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応用昆虫学

学問講座

これぞ害虫防除の粋―脱化学農薬のために「天敵」を生物農薬に!

沖縄のウリミバエ撲滅作戦は、男たちのドラマ「プロジェクトX」に

応用昆虫学は害虫研究によって進歩してきたが、害虫は今なお農業の現場で頻繁に発生している。

 

例えばハウス栽培では、作物の葉の中に潜り込むハモグリバエが知られている。またサツマイモの害虫であるアリモドキゾウムシが沖縄から高知県に入り、高知県の農業関係者が大騒ぎしたこともあった。実は害虫は外国から頻繁に日本に入ってきて、そのたびに農業現場ですぐに駆除してきた。応用昆虫学はそんな農業の現場の緊迫感の中で発展してきたのだ。

 

DDTは戦争直後の害虫駆除にこの上なく重宝された殺虫剤だが、1962年のR.カーソンの『沈黙の春』による農薬汚染の指摘はいうまでもなく、その毒性の強さゆえ、毒が作物を通して人間の体内に入ってしまうとして、今ではその使用が禁じられている。さらには、農薬で害虫の絶滅をもくろんだために、かえって、農薬が効かない突然変異体が現われるといっきにそれが繁殖してしまう、という新たな問題も浮上してきた。

 

害虫駆除の最も大きな話題は、2001年NHKの「プロジェクトX」でも取り上げられた、沖縄のゴーヤやマンゴーなど多くの作物を食い散らしたウリミバエの駆除だ。

 

そ れは1970年代前半、沖縄が日本に返還されて間もない頃、南方から侵入したウリミバエによって沖縄の農業が壊滅寸前に陥った際の応用昆虫学の成果だ。当時沖縄県農業試験所勤務で、後に名古屋大に移った伊藤嘉昭先生らがとった方法は、530億匹以上のオスを室内で大量に増やして放射線を照射し、生殖能力をなくしたもの(不妊虫)を沖縄中の農地に空中から散布するという大規模なもの。そして、これらをメスのハエと交尾させ、卵をふ化させなくする。これを何世代も繰り返すという方法で、ウリミバエを根絶に追いやった。この方法は、生態系にやさしい方法であると考えられてはいたが、それまでこれほど大きな効果は出なかった。 伊藤先生の大英断は、害虫駆除のエポックメーキングな成功例となったのだ。

 

天敵を大量にまき、非情なる弱肉強食の自然界をハウス内に!

沖縄の例は開放空間の農業であるが、ハウス栽培の場合はどうだろう。ハウスの中は人工的によい環境に保たれているため、害虫にとっても居心地がよく、すぐに害虫が発生する。しかし、どんな昆虫にも必ず天敵となる生物が存在することを利用して、害虫が発生したらその天敵をばらまけばよいという大胆なアイデアがアメリカで登場した。

 

天敵を大量にばらまくことは生態系の秩序を崩すため、日本では抵抗感が強いが、アメリカでは、ハウスは閉鎖空間で昆虫が外に出ないのだからかまわないと考えられ、いっきに広まった。今やそれら天敵昆虫は、ビンや箱に入れられて、例えばナス、キュウリ、カボチャ等の害虫コナジラミに対してはオンシツツヤコバチを、アブラムシに対してはコレマンアブラバチを、といったように生物農薬として、世界中で販売・使用されている。

 

ところで受粉に関しても、かつては植物にホルモン剤を与えて受粉したかのように錯覚させ、実をつけさせたりしていたが、花粉の媒介をする昆虫を人為的にハウス内に放つという方法が生まれ、そのための昆虫開発も進んでいる。この受粉補助の方法は農家の労力を軽減するため大変重宝され、セイヨウオオマルハナバチは今では世界中のヒット商品となっている。

 

しかし一方で、これらの輸入種が日本の生態系を崩すのでないかという懸念が、理学部系の生物学者を中心にあがっている。例えば、セイヨウオオマルハナバチは従来からいる日本のミツバチと植物の蜜を取り合い、ミツバチを追いやっているのではないかという。すでに22都道府県の野外でこのハチが確認され、このことは、日本にはない遺伝子が日本に広まり生態系を乱していく、いわゆる「遺伝子汚染」につながる懸念がある。レッドデータに載る昆虫までも、すでに外来種との交配が進んでいる。栽培現場で利用される天敵昆虫やダニも大半が輸入種であることから、同様に生態系への影響が懸念されており、最近は栽培現場近辺に生息する土着天敵の利用がにわかに脚光を浴びている。

 

現在、害虫に対して、根絶してしまわず、むしろ生物多様性のために少しは存在させたほうがよいという「総合的害虫管理」という考え方が提唱されている。また、日本では生物多様性条約も批准し、その中で、生態系や種を脅かす外来種の導入阻止を求められるようになった。応用昆虫学は、害虫を駆除しつつも、どのように生態系の維持に貢献できるか、今新たな転換期を迎えつつある。

  

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