政治過程論、国家論/現代国家分析

18歳、選挙に行こう! みんなで社会を作ろう!

18歳への選挙年齢引き下げは「タナボタ」的に決まった ~それでも、若い人の政治への「気づき」の原点になるだろう

西川伸一先生 明治大学 政治経済学部/政治制度研究センター

西川先生のおすすめ

国家とは人を治めるための組織であるが、その本質が読みやすいおとぎ話のなかにぎっしり埋め込まれている。

『動物農場』

ジョージ・オーウェル、訳:川端康雄(岩波文庫)

国家とは人を治めるための組織であるが、その本質が読みやすいおとぎ話のなかにぎっしり埋め込まれている。人間が支配していた「荘園農場」の動物たちがそのひどい待遇に憤って、革命に起ち上がる。こうして誕生した「動物農場」は「すべての動物は平等なり」などの7項目からなる「七戒」(憲法)が定められた。しかし、時間の経過とともに、豚が特権階級になり、ナポレオンという豚がかつての荘園領主のように支配するに至る。シンプルな「七戒」がわずかな加筆によって骨抜きにされ、豚の支配を正当化する根拠に転じていく過程が面白い。

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第1回 18歳への選挙年齢引き下げの意義って何?~引き下げに消極的だった日本の事情

今回の18歳投票制は、1946年に20歳以上の男女が有権者になって以来、70年ぶりの選挙権年齢の引き下げです。戦後まもない当時、全人口に占める有権者の割合は48%でしたが、2014年衆院選でのそれは81%に達しています。それだけ日本の少子高齢化が進んだことを意味します。

 

さらに、18歳への選挙権年齢引き下げで約240万人が新たに有権者になります。全有権者に占める割合はたかだか2%ほどに過ぎません。しかし、前回の衆院選では、100票差で当落が決まった例もあります。新しい有権者の動向が選挙結果を大きく左右する可能性も十分ありうるのです。

 

また若い世代の声をいかに政治に反映させるかは、差し迫った大きな課題です。18歳・19歳有権者は、「シルバー・デモクラシー」といわれる少子高齢化時代の民主政治に大きなインパクトを与えるかもしれません。

 

18歳選挙権は世界標準

 

18歳への選挙権年齢引き下げは、どのように決まったのか。まず選挙権年齢引き下げの歴史から話しましょう。欧米諸国での引き下げは1970年代前後に相次いで実現されます。イギリスでは1969年に21歳から18歳に引き下げられました。翌70年には西ドイツで、71年にはアメリカで、74年にはフランスで、それぞれ同様の引き下げが実施されました。その理由としては、若い人びとの目覚しい身体的、知的発達によって、「21歳成人」が現実にマッチしなくなったことなどが挙げられるかと思います。国立国会図書館(2014年)の調査では、世界191の国・地域のうち9割近くが18歳で選挙権を認められています。今や18歳選挙権は世界標準と言えるのです。

 

一方、日本の1970年代は引き下げの議論はまだ低調でした。自治省(現・総務省)が18歳選挙権についていくつか世論調査をしましたが、回答はいずれも反対が賛成を上回りました。世論は18歳にはまだ政治問題について判断力がないと考えていたようです。18歳選挙権について「実現はまだ先の先」という結論になりました。

 

高齢社会への移行を背景に議論が活発化

 

これが積極的方向へに転じるのは1990年代からです。94年に時の細川護煕(もりひろ)首相は担当大臣に18歳選挙権の検討を指示しています。しかし自治省は「民法で成年は20歳。18歳有権者は法体系全体で考えるべき」と消極的でした。その後、各政党は、「前向きに検討」から「引き下げをやるべし」まで強弱に差はあったものの、18歳選挙権を認めることで歩調をそろえます。それでも、自治省は民法との整合性を問題にして慎重な態度を崩しませんでした。マスメディアの論調をみると、朝日新聞は99年に社説で「18歳選挙制 高齢化のゆがみを正す」と主張しました。他紙でも引き下げ賛成を唱える社説が掲載されるようになります。

 

このように18歳選挙権を求める議論が活発化した背景として、1990年代半ばに、日本がそれまでの高齢化社会から高齢社会へ移行したことが挙げられます。若者やまだ生まれていない人びとに、年金など社会保障のコストを負担させることを「財政的幼児虐待」と呼ぶそうです。その表現を借りれば、若者に選挙権を与えずに負担だけさせるのは「財政的若者虐待」ということになるでしょう。それが公正の観点から望ましくないとの意識が90年代以降、社会的に共有されていったのだと思います。

 

また、1994年に日本は、ユニセフがその策定に深くかかわった子どもの権利条約を批准しました。子ども権利条約は、18歳未満を「子ども」と定義しています。18歳以上は「大人」であり、なのに選挙権がないのはおかしいことになります。

 

西川先生のHPも

西川先生HP「西川伸一Online」

西川先生HP「鑑賞映画」のページ

映画鑑賞が趣味の西川先生の、200以上もの鑑賞記録。政治や政治学に興味のある人は、ゼミや授業(国家論)で見た映画をどうぞ。

明治大学西川ゼミHP

 

興味がわいたら

『動物農場』

ジョージ・オーウェル、訳:川端康雄(岩波文庫)

国家とは人を治めるための組織であるが、その本質が読みやすいおとぎ話のなかにぎっしり埋め込まれている。

人間が支配していた「荘園農場」の動物たちがそのひどい待遇に憤って、革命に起ち上がる。こうして誕生した「動物農場」は「すべての動物は平等なり」などの7項目からなる「七戒」(憲法)が定められた。しかし、時間の経過とともに、豚が特権階級になり、ナポレオンという豚がかつての荘園領主のように支配するに至る。シンプルな「七戒」がわずかな加筆によって骨抜きにされ、豚の支配を正当化する根拠に転じていく過程が面白い。

最初は理想的なシステムをつくっても、次第にその秩序は崩壊していかざるをえない。それを認めて反省するどころか、言葉巧みに美化してしまう「国家」という装置の悪魔的本質が読み取れる。

高校の英語のサブリーダーにもなっている小説なので、英文で読めば英語の勉強になり、政治学の素養も身につけられる。コスパに敏感な人におススメ!

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『官僚たちの夏』

城山三郎(新潮文庫刊)

「異色官僚」とよばれた佐橋滋(さはし・しげる)元通産事務次官をモデルとした小説。高度成長期の通産官僚の「おれたちは国家を背負っている」という心意気がひしひしと伝わってくる。もうこんな官僚はいないだろう。公務員志望の人は必読です。

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『一週間』

井上ひさし(新潮文庫刊)

2010年に亡くなった井上ひさしの遺作。戦前の日本共産党の地下活動やソ連のラーゲリ(強制収容所)に収容された日本人捕虜の様子が「楽しく」語られ、読み手を飽きさせない。例えば、「失恋は人間を大きく育てる」のだそうだ。

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『票田のトラクター』

ケニー鍋島:原作、前川つかさ:作画 (小学館ビックコミックス)

全4巻。日本政治の本音の部分が見事に描かれる。与党内の面従腹背、与野党のなれ合い、選挙の舞台裏などがよくわかる。政治家にだまされてたまるかという気にさせられる。18歳選挙権になったいま、みなさんにおススメ!