応用物性、電子材料工学(燃料電池)

樋口透先生インタビュー 

東京理科大学 理学部第一部 応用物理学科

◆先生が研究対象としてきた学問領域を説明してください。

応用物理学の中の「物質科学」が研究分野になります。


物質の光・電気・磁気特性を決めるのは,原子核の周りをまわっている最外殻の電子です。この電子の振る舞いや熱的性質を記述する学問は、現代物理学(統計力学、量子力学)になります。この概念を基礎として、複雑な物理現象を解明したり、新たな物質やデバイスを創成したりする学問です。

研究中の先生
研究中の先生

◆先生のご研究を詳しく教えてください。

中高温型の固体酸化物燃料電池は、環境に優しい安心・安全な発電システムとして期待されていますが、実用的な電解質・電極材料は示されていません。私の研究では、これまで候補とされている物質の電子構造・電気特性を明らかにし、ここで得た知見を基にして、量子力学・統計力学・固体物理学を基礎とした新たな物質探索を行っています。結晶空間における対称性や欠陥構造が電解質膜の特性に大きく影響するため、スパッタ法という手法を用いて結晶格子や欠陥を意図的に制御した薄膜を作製し、構造・電気特性に加え、薄膜型燃料電池の設計も行っています。

◆生み出された成果は、社会的にどのような意味を持ち、また貢献できると思われますか。

中高温型の固体酸化物燃料電池は、現在の原子力・火力発電への依存度を軽減させる新たな発電システムになります。この燃料電池の発電特性・耐久性・コスト等の問題が解決されれば、様々な用途での利用が可能となり、究極のエコ社会に貢献できるのです。

 

カリフォルニア大学バークレー校 (2007-2008年に在外研究員として過ごしていました)
カリフォルニア大学バークレー校 (2007-2008年に在外研究員として過ごしていました)

◆研究テーマをどのように見つけたのかを教えてください。

元々は光を使って様々な物質の電子構造の基礎研究をしていましたが、いずれは実社会に役に立つ研究をやりたいという気持ちがありました。その中で、イオン伝導体の基礎研究を進めていくうちに、物質の構造をうまく制御できる手法を取り入れれば、中高温で作動する固体酸化物燃料電池が実現できると考えました。単にデバイスを作って性能を評価するだけでなく、基礎的な背景を理解した上で、難題を解決するための筋道を立て、デバイス化に向けた研究を進めていく過程がとても面白いと思います。

◆高校生が、授業や課外活動等で、先生のテーマや学問領域に関する研究をするとして、高校生でも取り組めるものはありますか。

「燃料電池の発電特性の実験」:通常の燃料電池のキットを用いてもできる。
・水の電気分解で得た水素の容量に対する発電の持続時間
・持続時間に対する電圧の劣化特性など
・電解質をドライヤー等で加熱すると、イオンの動きが活発になるので、発電特性が変化する。電解質温度と電圧の関係。
等、実デバイスの性能評価に近いことができます。

◆先生が指導されている学生の研究テーマ・卒論テーマ、大学院生の研究テーマを教えてください。


・中高温型燃料電池電解質膜の作製とプロトン伝導性の研究
・高温型燃料電池電解質膜の作製と酸素イオン伝導性の研究
・電子-プロトン混合伝導体薄膜の作製と燃料電池電極特性の研究
・イオン伝導体/電極界面の反応機構に関する構造的な研究
・X線分光によるイオン伝導体薄膜の欠陥・電子構造の研究
など

樋口研究室のみなさん
樋口研究室のみなさん

◆先生の研究室の卒業生は、どんな仕事をされていますか。

・大学院生の多くは、研究室で学んだ物質創成やシステムに関する知識を活かして、半導体業界のデバイスプロセス開発、自動車業界のエンジンやバッテリーの開発、電力・ガス会社等で燃料電池の材料やシステム開発に関する職種に就いています。また,電気・ガスの計測機器の仕事に携わっている学生もいます。
[主な会社:村田製作所、東京エレクトロン、SUBARU、東京ガス、JR東日本、住友電装、アルバック、凸版印刷、東京計装等]

・学部生は、ほとんどが大学院進学のため,就職する学生の割合は低い。卒業研究を始める前に、就職が決まるので、研究内容を活かした職種についているとは限らない。理系就職であればシステムエンジニア系の職種、文系就職であれば情報を活かした職種が多い。
[主な会社:伊藤忠商事、住友電工、NEC、SUBARU、JTB、日本総研等]

◆先生の高校時代、どのように学んでいましたか。何に熱中していましたか。

福岡の田舎町に住んでいたので、周囲は大学に進学するという雰囲気もなく、塾や予備校もありませんでした。2次募集で拾ってもらった私立高校に行かせてもらっているという親への感謝の気持ちから、高校で指定された教科書・参考書・問題集を丸暗記するくらい、理解して書くという原始的な勉強を何度も繰り返して基礎学力を身につけました。この地道な努力が大学進学後とその後の仕事に非常に有効であったと感じています。


普段は朝早くから夜遅くまで高校で勉強していたので、クラブ活動には入っていませんでした。休日や長期の休みは、農作業や工事現場など父の仕事の手伝いをしていましたが、このときの技術が今の研究に役に立っています。勉強以外で熱中していたのは、モトクロス。

 

樋口先生の研究室HP

中高生に薦めたい本・映画・TV番組等

『プロフェッショナル 仕事の流儀』 NHK総合テレビ
よりよい社会を築くために、様々な分野の難しい課題に対して、諦めることなく限界に挑戦し、新たな文明を切り開いていく姿が描かれています。

『ガリレオ』
東野圭吾原作、福山雅治主演のドラマ。基礎的な物理の概念を応用して様々な事件や問題を解決していく。応用物理学そのものを表しています。

『博士の愛した数式』
小川洋子(新潮文庫刊)
寺尾聡主演で映画化も。大学の物理では数学を使います。数学に秘められた深い人生哲学を感じとってください。

[出版社のサイトへ]

『遠き落日』
渡辺淳一(角川文庫)
三上博史主演で映画化も。障害を負いながらも、研究者として大成していく、野口英世の生涯が描かれています。

[出版社のサイトへ]

『ルーズヴェルト・ゲーム』
池井戸潤(講談社文庫)
2014年テレビドラマ化(唐沢寿明主演)。ライバル会社から様々な妨害を受けながらも、試行錯誤を繰り返し、追い詰められた状態の中で、新たなものを作り出していく姿が素晴らしい。

[出版社のサイトへ]

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樋口透先生 東京理科大学 理学部第一部 応用物理学科