君がいる俳句のセカイ

第3回 俳句甲子園はなんだか体育会系

名古屋高校vs.北海道旭川東高校 ~新しい時代の予感

 


俳人 佐藤文香さん

―俳句甲子園で活躍する高校生が主人公のマンガ『ぼくらの17-ON!』の中に登場する俳句を担当

俳句甲子園を知っていますか。マンガ甲子園や写真甲子園など、数ある◯◯甲子園のなかに、「俳句」甲子園もあるんです。

 

毎年8月に愛媛県松山市(正岡子規の故郷、俳句の聖地!)で行われていて、今年は第18回。テレビで見たことある、という人もいるかもしれません。高校生が高校ごとに5人1チームになり、2チームが赤白に分かれて対戦します。俳句を出し合って、質疑応答をし合い、その作品点と鑑賞点を競います。

 

俳句なのに、なんだか運動部の試合みたいに、出場者も、観客も、熱くなります。

 

赤:北海道 旭川東高等学校 私服の男女、自然体なのが魅力。白:愛知県 名古屋高等学校 夏の制服に赤ハチマキの情熱的で端正な男子たち。
赤:北海道 旭川東高等学校 私服の男女、自然体なのが魅力。白:愛知県 名古屋高等学校 夏の制服に赤ハチマキの情熱的で端正な男子たち。

さて、2015年の俳句甲子園の決勝戦の様子をお伝えしましょう。

 

 

敗者復活戦で勝ち上がった地元松山の済美平成高校を破り、全国大会出場2回目の名古屋高校が駒を進めました。一方、優勝常連校である東京の開成高校を、準決勝で破ったのは、北海道旭川東高校です。

 

どちらも決勝戦に出場するのは初めて。俳句甲子園の新しい時代の訪れを予感させます。

 

兼題(共通のお題)は「待」です。

 

1.先鋒戦

赤(旭川東高校) 流星を待ち伏す滑り台のうへ

白(名古屋高校) 流星を待つや宇宙は成長す

 

どちらも「待」という題で「流星を待つ」ことを表現した句です。偶然の一致に会場は騒然。

 

ここから4分間のディベートが始まります。まずは、白チーム(名古屋高校)から赤チーム(旭川東高校)への質問です。

 

名古屋 「流星を待つ」というところにときめきはあるんですが、待ち「伏す」のかなって。

 

旭川東  流星をただ待っているというだけでなく、「待ち伏す」としたところで、目を輝かせてじーっと待っている、待っている人の心情が出ている表現になっています。

 

名古屋 「のうへ」が気になったんです。滑り台で流星を待っていると言っただけで、滑り台の上で夜空を見上げていることはわかると思うんです。そこを削って、流星の冷たさや質感を入れればよいのではないでしょうか。

 

旭川東  「うへ」という表現から、人が見えてくるんですよね。少しでも空に近づいて、いいところで見たいという、流星を待つ期待感というのも表しています。

 

名古屋 滑り台の上で流星を待っている、その光景は想像しやすいのですが、ファンタジーに終わっているのではないでしょうか。

 

旭川東 心情だけでなく、質感も感じてほしいんです。流星を待つ満天の星空、秋の_澄んだ空気、滑り台の金属の硬質なかんじ。そういうところに秋の夜らしさがあり、リアリティがある句になっています。

 

続いて、赤チーム(旭川東高校)から白チーム(名古屋高校)への質問です。

 

旭川東 僕、天文部にも入っているので、この句けっこう好きなんです。流星を待っていて、そこから宇宙は成長しているんだなって感じる、そういう句だと解釈したんですけど、ちょっと景を無理に広げすぎちゃったのではないでしょうか。

 

名古屋 流星っていつ出るかわからないですよね。だんだんぼーっと無心になっていくんです。そこで切れ字の「や」をジャンプ台として使い、「宇宙は成長す」という、大きな普遍の真理を詠んだ句なんです。

 

旭川東 「流星を待つや」と切れ字を使っているのに、後半の「宇宙は成長す」に持って行かれているような気がするんですね。「や」を使うなら、流星を待つ方にフォーカスした方がよかったと思うのですが、どうでしょうか。

 

名古屋 後半は自分は介在しない、普遍の真理を詠みました。「や」によって広がる世界を味わってほしいんです。

 

旭川東 やっぱり取り合わせが気になります。流星と宇宙っていうのは、星を見ていて、そこから考えがいったのはわかるのですが、燃え尽きていくものと、成長するものというのは、あっていないというか、反対という印象を受けるのですが、いかがですか。

 

名古屋 儚いところから大きなものを詠んだのは、成功していると思います。宇宙が成長するということで、自分が溶け込んでいくようなところも詠めていると思います。

 

質疑応答が終わると、審査員13名による判定です。作品点と鑑賞点の合計で、勝っていると思うチームの旗を揚げます。

 

9対4で赤、旭川東高校の勝利!

 

審査員の岸本尚毅さんより、寸評です。

 

――両方とも素晴らしい句です。「流星を待つや宇宙は成長す」、流星が飛んで宇宙が成長するのは当たり前なんだけど、待っているあいだも刻々と宇宙が変化をする。「待つ」という動詞の低く沈むようなかんじから「や」で転換する、そこがよくできていて、文句のない俳句です。逆に「流星を待ち伏す滑り台のうへ」というのは文句の出やすい俳句ですね。「待ち伏す」や「うへ」について名古屋高校さんからつっこみがありました。ただ、つっこみどころをじっくり読むと、「滑り台のうへ」の句またがりのゆるい収め方にも、「待ち伏す」の俯き加減の良さがじっくりと出ているので、こちらに一日の長があったかなと思います。

 

よりリアリティの感じられる旭川東の句に、旗が多く揚がりました。こんなかんじで質疑応答がなされます。続いては、次鋒戦。

 

 

2.次鋒戦

白(名古屋高校) 宿坊の消灯早し居待月

赤(旭川東高校) 秋隣待ち受けはまだ変えられず

 

「宿坊」という言葉を使ったじじくさい句と、「待ち受け」という言葉を使った若者くさい句の対戦になりました。この試合も、8対5で赤の勝利。旭川東が二本先取です。

 

審査員の高柳克弘さんより、「『待ち受け』という言葉が入っていることは全くかまわないと思いますが、賛否両論あるかもしれませんね。俳句は文化の最先端で、新しいセンスとか言葉を吸収していく文芸だと思いますので、若者言葉にも果敢に挑戦していってほしいと思います。対して、私は名古屋の方に旗を上げたんですが、こういうのは古びないですね。古臭いと言われるかもしれませんが、こういう句はいつの時代でも詠まれていて、未来永劫詠まれていく。『早し』の切れがよろしいんじゃないでしょうか。」

 

私もそう思います。ただ、やはり「宿坊」の句はあと一歩オリジナリティーがあるとよかったし、「待ち受け」の句は、どんな画像かが具体的に知りたいと思いました。

 

3.中堅戦

赤(旭川東高校) 炎天や縄文展の開くを待つ

白(名古屋高校) 待春や十指に包む親子丼

 

この試合は10対3で白、名古屋高校が巻き返します。 審査員の中原道夫さんから、「ふたつを比べたときに、どちらが笑いが漏れるかというところで。俳諧というのは心を潤びさせてくれる、あまり硬直した詩よりも、読んだ人がにんまりするような点を考えますと、名古屋の親子丼ということになるんですね。このいじましさが読者の笑顔を引き出したように思います。」

とのこと。俳句とはどういうものか、といった、審査員の信じていることが寸評に表れるのも面白いですね。

 

4.副将戦

白(名古屋高校) 豆腐屋を待つてゐるなりちちろ虫

赤(旭川東高校) 待ち針の向きは揃はず星流る

 

私は、これは赤が勝ったかな、と思いました。白の句、豆腐屋を待つという少し昭和チックなイメージに、ちちろ虫はちょっと似合いすぎている。完成しているのですが、どこか他にもありそうな気がしたのです。赤の句は、待ち針が布に挿されて、お尻のお花や玉がさまざまに散らばって見える様子と、流星との取り合わせがよかった。手元の待ち針、きらきらしているけれど、決してファンタジーではないところが、「流れ星に願いをたくす」みたいな流れ星の既存のイメージを脱することに成功していると思います。

 

しかし、結果は、7対6で白、名古屋高校。2対2の同点となりました。

 

いよいよ大将戦です。

 

5.大将戦

赤(旭川東高校) 洗濯を待ちたるあひだ素裸

白(名古屋高校) さらはれるために亀の子波を待つ

 

名古屋からの「『素裸』が強すぎるのでは」という指摘に対して、旭川東の「『裸かな』というやわらかな詠嘆ではなく、『すっぱだか』なんですよ、『すっぱだか』! 夏の開放感を『すっぱだか』という言い切りに感じてほしいんです」との威勢の良いこたえが楽しく、名古屋が自分のチームの句について「あやうい亀の子が、自分が抵抗できない波にさらわれるのが第一歩。波にもてあそばれても乗るしかない。主体的な動詞で、きびしさのなかに前向きな視点がある」と鑑賞したのがよかった。

 

判定は、8対5で白! 名古屋高校の優勝が決まりました。

 

審査員の小澤實さんのコメントです。

――素晴らしい勝負だったですね。旭川東の「素裸」は大胆です。あまりいい服を持ってらっしゃらないんでしょうか。これがないと裸でいるという。(笑)俳句の精神というのは、貧の精神そのものです。「待ちたる」ではなく「待ちをるあひだ」かなと思いました。一方、名古屋の句ですが、さらわれるというのは普通いやなことですよね。何が来るんだろうとドキドキしながら読みました。そこに「亀の子」という具体的なものがきて納得させられ、不安な気持ちが解放されました。俳句を読む喜びを味わわせてくださいましたね。亀の子という季語の本意はイシガメのことなので、ウミガメの子を詠むときにはずれている使用法かもしれませんが、冒険的な使い方も許容できる素晴らしい出来だと思います。

 

何度でも走り抜けたい夏でした

優勝した名古屋高校、準優勝の旭川東高校のメンバーに訊きました。

優勝した名古屋高校のメンバー
優勝した名古屋高校のメンバー

【名古屋高校】

■どうして俳句甲子園に出場しましたか。

 

去年初出場でボロ負けした時から、リベンジは決めていました。地方大会2週間前、受験で親から出場を反対されているメンバーがいましたが、皆で説得して1人も欠けず出場することができました。その時からチームの一体感を強く感じました。

 

■今回の参加のために、主にどんな練習をしましたか。

 

まず昨年、一昨年の全国決勝のビデオを皆で何度も見て研究しました。他にも1分半で1句作る即吟や、初見の句を1分間で批評する練習をして短い活動時間で成果を上げる研究をしました。句作のときに役に立った本は『俳句がうまくなる100の発想法』です。

 

■次はどのようなことを目指していきますか。

 

私たち今回のメンバーは今年で卒業ですが、これからも楽しく趣味として俳句を続けていこうと思います。

 

■ふだんの活動を教えてください。

 

俳句以外にも小説を書いたり、古典研究の論文を発表したりしています。

 

■今回の俳句甲子園に出場した感想をどうぞ!

 

何度でも走り抜けたい夏でした。

 

【旭川東高校】

■どうして俳句甲子園に出場しましたか。

 

文芸部の中で、俳句が好きな部員が多く、その先輩達にやってみないかと誘われました。とりあえず地方大会に出てみようという、俳句って楽しいかも!と思うところから始めています。

 

■今回の参加のために、主にどんな練習をしましたか。

 

句作はとにかくたくさん作ること、季語のイメージをチームで確認し合うことを心がけています。ディベート練習は、大会の本番を意識して顧問の先生やOBOGに句に対して指摘してもらっています。

 

■学校として、また俳句甲子園に出場したい(してほしい)ですか。

 

今回準優勝という結果をいただいて、来年もこの勢いで行きたい、行ってほしいという思いです。勝ちにこだわることはないと思いますが、後輩達にはぜひ一句でも多く自分たちの句を披露する場を勝ち取ってほしいです。

 

■ふだんの活動を教えてください。

 

うちは文芸部なので、句会や俳句甲子園の練習だけでなく、部誌の作成や小説の議論も活発に行っています。

 

■今回の俳句甲子園に出場した感想をどうぞ!

 

楽しかった!その言葉に尽きます。相手校と互いを高め合い尊重し合える場を一緒に作り上げることができたと思います。そして多くの俳句を愛する人に出会えたことが本当に嬉しいです。これからも俳縁を大切にして、俳句と向き合っていきたいと思います。

 

つづく

第4回 俳句甲子園レポート

俳句名門校松山東高校vs. 脱力系俳句の祖? 灘高校

~山口県立徳山高校、東京家政学院高校の俳句も紹介

 

佐藤文香のHAIKU BOOK CAFE 3

ぼくらの17-ON!』アキヤマ香(双葉社)

高校生×恋愛×俳句=青春! 俳句に全く興味のなかった高校生莉央が、仲間4人とともに俳句甲子園全国大会に出場する青春が、リアルに描かれています。俳句甲子園歴14年の私が、登場人物が作る俳句を書き分け、ディベートのコメントを考えました。俳句作品それぞれのイメージが絵で表現されているので、俳句初心者でも楽しめます。
[出版社のサイトへ]

俳句甲子園 第4号 第十八回俳句甲子園公式作品集』

俳句甲子園OB・OG会責任編集

(NPO法人俳句甲子園実行委員会)

俳句甲子園に出場する高校生たちはどんな作品を作っているのだろうと思った方にはこちら。受賞作品はもちろんのこと、試合に使われなかった作品も掲載されているので、今から俳句甲子園を目指す高校生や先生、俳句甲子園を観戦して満足している人に追加でオススメしたい一冊です。〈アニソンのダウンロードなう蝉の鳴く(高田高校 林美久)〉なんかもありました(この句、季語が蝉じゃない方が面白い)。
[申し込みサイトへ]

あかぼし俳句帖』

有間しのぶ・奥山直(小学館 ビックコミック

高校生のキラキラした青春に疲れた……というあなたに。50代サラリーマンの明星啓吾が、若手俳人水村翠に居酒屋俳句入門。俳句あるあるネタ満載で、少しでも俳句をかじったことのある人なら声を出して笑ってしまう場面も。
[出版社のサイトへ]


佐藤文香(さとう・あやか)プロフィール

1985年生まれ。神戸市の郊外で育つ。小学校6年生のとき松山へ。中学校1年生のときに夏井いつき氏の俳句の授業で俳句をはじめる。松山東高時代に出場した俳句甲子園では、第4回団体優勝、第5回「夕立の一粒源氏物語」で最優秀賞。2006年、第2回芝不器男俳句新人賞対馬康子奨励賞受賞。

 

現在、俳句甲子園OGとして、各地で俳句講座・ワークショップを行っており、高校生には、国語ではなかなか教えられない、俳句作りの魅力を伝えるマドンナ先生として名をはせている。NHKラジオ第1「つぶや句575」、アキヤマ香『ぼくらの17-ON!』(双葉社/1~4巻)の俳句協力、「ダ・ヴィンチ」書評「七人のブックウォッチャー」の一人。


句集に『海藻標本』(宗左近俳句大賞受賞)、『君に目があり見開かれ』、詩集に『新しい音楽をおしえて』(電子版)、共著に『新撰21』がある。