変わる「人と人との関係」を空間で盛り立てる、もう一つの建築家像
〜ウェディングやシングルマザーのためのシェアハウスの提案
秋山伶史さん(一級建築士事務所「秋山立花」代表)
2008年、一級建築士事務所「秋山立花」を横浜に設立。日本で初めてシングルマザー専用シェアハウスを設計した秋山怜史さんは、従来の一級建築士の概念をぶっ壊す住空間の利活用で社会に貢献しています。建築家とは何か?「社会と人生に新しい選択肢を提案すること」だといいます。

vol.1 地域活性×ウェディング。新しい選択肢を作り出す建築家
みなさんは建築家の仕事って、どんなことと思い浮かべますか? きっとテレビ番組の「匠」を思い浮かべるのではないでしょうか。辞書を引くと、「建物を設計する人。工事を監理とする人」とあります。これに対し、僕は建築家をこう定義しなおします。「社会状況や周辺環境、歴史と文化にかんがみ、建築や空間の使い方、使われ方を創出し、それに適した企画・デザイン、設計、管理を行い、かつその後の運用までも統括できる職業」、と。
これこそが僕の考える新しい建築家像と思っています。秋山立花一級建築士事務所の理念は、こうなります。
「社会と人生に新しい選択肢を提案する」
社会と人生に新しい選択肢が増えると、その分、世界はより豊かになります。そういう世界を生み出すために、いくつかの新しいプロジェクトがあります。例えば、神奈川県川崎市の町に新しいウェディング空間を創出する「川崎ウェディング」の試みがそれです。もっと二人の思い出のある場所で、二人の好きな空間で自由に式を挙げることができないものだろうか。そんなことを考えていたある日、僕は、街の中には上手に使われていない空間が意外に多いことに気づきました。そこで川崎市の保有する施設、街路などの空間をウェディングに開放しようと考えました。第一弾が、新百合ケ丘駅前で行う「しんゆりウェディング」。ここではイルミネーションの光に包まれて、街中から祝福される結婚式をすることができます。地域のすてきな場所、すてきなイベントとウェディングを結びつける、つまり地域活性×ウェディングの新しいプロジェクトというわけです。
人生に新しい選択肢を生み出すために秋山立花が大切にしていることとして、「協創」があります。協創とは、他者と協力して新しい価値を創造すること。例えば僕のオフィスは、入居する人同士で協力して空間をリノベーションした「シェアオフィス」です(リノベーションとは、リフォームより大規模な改修のこと)。入居する他の異業種のプロフェッショナルたちと協力し合いながら、新しい価値を生み出していくということをめざしているのです。
興味がわいたら

『シェアハウス わたしたちが他人と住む理由』
阿部珠恵、茂原奈央美(辰巳出版)
シェアハウスで暮らす若者がここ数年急増中。著者も、会社の同期とシェアハウス。この本では、数多くのシェアハウス住人へのインタビューなどを通じ、そのリアルな実態や住人の価値観から、若者が目指す将来の生き方やライフスタイルまで模索する。

『ぼくの住まい論』
内田樹(新潮文庫刊)
神戸女学院大学名誉教授の内田先生が、神戸に自宅兼道場「凱風館」を建てた。「宴会のできる武家屋敷」を目指した思想家・武道家の家づくりの哲学とは。ユニークな住まい論。

『「空き家」が蝕む日本』
長嶋修(ポプラ新書)
現在、住宅の空き家問題が噴出し始めている。20年後には、日本の空き家率40%、2件に1件が空き家という時代がやってくるという。人口問題、エネルギー問題など様々なトレンドが交錯する住宅問題を読み解き、解決策を提示する。

『にほんの建築家―伊東豊雄・観察記』
瀧口範子(ちくま文庫)
建築家というお仕事がわかる本。世界を飛び回る建築のトップランナーに密着取材。東京大学・東北大学・多摩美術大学・神戸芸術工科大学などで教え、建築家になった教え子も多い。「道を究める」のが嫌い、「洗練させていくだけのような建築のアプローチは嫌い」と言い切る。日本の戦後の建築の歴史や、建築家のビジョンと時代との接点が把握できる。