽和食塩水を染み込ませたキッチンペーパー

皆さんにお配りした封筒の中に入っているのは、活性炭という、消臭などに使われる炭の粉末。それと、アルミニウムの粉末です。もし皆さんが自宅でこの実験を行う場合は、活性炭の代わりに後の実験で用いる備長炭を金属やすりで削ったもの1~2グラム程度で代用できます。バーベキューなどで使う普通の木炭ではほとんど発熱しないので、注意してください。アルミニウムの粉はアルミ箔を丸めて、やはり金属やすりで削った粉1~2グラムを使ってください。この時、出来るだけ細かい粉を集めてください。

飽和食塩水を染み込ませたキッチンペーパー(軽く湿っている程度)も配りますので、適当にブチブチちぎってください。これを封筒に入れ、さらにビニール袋に入れ密封します。そして、上をぎゅっと握り、しゃかしゃかとシェイク。うまくいくと100 ℃を超えるので火傷に注意してね。もし、やすりで削った備長炭の粉やアルミニウム粉を用いた場合、うまくいくと60~70 ℃くらいまで発熱します。

活性炭とアルミニウム粉と水の発熱反応を使用するカイロの作成手順
活性炭とアルミニウム粉と水の発熱反応を使用するカイロの作成手順
各班が一斉にシェイク。「熱いっ!」という声があちこちから上がりました。
各班が一斉にシェイク。「熱いっ!」という声があちこちから上がりました。

この作業自体は小学生でもできますが、皆さんは高校生ですから、何が起こったのか考えてみましょう。これは反応としては、下図の中の式で表されます。

カイロが発熱するしくみ
カイロが発熱するしくみ

活性炭は酸素分子を取り込みやすい物質です。アルミニウムの粉と、活性炭中にある酸素、食塩水に含まれている水。これらが反応して水酸化アルミニウムになります。食塩は実はこの反応には関係していません。触媒のような働きをしているだけです。

この式の左辺、つまり、アルミニウム、酸素、水が持っている化学エネルギーと、水酸化アルミニウムの化学エネルギーを比べると、左辺の方が高くなります。その結果、このエネルギーの差が熱エネルギーとして外に放出されるわけです。つまり左辺と右辺のエネルギー差によって、実験で「熱い」と感じるほどの熱エネルギーに変わったということです。

めちゃめちゃ熱かったけれど、しばらくすると熱が出なくなります。なぜかというと、左辺のうちの一つでも欠けると反応は進行しないんですね。ビニール袋を完全に密封して実験しているので、酸素が消費され尽くすと熱が出なくなります。もし冷めてしまったら、ビニールを開けて空気を入れ換えると、反応が復活するはずです。実は、密封しているため中に水分が残っていて、酸素だけ供給されればしばらく反応するでしょう。ただし、水やアルミニウムがなくなった時点で、カイロとしては役割を果たさなくなります。

ちなみに、やすりで削った備長炭粉やアルミニウム粉を用いると、温度がそれほど高くなりません。この違いは粉の細かさが異なるからです。今回の実験では、特別に細かい活性炭やアルミニウム粉を利用しています。細かい粉は表面積が大きくなるので、反応がたくさん起こり発熱量が増えます。そのため触れないくらい熱くなります。


備長炭を使って電池を作ろう

次は備長炭電池の実験です。用意するものは
・備長炭
・飽和食塩水を染み込ませたキッチンペーパー
・アルミ箔
・プロペラモーター

備長炭というのは、バーベキューの時に使ったりもしますが、普通の木炭より高級で、こうして叩き合わせると「キンキンキン」と金属音がします。ホームセンターなどで売っています。

まず備長炭に飽和食塩水を染み込ませたキッチンペーパーを巻きます。次に、その上からアルミ箔を巻きます。その際、アルミ箔と炭が接触しないようにしてください。そして、アルミ箔と備長炭にプロペラモーターの端子を一つずつ接触させます。するとプロペラが回ります。

備長炭電池の作製手順
備長炭電池の作製手順
キッチンペーパーやアルミ箔を巻くのに手間がかかる班があるものの、次々に各班のプロペラが回り出しました。
キッチンペーパーやアルミ箔を巻くのに手間がかかる班があるものの、次々に各班のプロペラが回り出しました。

これも、最初の実験と同じ反応で進み、同じ式で表すことができます。

最初の実験では、左辺が持っている化学エネルギーが発熱反応し、熱エネルギーを取り出しました。2番目の実験では電気ネルギーとして取り出しました。2番目の実験では完全に正確な言い方ではありませんが、高校の学習の中ではこんな考え方でいいでしょう。ちなみに、数分プロペラを回した備長炭電池を分解して、アルミ箔を広げ電灯にかざしてください。結構表面がボロボロになっていると思います。実際にアルミニウムが反応で消費されたことがわかりますね。この電池はとても簡単な構造ですが、もし家に備長炭があれば、自分で電池が作れるということですね。


興味がわいたら

各種電池のしくみについてわかりやすく解説した入門書

『マンガでわかる電池』

藤瀧和弘・佐藤祐一(オーム社)  

一次電池、二次電池、燃料電池、そして太陽電池など各種電池のしくみについてわかりやすく解説しており、高校生でも理解できる内容となっている。大部分がマンガであるため、電池について学習する高校生にとって、取り掛かりとしては最適な一冊。

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未来の光=エレクトロルミネッセンス(EL)の入門書として

『トコトンやさしい有機ELの本』 

森竜雄(日刊工業新聞社)

著者はエネルギー変換有機デバイスの研究をする愛知工業大学教授。電気刺激を光に変える未来の光=エレクトロルミネッセンス(有機EL)は、「発色が美しい」「薄くて軽量」「低消費電力」という優れた特徴を持つ理想のデバイス。この本は有機ELの発光原理や作成法などをイラスト図解でわかりやすく紹介。

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燃料電池の仕組みの入門書として

『「燃料電池」のキホン』

本間琢也・上松宏吉(ソフトバンククリエイティブ)

燃料電池とは、水の電気分解と逆の反応で、水素と酸素の持つ高い化学エネルギーを吐き出す反応によって電気を起こす。この本は、燃料電池の原理、二次電池(蓄電池)との違い、携帯電話の電源、今話題の燃料電池カーへの期待~来るべき水素エネルギー社会の意義まで語られる。

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未来の光=光るプラスチックの発明の発想、化学の魅力が書かれた

『私の歩んだ道 ノーベル化学賞の発想』

白川英樹(朝日選書)

2000年度のノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士は、聴衆に向かって「私の歩んだ道」の何からしゃべろうかとためらった時、子供の時読んだ「不思議の国のアリス」の一節が思い浮かんだという。うさぎの執事が王様に「どこから始めましょうか」と言うと、王様は「はじめから始めなさい」「ずっと話を続けなさい。そして終わりが来たら、そこで終わりなさい」と答えた。「私もこれにならってはじめからはじめようと思います」と白川先生は言う。この本は、プラスチックに電気を流すことができることを発見、21世紀の光る高分子の扉を開いた白川先生のユーモアと少年時代の思い出、化学に興味を持つようになったきっかけが書かれている。

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鈴木カップリングが解説 ノーベル化学賞受賞者の生い立ち本―理系を志す人へ

『世界を変えた化学反応 鈴木章とノーベル賞』

鈴木章 監修(北海道新聞社)

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再生エネルギー利用の広がりを描く(エネルギー相互変換の仕組みを学んだ後の応用編として)

『ご当地電力はじめました!』

高橋真樹 (岩波ジュニア新書) 

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原子-分子-有機物質のイメージが明確

『ニュートン別冊 すぐわかる!ビジュアル化学 改訂新版』

(ニュートンプレス) 

物質を構成する原子、分子、結晶、高分子について美しいイラストで解説されている。高校レベルから大学基礎レベルの化学について平易な文で記述されている。本書の後半には日本人ノーベル化学賞受賞者の受賞時のインタビューや簡単な受賞内容についても掲載。

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小久保尚先生プロフィール

1974年生まれ、神奈川県立柏陽高等学校出身。東京理科大学、東京工業大学で学び、研究者として横浜国立大学へ。専門は高分子化学。2009年には高分子研究奨励賞(高分子学会)