ネイチャーテクノロジー

【BOOK】『地球が教える奇跡の技術』 

石田秀輝+新しい暮らしとテクノロジーを考える委員会(祥伝社)

 

石田先生が提唱する「ネイチャー・テクノロジー」とは、「自然の本質を見きわめ、自然のすごさを賢く活かす技術(テクノロジー)」のこと。その好例が「カタツムリの殻」から生まれた「汚れないタイル(表面素材)」。カタツムリは雨に濡れるだけですべての汚れを取り去ってしまう。「ネイチャー・テクノロジー」はカタツムリの殻の構造を研究し、「汚れがつきにくく、水だけで取れやすい」セラミックスのタイルやキッチンシンクを生んだ。

 

石田先生は、自然と寄り添いながら生活し、文化を築いてきた日本人こそ、「ネイチャー・テクノロジー」を世界に先駆けて実践できると言う。

 [出版社のサイトへ]


日本人が、古来持つ「粋」の精神の豊かさを、後押しする「ネイチャー・テクノロジー」

石田秀輝先生 東北大学大学院環境科学研究科

<研究分野:セラミックス/鉱物学/環境技術マネジメント>

石田秀輝先生
石田秀輝先生

日本のエコテクノロジーは実にすごい。最近の冷蔵庫は、15年前の製品の20%のエネルギーで動くのです。しかし、そういうエコ製品が市場にあふれ、生活者の意識もずいぶん向上しているにもかかわらず、環境が劣化していく一方なのはなぜでしょうか。

 

僕はこれを「エコジレンマ」と呼んでいます。テクノロジーがライフスタイルに責任を持つ役割を果たしていないのです。工学は、本来人間の精神性までも担保すべきなのに、それをしていない。だから物質的な豊かさだけを追ってしまい、作れば作るほど環境負荷が増大するのです。環境のことを考えて一生懸命にエコ商品を作った人たちも、買った人たちも、結局、環境負荷を上げる手助けをしていることに気がつきはじめています。

 

もともと工学はギリシャ語の「τεχνη(テクネー)」ですが、テクネーのラテン語訳は「ars(アルス)」でアートです。だから、もっともっと人を豊かにすることに責任を持つ工学に戻るべきだし、そのためにも新しく作り直さなければならない、というのが私の思いです。

 

このエコジレンマを解消するためには、厳しい環境制約の中で、心豊かに生きるライフスタイルとはどういうものかという人間の生活や社会のあり方を描いて、それに必要なテクノロジーを作り出さなければいけません。私の場合、ライフスタイル・オリエンテッドなテクノロジーを自然の中に探しに行きます。自然は利己的、すなわち自分が生きることだけを考えているにもかかわらず、持続可能な社会を持ち、完璧な循環を最小限のエネルギーで駆動しているからです。

 

他大学の研究にネイチャー・テクノロジーをプラス

 

そこで私たちは「ネイチャー・テクノロジー」という「自然のすごさを賢く活かす」新しいテクノロジーの創出システムを創ろうとしています。シロアリに学んで土で作る壁や床材は、無電源のエアコンになります(※1)。カタツムリの殻を模すことで、汚れない表面素材ができます(※2)。トンボの羽の原理で風力発電を行うなどの例もあります。最近では、家庭農場という、一番小さな循環である家の中で、壁からレタス、引き出しからキャベツが出てくるような新しいアグリの形もすでに実現しつつあります。

 

私の専門は、鉱物やセラミックスですので、できるものは限られます。したがって、研究の仕方は他大学との連携になります。私たちは、ネイチャー・テクノロジーの考え方を様々な研究者に伝える同時に、「先生が研究なさっているテクノロジーはこのように使えませんか?」と問いかけます。そして、学生を送り込んで共同研究するのです。例えばトンボの風力発電の場合、大分の日本文理大学でトンボの研究をしている先生が「火星でも使える飛翔体」を考えていました。トンボはもっとも低速で滑空ができる昆虫です。もっとも低速で滑空ができるということは、ちょっとの風でも浮力が出る。だったら、微風でも回る風力発電ができるはずだ、というアイデアにつながったのです。また、カタツムリの研究は、筑波の産業技術総合研究所とも一緒に行っています。

 

※1 無電源のエアコン:土の水熱固化体を床に施工したマンションでは、月平均で17%のエネルギー消費が低減。


※2:カタツムリの殻が汚れないのは、写真にあるように表面にある数十ナノメートルからミリメートルに至る微細な凸凹のおかげ。


性能8割でも精神的には満足

 

私がこのような研究を始めたのは、企業人時代の自己矛盾が発端です。「循環型社会を創ります」と企業は言うけれども、循環型社会とは、究極的にはものを作らないはず。その反面で、儲けるためには最先端の開発をやらざるを得ない。この自己矛盾を克服しようと、まず、哲学や倫理学の知識が大事だと思い、勉強し始めたのです。

 

テクノロジーがなぜ物欲を煽るのかについての答えが出ないことには、テクノロジーの本質に近づけない。そういう精神的な放浪の旅を続けた末、日本人の「粋」の心をテクノロジーに移せないかという考えに至りました。「粋」というのは、要するに精神欲です。「環境に負荷をかけないが精神的には満足」というテクノロジーの形を当たり前のものにしたいと思ったのです。

 

例えば開発例に挙げた無電源エアコンは、セラミックでできていて電気式の7割から8割ぐらいの性能しかありません。「豊か」の指標を物質的な豊かさだけにしてしまうと、性能が8割ですから「悪い」あるいは「電気式のほうがいい」ということになってしまいます。しかし、無電源エアコンは、従来のエアコンという機械を使わない暮らし方そのものの提案なのです。その中で会話や議論を交わすうちに、このテクノロジーに愛着を持っってくれるライフスタイルを想定して作ったものです。エアコンというよりも、家の中の会話を豊かにしたり、ものを大事にすることを教えたりする素材です。そうすると我慢しないでエネルギーも減り、性能は多少機械式には劣っていてもみんなが心豊かになれる。

 

今までにあった例では、ウォークマンがそうでした。ウォークマンは「音楽を外に持ち出す」というライフスタイルを売り、テクノロジーの新しい価値観を創出しました。私たちはそれと同じく、地球環境をベースにして、ライフスタイルまでも論理的に組み立てる新しい手法を今創っていて、それについて来るテクノロジーを同時並行で研究している、というとわかりやすいかもしれません。

 

エネルギーをお隣さんと貸し借りするライフスタイル

 

以前から「このままでいくと、2030年くらいには文明崩壊の引き金を引く」と警鐘を鳴らしてきました。当時は、「そんなバカな」「言い過ぎだ」とずいぶんご批判をいただいたのですが、「我々は、2030年の現実を20年早く見てしまった」というのが、震災についての私の印象です。学生たちにもそれは猛烈に伝わっています。「瓦礫撤去の手伝いなんかしなくてもいい。ただ観察しろ」と彼らを1カ月間震災の現場に出してから、もう目の色が変わりました。文化や文明がいかに脆いか、そして、その文化や文明を工学という立場から、自分たちの手で作らなければならないことを相当強く意識したと思います。

 

今回の震災の教訓として、近隣の人たちと協力して助け合わないと生きていけない、地域社会との一体感が必要だとみんなが認識したはずですが、私たちはそのようなビジョンをすでに持っていました。昔、味噌や醤油を近所に借りに行ったように、エネルギーを「共用電池」で貸し借りするライフスタイルです。「今日はたくさんお客さんが来るから電気を貸して」とか、「しばらく旅行に出るから電気を使っていいよ」とか。実際に、避難所や仮設住宅で共用電池を使っていく研究が同時並行で進んでいます。

 

また私たちはライフスタイル研究もしているので、元気な避難所と暗い避難所の暮らし方の違いをチェックしてみました。そうすると、子どもたちに「電気を消せ」と言うのではなく「この明かりが必要かな?」と、問いかけるだけでエネルギー消費が1割減る。そして家族団欒があるだけで2割減る。家族団欒のためには、子どもも大人もお年寄りも家族みんなに生活の中での役割を持たせればいい。そういう条件が次々と挙がってきました。

 

仮設住宅や避難所でも、そういう暮らし方をするだけでエネルギー消費が3割減る。そして前述した共用電池でさらに3割減って、震災前に比べて4割のエネルギーで暮らすことができるのです。原発がダメなら代替の発電を探すような、何かと何かを置き替えるのではなく、新しいライフスタイル自体を提案して、そのライフスタイルに必要なテクノロジーとは何かと考えると、従来とは違ったエネルギーの使い方になるはずです。そういったものを、今後もどんどん考えていきたいと思っています。

 

環境版MBAの横断学で人材育成を

 

新しく創った独立大学院「環境政策技術マネジメントコース」では、e-ラーニングも活用して、仙台と東京を中心に、主に社会人を対象として、「環境をベースにした新しい事業案やビジネスシステムを創る」という環境版MBAの教育を行っています。

 

「地球環境がこうなるときに、御社の課題はこれですよ」と企業に対するコンサルティングを行い、年商数億円を上げている修了生もいます。また、生物多様性を種や遺伝子レベルではなく、私たちが生きていく上でどのような関わりを持つのかということを研究した人もいました。彼はそれでゲームを作って、メーカーに売り込んで製品化され、「エコプロダクツ展」(※3)のグランプリを取ったのです。外務省で温暖化の交渉をしている官僚が学んでいたり、このコースでの研究が評価されて、毎日食うのにも困っていた学生が国立環境研究所の研究員として採用されたりなど、ユニークな成果が出ています。

 

環境の学問というのは横断学です。哲学・倫理学、文明・文化など、テクノロジー以外の分野にも通じてないと議論ができません。鳥瞰でものを見られる人材を育成するための学際横断学を、今創らなければならないのです。

 

※3 エコプロダクツ展 毎年12月に東京ビッグサイトで開催されている環境配慮型製品・サービスに関する国内最大級の一般向け展示会。1999年から開始。

 

 

プロフィール

石田秀輝

(いしだ・ひでき)東北大学大学院環境科学研究科教授。

 

1953年生まれ。高校時代は授業に出ずに弓道ばかりやって、停学になることもしばしばの「ワル」だった。竹内均先生に憧れ、「地球物理をやろう」と東大に合格するも、交際中だった彼女が受かった山口大学へ進学。株式会社INAXで環境戦略と技術戦略担当役員まで務めたが、自己矛盾を感じ51歳の時大学教授に転身。趣味はずっとテニスだったが、現在は時間が取れないので料理。沖永良部島にあるネイチャー・テクノロジー満載の「風の家」では、シーカヤックで海に出て魚を獲り、70人分もの料理をつくることも。