地球宇宙化学・惑星化学
隕石の中にダイヤモンドが! 隕石から太陽系形成以前の歴史を解明
松田准一先生 元大阪大学大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻(理学部物理学科、大阪大学名誉教授)
第2回 隕石中のダイヤモンドには、なぜ希ガスが入るのか ~希ガスからダイヤモンドの起源を追う
実はユレイライトのダイヤモンドは大変面白い特徴を持っています。ユレイライト中のダイヤモンドには希ガスが入っているのに、同じくユレイライトに存在するグラファイトには希ガスが入っていないのです。もし、ユレイライト中にあったグラファイトが衝撃でダイヤモンドに変わったとします。すると、材料となったグラファイトに希ガスが入っていないのに、できたダイヤモンドになぜ希ガスが入るのかという疑問が生じます。そのことは、他の科学者も不思議に思っていました。「ガスの入ったグラファイトだけがダイヤモンドになる」という論文を書いた人もいたほどです。しかし、無理のある主張でした。
実は、ユレイライト中のダイヤモンドに入っている希ガスは、その存在量のパターンに特徴がありました。重い希ガス元素ほどたくさん入っており、希ガス元素の「イオン化エネルギー」ときれいな逆の関係があるのです。イオン化エネルギーというのは、元素から電子1個を剥ぎとるのに必要なエネルギーです。重い(原子番号の大きい)希ガスほどたくさん電子があり、その一番外側の電子を剥ぎとるのには、そんなにエネルギーは必要としません。ですから、重い希ガス元素ほどイオン化エネルギーが小さいということになります。すなわち、イオン化エネルギーが小さい希ガス元素ほどたくさん入っているということになります。
私たちは、希ガスがプラズマ状態でのイオン化などを経てダイヤモンドに取り込まれたと考えれば、この希ガスの特性をうまく説明できるのではと思いました。プラズマ状態では、小さいイオン化エネルギーの元素ほど大量にイオン化されるからです。
電子レンジで気相合成ダイヤモンドをつくり、希ガスの存在パターンを確認
そこで、希ガスをいれた水素とメタンの混合ガスを使ってガスを放電させ、実際にダイヤモンドをつくるという実験をしました。放電には高周波発生装置を使うのですが、研究費が乏しかったので、電子レンジのマイクロ波を使うことにしました。電子レンジは大量生産されているので、高周波発生装置よりも値段が1桁ほど安く買えます。電子レンジの裏側に穴をあけ、ガラス管を通して希薄な水素とメタンのガスを流し、スイッチを入れると赤紫色にきれいに放電します。ただ、電子レンジの穴からマイクロ波がもれることもあります。そのチェックは大変簡単で、外側から電球を近づけるのです。マイクロ波が漏れている時には、電球が光るのですぐにわかります。その時は穴の隙間にアルミホイルをつめれば良いのです(もちろん、マイクロ波は危険なので、家では電子レンジをいじるなど真似をしないでください)。そうして、実際に電子レンジでダイヤモンドを合成しました。大きさは、0.01㎜ ほどの大きさでした。

合成した気相合成ダイヤモンドに入る希ガスの存在度のパターンは、やはり予想通り希ガスのイオン化の割合を反映したもので、隕石中のダイヤモンドの希ガスの存在度パターンにきれいに一致していました。プラズマ状態になる時は、予想通りイオン化エネルギーの低いものほどたくさんイオン化されるからです。科学雑誌のネイチャーに論文を送り、無事採択されました。
私たちは大変綺麗な結果とすっきりした解釈ができ喜んだのですが、事はそう簡単ではなかったのです。
興味がわいたら

『隕石でわかる宇宙惑星科学』
松田准一(大阪大学出版会)
宇宙の解説から太陽系内探査、そして隕石の最新の研究成果までを著者自身の手による楽しいイラストとともに解説。隕石について興味を持っている人、また隕石について実際どのような研究がなされているのかを本格的に知りたい人におすすめです。
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『天体衝突』
松井孝典(講談社ブルーバックス)
恐竜が滅んだのは隕石の衝突によるものですが、隕石の地球への衝突というのがどのようなものか、どのぐらいの頻度があり、どのようなことが起こるのかなどについて詳しく書かれています。隕石のことに興味のある人におすすめです。
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『隕石の見かた・調べかたがわかる本』
藤井旭(誠文堂新光社)
写真が大変豊富で、日本に落下した隕石について特に詳しいです。隕石とはどういうものかをまずは写真などで見たい人にはおすすめです。
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『コズミックフロントNEXT』NHK衛星放送の番組
難しい知識を優しく説明することを心がけ、海外ロケやコンピュータグラフィックなどもふんだんに取り入れて毎回面白い番組に仕上げています。宇宙全般の知識を楽しく学びたい人におすすめです。
松田先生から中高生へおススメ本

『生きること学ぶこと』
広中平祐(集英社文庫)
文化勲章をもらった世界的な数学者による自伝。数学というとスマートな学問と思いがちですが、学問に対する彼の真摯な姿勢と努力がわかり、多いに励みになる本です。
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『すべてがFになる』
森博嗣(講談社文庫)
大学の工学部の先生が書いた推理小説で、テレビでもドラマ化された話題作。理系の人が小説を書くと、こういう面白いものができるのだということがわかります。
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『大放言』
百田尚樹(新潮新書)
私達はテレビや新聞などの影響を大いに受けていますが、自分自身のしっかりした意見を持つことが必要です。そういった意味で、こういうはっきりした意見の本を読むことも良い機会になると思います。
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