高校時代にしておきたいこと、読んでおきたい本

~大学生が大学の授業と本を紹介

高木志郎さん(慶応義塾大学経済学部2年)         ※学部・学年は2016年3月現在

高木さんおススメ「進路を決めたら、高校時代に読んでおきたい本」

『経済の文明史』カール・ポランニー(ちくま学芸文庫)

「経済」と聞くとお金、売買などを思い浮かべる方も多いと思いますが、ポランニーはそれだけが経済の本質ではないと主張します。お互いに助け合うこと、富を再分配することなど、資本主義の膨張以前は経済活動とはより広範なものであったことを彼は示します。「経済とは何か」ということを根本から考え直すきっかけを与えてくれ、現在の社会をより批判的に見る目を養うのに大きく貢献してくれる一冊だと思います。

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大学の授業を紹介! 面白いと思った授業はこれだ

<慶應義塾大学経済学部編>

◇社会問題II(井手英策先生)[2年前期]

井手英策先生の専門である財政社会学を切り口に、日本の抱える財政にかかわる問題について先生が講義をする授業です。社会科学が、より良い社会を考え、作っていくための学問であることを教えていただきました。財政社会学の入門というよりも、社会の問題解決のために先生が自ら考え、戦ってきた歴史を垣間見ることができるような授業なので、非常に面白いです。先生は哲学など思想系の本も数多く読んできているので、数学をベースにした経済学の授業では出会えないようなアプローチを見ることができたのも新鮮でした。

◇自由研究セミナー(佐藤一光先生)

少人数のクラスです。前期は各自が関心のある話題について1週間調べ、否定肯定に分かれてディスカッションをします。後期は経済学部ハイド賞の論文作成について先生が指導します。安保法制に始まりカジノ法案、年金など様々な問題について毎週準備をしてくるのは非常に力になりました。議論に関するフィードバックは、授業後にご飯を食べながら先生がしてくださいます。学部1、2年ではあまり触れることのない踏み込んだ議論ができるので世界の見え方が変わります。先生は来年はいらっしゃらないようで残念ですが、このように魅力的な授業もあることを知っていていただけると嬉しいです。

 

進路について話そう

■進路や大学を決める際に、大事だと思うこと

 

進路や大学を決める際に大事だと思うことは、自分が何をしたいか、その大学に行ったらどんな出会いがあるのかということを基準にすることだと思います。自分のやりたいことができない大学に行くのはもったいないですし、自分のやりたいことに関して、有名ではなくても、面白い人、優秀な人がいるところに行くと知的好奇心が刺激されると思います。


■高校時代にしておくとよいと思うこと

高校時代に、自分の人生がもっと可能性にあふれているということを自覚すること、これだけでも全然違うかなと思います。別に日本にいる必要もないですし、大学に行く必要もないかもしれません。高校生ができることは勉強、部活等だけではなくて、他にも山ほどあると思います。「高校」という「箱」にこだわらないと人生がもっと面白くなると思います。できることなら「高校」、「大学」と分けることなく、一人の人間としてやりたいことを今すぐにでも始めてしまえば、人生はもっと豊かになるかもしれません。

 

自分のやりたいことがわからない人も多いと思いますが、自分の人生ですので誰も教えてくれませんし、教えてもらってもつまらないと思います。何もしないで自分のやりたいことを見つけられる人はあまり多くないと考えています。実際に行動してみたりたくさん本を読んでみたりすることで、何か新しく見えてくる景色があるかもしれません。何事も批判的に捉える目を養えたら、世界が違って見えてくることもあるでしょう。現在社会で起きているできごとから自分が歩んでいる人生に至るまで一度疑ってみることで、人間の営みがより矛盾に満ちて、また、そこに存在する自分という主体がより深味を増して目に映ってくると思います。一回きりの人生なのでお互い楽しみましょう。

 

■進路選択に影響を与えた本

『はだしのゲン』中沢啓治(汐文社)
小さいころに読んだ漫画で、現在の大学、学部とは関係ありませんが、これからやろうとしていることに影響を与えたのはこの漫画です。

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■進路を決めたら、高校時代に読んでおくとよい本

『武士道』

新渡戸稲造著/矢内原忠雄訳(岩波文庫)

内容に関しては納得いかないところもあるかと思いますが、私がこの本を推薦したのは、新渡戸稲造の姿勢と矢内原忠雄の訳の美しさに感銘を受けたからです。本書は、新渡戸稲造が日本の「武士道」を外国に紹介することを目的に書いた本なので、「日本を知らない人に日本についていかにわかってもらうか」という心づかいが随所に表れています。彼の西洋の知的文化に対する知識が随所にちりばめられ、相手の文化を尊重したうえで、「武士道」とその文化の共通点を提示し、日本が西洋文明に負けない素晴らしい精神文化を持っていることを説得的に伝えています。


また訳に関しては、この時代の文章を多く読まれている方にはそれほど驚きはないかもしれませんが、文章のリズム、使われている言葉の美しさに終始感動して読み進めた記憶があります。ものすごく薄いのでぜひ読んでみてください。

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『戦争学概論』

黒野耐(講談社現代新書)

私は長く漠然と戦争に反対する気持ちを抱いていましたが、ただ平和を叫び、武力を肯定する人の意見に端から耳を傾けないのでは何も生まれないだろうと考え、手に取ってみた一冊です。大学で国際政治理論を学ぶ前に読んだ本でしたので、私とは全く違った視点で世の中の出来事を見ている人がいることに驚いた記憶があります。

 

この本が現在の国際情勢を反映しているか、バランスの取れた見方を提示しているかに関しては議論の余地があると思いますが、「戦争」について全くと言っていいほど学ぶ機会がない日本の学生にとっては、「戦争」というものがどう捉えられ、どう推移してきたかについての概論をわかりやすく提示してくれている点で、読んでみる価値があると思います。

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