大気生物学、地域環境工学

川島茂人先生 インタビュー

京都大学 農学部 地域環境工学科

スイス・ヌーシャトルの観測サイトと開発中の自動花粉モニター。共同研究者と。2006年
スイス・ヌーシャトルの観測サイトと開発中の自動花粉モニター。共同研究者と。2006年

◆先生が研究している学問領域をご説明ください。

 

<大気環境学について>

 

大気圏Atmosphereと生物圏Biosphereの相互作用に関する様々な研究を行っています。例えば、地球温暖化が環境に与える影響を、早期に検出する手法に関する研究を、チベットをフィールドとして展開しています。また、近年問題となっている遺伝子組換え体作物が、花粉飛散を介して周辺環境に与える影響について、大気生物学的視点から研究を展開しています。

 

このほか、植生による気候緩和機能に関する研究や、逆に大気環境変動が植物生育に与える影響などの研究を行っています。これらの研究は、国立環境研究所、農業環境技術研究所、中国科学院をはじめ、他大学など外部研究者との密接な連携により、推進されています。

 

このように大気と生態系の相互作用を扱う「大気環境学」は、学際性が大変強く、気象学、生物学、生態学などのコラボレーションが楽しめる学問領域です。

 

 

◆先生のご研究は、「大気環境学」の中の、「大気生物学」という分野です。この分野は、どのような「課題」を背景とし、その解決のためにどのような「研究」をするものですか。

 

<大気環境研究の視点>

 

生態系では、生物由来や非生物由来の様々な粒子やガスが大気中に放出され、拡散しています。これらの中には、我々人類の安全で健康的な生活に悪影響を及ぼす物質、生態系の安定を乱す可能性のある物質、地球全体の気象環境に改変をもたらす物質などがあり、各種の問題を引き起こしています。

 

老子という人が言ったとされる、「常無欲にして其の妙(みょう)を観、常有欲にして其の徼(きょう)を観る」という言葉があります。これは、我々がいる世界や宇宙のことに関する非常に大きなことについて述べているなかの一部ですが、大まかには、「妙」とは千万年を通じて変わらない自然界の法則のことをさしており、「徼」とはそれが細かく発展してできてきた目に見える自然界のことをさしていると考えられます。自然界のことを調べているものにとっては、大変教えられることの多い思想で、この言葉も、大気拡散の研究を様々な角度からやっていると相似性が見えてきます。

 

様々な物質が放出され、拡散していく、そして広がり沈着していくが、そこには、それぞれの物質にはよらない基本的ルールがあって、それに則って現象が起きています。そして、物質やそのときその場の条件などで、そのルールの現れ方が違ってきます。現実にはその結果しか見えないが、

1)それを理解し本質を解明するには、背後にあるルールを観なければいけない。根本のところを明らかにしなければならない。

2)しかし、それぞれの物質や条件ごとの現れ方というものも違い、どのように変化していくかという、その発展して行く末までもよく見究めるということが必要である。

と解釈されます。大気拡散の基本ルールは拡散方程式であります。様々な大気拡散研究を融合する核となるのは、やはりこの方程式であり、その周りを、測定法の研究、濃度評価法やシミュレーション手法の研究、気象条件の影響に関する研究などが取り巻いています。この領域における研究を進展させ、具体的問題に対応できるパワーを強化するためには、医学・気象学・生物学などの分野はさらに一体となって、研究を展開していく必要があるのです。

 

 

◆高校生が、授業や課外活動等で、先生の研究テーマに関する研究をするとして、高校生でも問えるような課題を挙げていただけますか。

 

簡単な顕微鏡、スライドグラス、ワセリン、染色液が必要ですが、一般の学校にあるものです。

・様々な植物の花粉の大きさや形を見てまとめる。

・スライドグラスを使って、毎日の花粉数を数える。

・花粉数を建物の内部と外部で比較する。

・1階と2階で比較する。

・微小な昆虫の形と飛翔能力を調べる。

・胞子を見て、大きさや形を調べる。

など

 

また、高校生でも、研究論文を直接読むことをお勧めします。例えば、私の関係では、下記の研究室サイトに、大気環境学や大気生物学に関する情報がいくつか載せてます。

<http://www.atmos.kais.kyoto-u.ac.jp/>

 

京都大学の屋上から、研究室の学生たちと
京都大学の屋上から、研究室の学生たちと

◆先生が指導されている学生の研究テーマ・卒論テーマ、大学院生の研究テーマを教えてください。

 

・「空中花粉自動モニタリングシステムの開発」

・「カバノキ属花粉の拡散過程に関する総合的解析」

・「風媒性作物を対象とした交雑予測手法の高度化」

・「植生の持つ気候緩和機能に関する研究」

・「チベット高原を利用した温暖化の早期検出と早期予測に関する研究」

・「紅葉時期のモデル推定手法の開発」

・「イネ水耕栽培システムによる都市屋上熱環境の改善効果」

など

 

 

◆先生のゼミや研究室の卒業生は、どんな仕事をされていますか。

 

私が基本としている、自由な空気が影響しているのかもしれませんが、学生は自分の進路をみずから考えて自由に選択しており、いろいろな分野に就職しています。

 

国家公務員(研究職、行政職)、地方公務員(主に県の職員)、JR、JA、大手中堅建設会社、建設関係コンサルタント会社、ベンチャー企業など。

 

学校で勉強したことを直接活かせる仕事に就いている人は多くないと思います。私もそれはあまり大切なことではないと思います。むしろ、大学で試行錯誤した、数理的な考え方や思考過程の苦労、もっと言えば、自由な空気の大切さを、一生を通じて活かしてもらえたら良いと考えています。

 

 

◆高校時代は、何に熱中していましたか。

 

天文学が好きで、渋谷のプラネタリウムには、たくさん行きました。

 

 

◆川島先生の研究室のHPはこちら

http://www.atmos.kais.kyoto-u.ac.jp/

 

<先生の記事を読む>

農学としての環境工学が生んだ「大気生物学」 

~スギ花粉・ヒノキ花粉、飛散モデルが予報を可能に! 

川島茂人先生 京都大学 農学部 地域環境工学科