環境・バイオの最前線
応用昆虫学が学べる大学
応用的、農学的な昆虫学の発展は、京都大の古くからの伝統ある生態学と、旧帝大時代から盛んだった九州大の分類学にその源流があるといってもよいであろう。そして、それらは、千葉大や三重大、香川大、岡山大、高知大、宮崎大などに波及している。また、大阪府立大は、その流れを受けつつ、さらに個性を強く打ち出した研究でおススメだ。そんな中、独自色が強く面白いのが、東京農工大と玉川大。東京農工大では、生理学や化学といった実験研究ができるし、玉川大では、世界的にもまれなミツバチづくしの研究ができる。また昆虫分類学は北大、九州大等全国の大学博物館に研究の拠点を移していることも、最近の大きな特徴だ。
とくにおススメ

1.京都大学
(1)農学部 資源生物科学科/農学研究科 応用生物科学専攻、地域環境科学専攻
(2)理学部 理学科 生物科学系/理学研究科 生物科学専攻/生態学研究センター
【昆虫生態学】農業生産につながる昆虫研究というよりは、理学部で行われているような昆虫の生態を理解しようとする研究で、世界的研究ができる。京都大自体に生態学や生物行動研究の歴史があり、それらの拠点である理学部や生態学研究センターとは絶えず交流している。自然保護や生物多様性への意識が高く、環境問題への関心を生かすこともできる。また、数学に基づく生態学でもリード。カメムシ、ハダニ、モンシロチョウなどで、ユニークな昆虫生態を研究できる。
<研究者>
(1)松浦健二(鉄人)
(2)高林純示(鉄人)
<関係サイト>

2.九州大学
(1)農学部 生物資源環境学科 生物資源生産科学コース
/生物資源環境科学府 資源生物科学専攻
(2)共創学部 共創学科/地球社会統合科学府 地球社会統合科学専攻
(3)農学研究院 附属生物的防除研究施設
(4)熱帯農学研究センター
【害虫防除、分類学】応用昆虫学の本流、害虫防除を目的とした昆虫学の日本の拠点。環境にやさしい、生物が害虫を食す防除法の研究は九州大が創出し、現在も中心的存在だ。その意味で、昆虫の研究で直接的に役立つことを考えるのならば、まず九州大へ。また、昆虫へのこだわりは分類学として展開しており、今は、タマバエ、ハナバチの分類を推進している。小学校時代昆虫採集に熱中した昆虫少年だった人にとって、新しく見つけた昆虫に自分で名前をつけるなんてことも、ここでは夢ではないのだ。同大学総合研究博物館は400万点を越す国内最大規模の昆虫コレクションを誇る。研究者も名物教授が多士済々だ。
<研究者>
(1)(3)上野高敏(鉄人)
(1)広渡俊哉(鉄人)
(2)阿部芳久(鉄人)
(2)荒谷邦雄(鉄人)
(1)(4)緒方一夫(鉄人)
<関係サイト>
■(1)農学部 大学院生物資源環境科学府 「農学部志望の方へ」

3.岡山大学
農学部 総合農業科学科 環境生態学コース
環境生命科学研究科 生命環境学専攻
【総合的害虫管理、進化生物学】害虫防除という考え方を批判し、生態系を守りつつ害虫の被害を最小限に抑える「害虫管理」というコンセプトでの昆虫・害虫研究の牽引役。応用昆虫学から環境問題を開拓するには打ってつけの大学だ。昆虫を用いた進化生態学研究室では、時計遺伝子と生殖隔離、昆虫の死に真似行動の進化、オス間闘争記憶の進化等々、ユニークな進化研究が目白押しだ。
<研究者>
・宮竹貴久(ユニーク)
<関係サイト>
■環境生態学コース サイト

4.大阪府立大学
生命環境科学域 緑地環境科学類
生命環境科学研究科 緑地環境科学専攻
【生態学、分類学】とにかくチョウ研究では日本一。世界中から様々なチョウを収集し、そのコレクションはまさにチョウ博物館。当然、地球温暖化のチョウの分布への影響研究も行われており、チョウの保護、チョウを通じての環境問題と、その視野は広い。
<研究者>
・平井規央(ホープ)
<関係サイト>
■緑地環境科学類 サイト

5.東京農工大学
農学部 応用生物科学科
農学府 農学専攻
【生態学、生化学、生理学】理学部的な基礎研究が中心の数少ない大学。昆虫の生理・生化学研究からの害虫研究で異彩を放つ。血液細胞を培養し、化学的な方法論を用い、まだ謎の多い昆虫の優れた能力などを解明するとともに、害虫管理への応用もめざす。昆虫の不思議な特性への好奇心を、実験研究で満たすならココ。
<研究者>
・仲井まどか(鉄人)
<関係サイト>

6.玉川大学
農学部 生産農学科 昆虫科学領域
農学研究科 資源生物学専攻
学術研究所 ミツバチ科学研究センター
【昆虫利用、生態学】ミツバチ研究の世界的拠点。世界でも珍しいミツバチに特化した研究施設を持つ。ミツバチなどのハナバチ類に関する研究では、ユニークな生態を思う存分研究できる。花粉媒介者としての利用法や養蜂技術など応用的研究も含め幅広い。
<研究者>
・小野正人(ユニーク)
<関係サイト>

7.神戸大学
農学部 生命機能科学科 環境生物学コース
農学研究科 生命機能科学専攻
【分類学、生態学】応用昆虫学というよりはむしろ、昆虫学そのものの研究として、昆虫生態の本質に迫る研究ができる。地球環境の歴史の中での昆虫のあり方を知ろうというところまで遡る。実験的に、ホルモンなどの生理活性物質や、さらに遺伝子に迫る化学の手法=化学生態学も取り入れている。
<研究者>
・前藤薫(鉄人)
<関係サイト>


9.愛媛大学
農学部 食料生産学科 農業生産学コース
農学研究科 食料生産学専攻
ミュージアム
【分類学】甲虫好きだけでなく、昆虫好きの学生が集まって、昆虫をひたすら集め分類を進めていた昆虫分類学の研究は、農学部から附属ミュージアムに移行。新種発見の標本が多く、同ミュージアムは新種発見の日本の最前線だ。
<研究者>
・吉冨博之(ユニーク)
<関係サイト>

10.宮崎大学
農学部 植物生産環境科学科
農学研究科 生物生産科学専攻
【害虫防除】ハウス栽培農家の多い土地柄、ハウスで害虫を調査し、開発中の天敵で害虫防除の実験を行うなど、実際の農業に貢献できる。農業の現実を学んで、農業問題への関心も高められる。
<研究者>
・大野和朗(鉄人)
<関係サイト>
おススメ

11.三重大学
生物資源学部 資源循環学科 農業生物学教育コース
生物資源学研究科 資源循環学専攻
【生態学】世界的にも知られているスズメバチの大家、松浦誠先生はご逝去されたが、昆虫生態学研究室の伝統は生きている。スズメバチのみならず、様々なハチを対象に幅広い。ハチの多様な生態はこの研究室が見出したといっても過言ではない。
<関係サイト>

12.高知大学
農林海洋科学部 農林資源環境科学科
総合人間自然科学研究科 農学専攻
【害虫防除】天敵利用の害虫防除を実際に行っているハウス農家の割合が日本一高い高知県。虫好きで昆虫ショップのような研究室の荒川良先生のもと、意欲的な天敵探しの研究ができる。
<研究者>
・荒川良(鉄人)
<関係サイト>
ユニークな大学

13.長崎大学
熱帯医学研究所
医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系専攻
【病原害虫防除】マラリアなどの病原の媒介者としての害虫・昆虫研究のできる数少ない「衛生系」の拠点。熱帯地方からの留学生も多い。ODAを通じて国際貢献するような医者も数多く輩出している。
<関係サイト>

14.北海道大学
総合博物館 資料基礎研究系 昆虫体系学
【分類学】日本で最大の数を誇る北海道大昆虫コレクションのタイプ標本のデータベースを構築しようという計画が進行中。北海道大の応用昆虫学は様変わりし、昆虫分類学を行ってきた昆虫体系学の拠点は総合博物館に移っている。
<関係サイト>
応用昆虫学
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