ネイチャーテクノロジー、環境学

物質文明を超え、自然との共生、人間の豊かさをめざす新しい学問へ

〜大学をやめ、沖永良部島に住んでの「90才ヒアリング」から明らかに

 

石田秀輝先生(元東北大学環境科学研究科、合同会社地球村研究室 代表社員)

大学を卒業後、企業でセラミックス材料の研究に従事。環境にやさしい材料の開発技術を経て、自然と共存するライフスタイルを創造していく技術の研究を提唱するようになった石田先生。所属も、企業(INAX)から、大学(東北大)、そして今では自給自足を模索する個人の生活者と、変わっていきました。その提唱する工学の命名は、ネイチャーテクノロジー。その学問を実践的に紹介いただきました。

 

こちらは、石田先生の本

『光り輝く未来が、沖永良部島にあった! 』(ワニブックスPLUS新書

制約の中で豊かに暮らすための新しいライフスタイルの要件が整理され、提案されています。

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第1回 夕日が美しく見える小さなジャングルを手に入れて

~『90歳ヒアリング』で昔の暮らしぶりを引き出す

筆者@沖永良部の海を一望できる『酔庵』の庭で
筆者@沖永良部の海を一望できる『酔庵』の庭で

沖永良部島にはまる

 

僕は大学時代に地質・鉱物学を軸とした材料工学を専攻し、伊奈製陶(のちにINAX、現在はLIXILの1ブランド名)に就職して、取締役CTO(最高技術責任者)として技術戦略会議、環境戦略会議兼任議長などの立場を経験してきました。しかし「企業の成長戦略(経済)と環境戦略の両立はどうしても成立しない」ことのジレンマから抜けきれず、ものつくりの本質を再考したいと退社を決意し、51歳の折、東北大学大学院環境科学研究科で仕事を始めることにしました。大学での研究を通じて、ますます厳しくなる地球環境制約の中で心豊かに暮らすライフスタイルを定義し、それに必要なテクノロジーやサービスが求められていることがやっと見えてきました。

 

僕が沖永良部島を初めて訪れたのは1998年のことでした。当時勤務していたINAXの「リフレッシュ休暇制度」を使って、鹿児島から離島伝いに沖縄まで出かけるのが我が家の計画でしたが、その島巡りの中で、どういうわけか沖永良部島にはまってしまったのです。

 

以来、毎年3〜4回は島に出かけ、島人(しまんちゅ)に勧められるままに、夕日が美しく見える場所に小さなジャングルを手に入れ、2004年にはその土地に小さな庵 『酔庵』を建て、そして2014年3月末、僕は61歳で東北大学を退職し、奄美群島の沖永良部島に移り住んだのです。 

 

確かな未来は懐かしい過去にある

 

なぜ僕はこんなにも沖永良部島に惹かれるのでしょうか? 

 

詳細については、拙著『光り輝く未来が、沖永良部島にあった!』の中で紹介していますが、僕たちは“心豊かな暮らし方のかたち”を考えるため、『90歳ヒアリング』という手法を開発し、ヒアリングを続けています。90歳前後のお年寄りの方々から、昔の暮らしぶりを引き出し、それを改めて整理してみようというプロジェクトです。

 

すでに海外2カ所、国内全都道府県で450人を超える方々から、「便利にはなったけど今の人たちはかわいそうだねぇ、昔のほうが楽しかったねぇ」というお爺やお婆の貴重な話を伺い、“心豊かな暮らし方のかたち”を創るためのキーワードが、「確かな未来は、懐かしい過去にある」ことを確信するに至りました。まさに、その「懐かしい過去」が沖永良部島には、まだ色濃く残っているのです。僕が、この島に惹かれつづけたのは、どうやらこの点が理由だったことが、ようやく最近わかってきたところなのです。

 

移り住んだこの島で「確かな未来は、懐かしい過去にある」ことを具体的に体感し、そこから現実解としてのビジネスや政策課題を生み出す『間抜けの研究』(後述します)を開始しようと思っています。 

 

石田先生の本・サイト

『光り輝く未来が、沖永良部島にあった! ~物質文明や金融資本主義社会はもう限界です~』

石田秀輝 (ワニブックスPLUS新書)

地球環境のことを考えると節水、節電、省エネに関するような我慢を基本とした暮らし方やテクノロジーが見えてきます。一方、制約の中で豊かであるライフスタイルを考える思考(バックキャスト思考)を導入すれば、さらにその答えを自然に求めることにより従来と全く違ったテクノロジーやシステムが見えてきます。例えば水の要らない風呂など。

 

地球環境問題は不可避ではあるものの、それに対する解は部分最適なものがほとんどです(例えば地球温暖化など)。今考えなければならないことは、我々自身の暮らし方を変えることにより、全く新しいテクノロジーやシステムが見えてくることを現実解として理解して欲しいということであり、それは従来の延長にある学問ではなく、全く新しいそして今世界から求められている学問でもあります。

 

プロローグとコラムを読んでいただくだけでも、企業で働いていた筆者が何を思い大学教授になり、さらに沖永良部島に移住して次の研究を進めようとしているのかイメージをつかんでいただけると思います。

 

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『科学のお話 『超』能力をもつ生き物たちシリーズ』

石田秀輝 (学研)

生物は最先端科学でも理解できない謎に満ち溢れている。生き物の能力に着目した道具や技術を紹介。『カがつくった いたくない注射針』『ホタルがつくった エコライト』『ヤモリがつくった 超強力テープ』『ハスの葉がつくった よごれない服』の全4巻。

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『自然に学ぶ粋なテクノロジー  なぜカタツムリの殻は汚れないのか 』

石田秀輝 (化学同人)

ネイチャーテクノロジーの本質論、ライフスタイルからテクノロジー創生までの一連のシステムを解説しています。

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『すごい自然のショールーム』ネイチャーテック研究会(WEBサイト)

自然の摂理にかなった「新しい物作り」や「暮らし方作り」のための、約300の自然の科学的な不思議が整理・紹介されています。

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