大気生物学、地域環境工学
農学としての環境工学が生んだ「大気生物学」
~スギ花粉・ヒノキ花粉、飛散モデルが予報を可能に!
川島茂人先生 京都大学 農学部 地域環境工学科

大気環境学の入門
『環境学入門〈2〉大気環境学』
岩坂泰信(岩波書店)
大気環境の変化は、気候変動、地球温暖化など地球規模の環境問題をひきおこす。地球の大気の性質や、人間活動との関わりを考える。
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第1回 地域環境工学って? ~農業・生態系を基本に、温暖化も克服できる地域を生かした持続社会を

私は「大気生物学」ということを研究しています。扱う対象は、花粉、胞子、小昆虫などの大気中を飛んでいる小さな生物粒子です。それが人間と環境にどんな影響を与えるかということを研究しています。みなさんあまり聞いたことはないでしょう。そのはずです。日本中でこんな研究をしているのはここだけですから(笑い)。
まず、私の属する「地域環境工学科」という学科全体のことから話したいと思います。地域環境工学科とは、数理的・工学的発想に基づいて、地球環境と調和のとれた人類の持続的発展に寄与することのできる人を育成することを目指します。環境問題と一口に言っても地球レベルから地域レベルまでありますが、一つのポイントは農学を基本に据えていることです。
理学や工学と農学の違う点は、理学は環境問題を扱うとき、常に対象に鋭く迫る反面、広く見ることに適さない面があります。工学は実学としては優れているのですが、生物的な視点がどうしても欠けるという面があります。その点で、農学で環境問題を扱う利点は、生態系を総合的に捉えることができることです。私自身、生態系の診断と治療みたいな立場でずっと研究していますし、農学研究者は生態系の環境問題を扱うのに非常に適していると思っています。
そういう意味で言えば、人類は今後どのような生き方をしていけばいいのかという問いに答えていくということがあります。例えば今、中央アジアのアラル海が信じられないスピードで消滅の危機に瀕しているという問題があります。かつて世界で4番目に大きな湖だったのですが、人間が不適切に水を利用したために、アラル海が干上がってしまったのです。あるいは南極の氷河が溶けてしまうという地球温暖化問題があります。
このような大問題をどう解決していけばいいのか。非常に大きな志を必要とする問題です。もう少し具体的な目標を言うと、工業重視の産業立国から、農業を基本に置いた持続的な社会の形成ということになります。「持続的な」という言葉は最近よく使われますが、物質的な豊かさだけを追い求めるのでなく、農業という自然を手本にした持続的に豊かな社会を我々は目指していかなきゃならない。
もう1つは、グローバリゼーションによる世界の画一化という問題があります。そうではなく、地域ごとの特色を生かせるような世界にしたい。それを具体的に実現する方策を示すところに、地域環境工学の使命があると考えているのです。
興味がわいたら

大気環境学の入門
『環境学入門〈2〉大気環境学』
岩坂泰信(岩波書店)
大気環境の変化は、気候変動、地球温暖化など地球規模の環境問題をひきおこす。地球の大気の性質や、人間活動との関わりを考える。
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身近な大気環境の調べ方の入門書(大気環境学の入門)
『調べる・身近な環境―だれでもできる水、大気、土、生物の調べ方』
小倉紀、藤森真理子、梶井公美子、山田和人(講談社ブルーバックス)
身近な水、大気、地形と土壌、生き物を含む身近な自然環境を自分たちで調べ、考えるために役立つ具体的な手引き書。科学的な調べ方、データのまとめ方と評価方法がわかる。
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※出版元に在庫なし

大気中を浮遊する微粒子と地球環境の関係がわかる(大気環境学の入門)
『大気と微粒子の話―エアロゾルと地球環境』
笠原三紀夫、東野達:編(京都大学学術出版会学術選書)
エアロゾルとは、大気中に浮遊する微粒子のこと。天気や、酸性雨・地球温暖化、呼吸器疾患やアレルギーといった、私たちの日常生活に密接に関わっている。エアロゾルの正体、地球環境や人体への影響がわかる。
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大気中を飛散する大気微生物が及ぼす実際問題―花粉症とアレルギーの関係がわかる本
『アレルギーはなぜ起こるか―ヒトを傷つける過剰な免疫反応のしくみ』
斎藤博久(講談社ブルーバックス)
花粉症や喘息、アトピー、食物アレルギーなど、現代病となったアレルギーの全貌をわかりやすく解説。
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※出版元に在庫なし

大気中を飛散する大気微生物のふしぎに触れる
『きのこ ―ふわり胞子の舞』
埴沙萠(ポプラ社)
きのこのかさから、ふわりけむりが見える。気中を浮遊する胞子の写真集。著者は植物生態写真家。
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