パワーエレクトロニクス・半導体デバイス

めざせ! 電力革命
~シリコン(Si)を超えたシリコンカーバイト(SiC)によるトランジスタ

須田淳先生 京都大学大学院 工学研究科 電子工学専攻 半導体物性工学分野

おススメ本

『天野先生の「青色LEDの世界」

―光る原理から最先端応用技術まで』

天野浩、福田大展(講談社ブルーバックス)

20世紀中は無理と言われていた、青色LEDの突破口を赤崎勇先生との師弟コンビで突破した天野先生による青色LEDの解説。学生時代の天野先生の研究の苦労、失敗や成功の喜びが分かりやすく書かれています。理工系大学で研究や学会発表をすると言っても想像できないと思いますが、この本を読むとそれがよくわかると思います。

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第1回 劇的に世の中を変えたエジソンを見習いたい!
~真理追究の理学に対し、工学は、技術で便利さ、環境・資源問題に応える

須田淳先生
須田淳先生

理学部にするか工学部にするか悩んでいる人が多いのではないでしょうか。どちらも理系の学部ですが、考え方が大きく異なります。

 

工学というのは一言で言えば「世の中を便利にする新しい技術を開発する学問」です。例えば、機械工学の先生は、燃費の良い高性能エンジンを作りたいと思っています。土木工学の先生は地震に強い建物を一生懸命考えている。化学工学では軽くて強い夢の新材料の合成に取り組んでいます。新材料に関して、ここ20年間の研究成果が実ったものに、鉄より軽くて強い炭素繊維があります。それを実際に使った飛行機が空を飛んでいます。電子工学の場合、すごく計算速度が速くて、手のひらに載るくらい小型軽量なスーパーコンピュータの研究があります。そんなの無理だと思いますよね。でも、いま皆さんが持っているポータブルゲーム機は、30年前のスーパーコンピュータよりも性能が高いのですよ!空調の効いた大きな部屋におかれていた巨大なスーパーコンピュータが手のひらサイズになってしまったわけです。途方もない夢のようなことを実現してしまうのが工学であり、工学が便利な世の中をもたらしているわけです。

工学に取り組む人を「工学者」と言います。私は一番の工学者はエジソンだと思っています。エジソンは、実用的な電球を開発し、それまで夜の明かりを火に頼っていた人々に、電気の光を提供しました。それにより世の中は劇的に変わりました。しかも、電力会社まで作りました。今で言えばハイテクベンチャーの社長です。エジソンの会社は、今でもゼネラルエレクトリック(GE)として存続しています。

 

エジソンの有名な言葉に「Genius is one percent inspiration and 99 percent perspiration. 天才とは1%のひらめきと99%の努力である」というのがあります。お母さんからこの言葉を引き合いにして、「エジソンだって努力したんだから、あんたのような凡人はもっと努力しなきゃだめよ!」と言われた人もいるのではないでしょうか。でも実はそれは大間違い。エジソンが言いたかったのは、どんなに努力しても1%のひらめきがなければ、大きな成果は得られないってことです。努力は大事ですし、エジソン自身も一日に16時間近く実験を行っていたそうです。しかし、その根底に「ひらめき」、新しい発想や創意工夫がなければダメということですね。

これに対して、理学部は何をするところでしょう。理学というのは、一言で言えば、発見する学問です。例えばニュートンは「万有引力」を見出しました。リンゴが落ちることと、月が地球の周りを回っていることを同じように捉える法則を見出したわけです。アインシュタインは相対性理論において「時空」という、時間と空間が一体となった新しい概念を発見しました。そういう自然に潜む真理を発見し、普遍的な法則を明らかにするというのが、理学なのです。

 

あるとき、仲の良かった理学部出身の先生と研究の夢について語り合ったことがあります。とても面白かったのはその先生が「教科書に載るような新しい法則や現象を明らかにして、自分の名前を教科書に残したい」と言ったことです。工学部の私は、「名前は残らなくても自分の発明した技術が世の中で広く使われることが夢だ」と言いました。理学と工学の研究者の方向性の違いを端的に表していると思います。

最近の工学の流れについて、付け加えたいことがあります。今までの工学というのは世の中を便利にするということに大きな価値を置いて頑張ってきました。しかし、現代社会では便利さと引き換えに様々な問題が生じています。環境破壊、資源枯渇、地球温暖化問題などです。現在の工学は、便利さの追求だけでなく、このような人類の抱える問題を解決する研究が非常に重要視されています。

 

ちょっと気分転換クイズ

大学の専門的な理工学に取り組むためには、高校で履修する数学や物理の本質を理解していることがとても大切です。y=A√xのグラフを書いてみてください。(A>0とします。)

以下のような図を書いた人。この人は10点満点中4点です。なぜ満点ではないのでしょう?

須田先生の寸評

概略図なので、数値的な正確さは問いませんが、特徴はしっかり捉えておく必要があります。上の図では、原点を通ること、単調増加であることは捉えていますが、それでは不十分ですね。

 

原点でのグラフの傾きは? グラフの傾きはxの増加とともにどうなるのか? Xが二倍になるとYは何倍になりますか? これらをしっかりおさえた図が必要です。y=A√xのこれらの性質は、y=A√xという関係を持つ様々な物理現象を理解するときや、解析するときに大変重要になってくるのです。

興味がわいたら BookGuide

『天野先生の「青色LEDの世界」

―光る原理から最先端応用技術まで』

天野浩、福田大展(講談社ブルーバックス)

赤と緑の発光ダイオードは比較的早期に実現されたが、青色の実現は極めて困難で20世紀中は無理と言われていた、その青色LEDの突破口を赤崎勇先生との師弟コンビで突破した天野先生による青色LEDの解説。

 

半導体デバイス分野における、高性能な発光ダイオード(当時は存在しなかった青色発光ダイオード)を実現する鍵となる半導体の結晶成長技術について書かれています。

 

天野先生は、当時世の中になかった、最初の青色LEDの実現に成功した研究者です。学生時代の天野先生の研究の苦労、失敗や成功の喜びが分かりやすく書かれています。理工系大学で研究や学会発表をすると言っても想像できないと思いますが、この本を読むとそれがよくわかると思います。

 

研究で成果をあげるということがどういうことかを天野先生の経験を通して具体的に感じて欲しいと思います。ノーベル賞を受賞できるのはごくわずかな研究者ですが、今日の科学技術があるのは、世界中のたくさんの研究者がそれぞれ自分の考え、信念に基づいてあげた成果が集まってなりたっているのです。

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『電子の巨人たち(上・下)』

マイケル・リオーダン、リリアン・ホーデスン 訳:鶴岡雄二、ディーン・マツシゲ(ソフトバンククリエイティブ)

今日の高度なコンピュータ、情報通信を可能にした出発点が「トランジスタ」という半導体デバイスです。この功績でノーベル賞を受賞したショックレー、バーディーン、ブラッテンの時代、半導体の様々な性質が次々と発見され、それがいろいろな応用へと展開していった当時の興奮がわかる本。

『とことんやさしい太陽電池の本』

産業技術総合研究所太陽光発電工学研究センター(日刊工業新聞社)

持続可能な社会実現のための大きな技術の一つ、太陽電池。その原理や材料、最先端研究についてわかりやすい言葉で書かれた本。つくばの産業技術総合研究所のプロの研究者が書いたのでわかりやすいだけでなく、科学的にも正確にかかれています。

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『世界を動かすパワー半導体 ―IGBTがなければ電車も自動車も動かない』

関康和、児玉浩憲(電気学会)

半導体デバイスは、情報通信、LED、太陽電池だけではない。電力を扱うパワー半導体デバイスがある。電車、電気自動車、エレベーターやエアコン、身の回りのありとあらゆるところで使われており、省エネに貢献している。現在の主役のIGBTは日本で実用化されたことも見逃せない。

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