君がいる俳句のセカイ

第2回 秋の壁白ければ目で鳥を描く(富澤赤黄男)


俳人 佐藤文香さん

―俳句甲子園で活躍する高校生が主人公のマンガ『ぼくらの17-ON!』の中に登場する俳句を担当

走る人は「ランナー」、漫画を描く人は「漫画家」、俳句を書く人はなんと呼ばれるでしょう。

ハイジンです。 廃人ではなくて、俳人。

しかし、俳句を書けばそれだけお金がもらえる、というのは、なかなか難しい。

そもそも小説家がお金を稼げるのは小説が売れるからで、俳人が書いたものでお金を稼ぐには、俳句が売れなきゃいけないですからね。ちなみに、俳句の作品を載せた本は「句集」といいます。

じゃ、句集ってどこで買えるの?

大きな本屋さんに行ってみましょう。「詩歌コーナー」「俳句・短歌コーナー」ここにあります。

松尾芭蕉、種田山頭火、金子兜太……

前回ご紹介した私の句集『君に目があり見開かれ』『海藻標本』が置いてある本屋さんも、たまーにあります。

でも、句集は、そんなに売れません。
だって皆さん、漫画は買ったことあっても、句集を買ったこと、ないでしょう?
その存在すら知らない人も多かったはず。そんなことでは売れるはずがありません。又吉直樹『火花』の200万部突破に対して、私の第二句集はようやく1000部突破です(これでも、句集の中では売れている方らしい)。

じゃあ、俳人はどうやって生きていくのか。銀行員兼俳人、教員兼俳人のように、俳句以外の仕事をしている人が多いですね。俳句だけで生活しているのは、ごく一部の俳人だけです。

ところで、書店の俳句コーナーに行くと、ちょっと異様な空気に気づく人もいるはずです。そう、この棚、句集ではなく「俳句入門書」であふれています。字がデカい!

なぜかというと、老眼の人に読みやすいように、ですね。

そうです。皆さんのイメージどおり! 俳句は「老後の趣味」に選ばれることが多い。俳句って、「読みたい人」よりも「つくりたい人」が断然多いのです。

だから、「私が書いた俳句を読んでください」と句集を差し出すよりも、「あなたの俳句、添削してあげますよ」と先生になる方が、需要がある。というわけで私も例に漏れず、ほとんどの方が自分より30歳以上年上の句会の先生をやったりすることもあります。

でも、できれば私たちは、若い人に俳句に触れてほしい。
「お稽古事」としての俳句じゃなくて、「おもしろいもの」としての俳句を知ってほしい。

なので、若い人の運営するイベントスベースでUstream配信したり、

高校生に俳句を教えに行ったり、

小学校の先生たちに、俳句の教え方を教えに行ったり、

歌人の東直子さんとトークをしたり、

左が東さん、右は佐藤さん
左が東さん、右は佐藤さん

現在は、若い人でも楽しめる、俳句の本をつくろうとがんばっています!


句集が売れた方がいいか、売れない方がいいか、という問題は、そりゃ出した本人としては、できれば買ってほしいですけど、そのためには少し、俳句をめぐる環境を変えないといけないかなと思っています。

俳句をやっているおじさんの中には、「別に俳句を広めたりしなくていい、わかる人だけわかればいい。句集なんてもともと売れないものなんだから、売れるための努力するなんて恥ずかしい」と言う人もいます。でもね、そんなおじさんだけのものにしておくのはもったいないくらい、俳句はけっこう面白いと、私は思うんですよ。

私の理想は、音楽が好きな子が吹奏楽部に入り、スポーツの好きな子が野球部に入るように、言葉の好きな子が俳句部に入るくらいの、カジュアルな選択肢のひとつとして、俳句があればいいなと思うんです。そして、「最近、俳句読んでるんだけどさ」って言ったときに「かっこいいなお前!」って言われるように、なんとかならないかなと。

  秋の壁白ければ目で鳥を描く  富澤赤黄男

あえて句の内容の説明はしませんが、私はこの句をはじめて見たときからかっこいいと思っていて、それは音楽で言えば、くるりの「街」やキリンジの「雨は毛布のように」がかっこいい、というのとほとんど変わらない。だから私は、若い人が見て「あ、いいな」と思える句が、若い人たちの近くにあるような、そんな世界をつくるところまでいきたいのです。

というわけで、他のジャンルで何が面白いか、何がかっこいいかに、敏感でいたいと思っています。あと、ちょっとは、自分のオシャレにも気をつかうようになりました。


佐藤文香のHAIKU BOOK CAFE 2

『りんごかもしれない』

ヨシタケシンスケ(ブロンズ新社)
存在を疑ってかかる想像力を身につけるには、この絵本。大人になりかけの、フィックスしつつある思考回路をほぐしてくれます。音の楽しみも。
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『舵を弾く』

三角みづ紀(思潮社)
生み落とされた言葉同士が紙の上に滲み合うように、残響が遠くで重なり合うように、それが偶然であるかのように、詩人の本能が書いた、詩。
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『たんぽるぽる』

雪舟えま(短歌研究社)
私たちがこの星に、今、たまたま生きていることが、こんなにきらめくということ。日常が、なんでもなくないということ。短詩の神様が宿るのは、こういうところです。
[出版社のサイトへ]

『君に目があり見開かれ』(港の人)

佐藤文香第二句集。ポップな表紙で、薄くて軽い、手に取りやすいのが特徴です。タイトルになった〈柚子の花君に目があり見開かれ〉以外にも〈泣きやんで泣いて泣きやむまでゐてよ〉〈また美術館行かうまた蝶と蝶〉など恋愛を詠んだ作の多さから、別名を「恋愛句集」とも。
[出版社のサイトへ]


佐藤文香(さとう・あやか)プロフィール

1985年生まれ。神戸市の郊外で育つ。小学校6年生のとき松山へ。中学校1年生のときに夏井いつき氏の俳句の授業で俳句をはじめる。松山東高時代に出場した俳句甲子園では、第4回団体優勝、第5回「夕立の一粒源氏物語」で最優秀賞。2006年、第2回芝不器男俳句新人賞対馬康子奨励賞受賞。

 

現在、俳句甲子園OGとして、各地で俳句講座・ワークショップを行っており、高校生には、国語ではなかなか教えられない、俳句作りの魅力を伝えるマドンナ先生として名をはせている。NHKラジオ第1「つぶや句575」、アキヤマ香『ぼくらの17-ON!』(双葉社/1~4巻)の俳句協力、「ダ・ヴィンチ」書評「七人のブックウォッチャー」の一人。


句集に『海藻標本』(宗左近俳句大賞受賞)、『君に目があり見開かれ』、詩集に『新しい音楽をおしえて』(電子版)、共著に『新撰21』がある。