環境・バイオの最前線

植物病理学

学問講座

二重らせんモデルも、細胞融合、遺伝子導入も植物病理学が生んだ

先端バイオの功労者はタバコだ!

植物病理学はバイオ領域の開拓に非常に大きな貢献をした。前述のドバリーがジャガイモ疫病の原因としてカビを発見したのは、ドイツのR.コッホが、ヒトや家畜の病気が細菌によって起こることを発見する15年も前のことだ。ウイルスも、植物の病気の研究過程で発見されたものだ。1898年にオランダのM.ベイエリンクが発見したタバコのモザイク病の病原体は、ウイルスという微生物の最初の発見でもあった。

 

さらに1930年代にこのタバコモザイクウイルス(TMV)が結晶化され、続いてタンパク質と核酸の複合体であることが明らかになる。これを境に生物学にも物理学と化学が参加するようになった。このことこそが、生化学を大きく発達させたのだ。また電子顕微鏡でTMVが棒状の粒子であることがわかると、ウイルス粒子の詳しい構造への興味が高まり、TMV粒子が、らせん状の1本のRNAに外被タンパク質がびっしりと並んだ構造であることが明らかにされた。

 

1953年にJ.D.ワトソンとF.H.C.クリックによるDNAの二重らせんモデルが発表され、このことが現代生物学の幕開けとなったが、実はワトソンはその前にTMVのX線回析の研究をして、TMV粒子がらせん構造であることを突き止めていた。それがDNAの構造解析のヒントになったわけで、TMVは構造化学の基礎を築いたといえる。後にバクテリオファージなどのウイルスが研究材料として盛んに使われ、遺伝学や生化学の発展に大きく貢献したのはいうまでもない。

 

遺伝子組み換えも植物の病気の副産物

バイオ分野の中心分野である遺伝子工学等の技術(特に植物に関する)の多くも、植物病理学から生まれている。その古典的な技術が組織培養だ。植物は挿し木で増やすことができる(つまりクローン!)ように、成長した植物の細胞1つからでも全体を再生できる。そこで、増やしたい植物の茎の先端の組織を無菌的に切り出し、寒天の培地で培養する、これが組織培養。植物から感染ウイルスを除くための試行錯誤から生まれた方法で、この結果、ランなど増殖が難しかった植物も簡単に大量に増やすことができ、イチゴなどもこの組織培養でウイルスに感染しない苗から作られるようになった。

 

また、植物細胞の細胞壁を酵素液で取り除きプロトプラスト(図1)と呼ばれるものを作り、別の植物のプロトプラストと一緒にすると、遺伝子そのものを融合して別の植物を作るという技術が生まれた。ジャガイモとトマトを融合したポマト、オレンジとカラタチを融合させて作ったオレタチなどもこの方法が生んだ。このプロトプラストの技術は、1968年に日本の研究者がタバコの葉にウイルスを感染させる実験の中で開発したもの。新しい植物を作るための細胞融合にも、遺伝子導入にも不可欠な素材となった。

 

図1 細胞壁を酵素で取り除いた植物細胞=プロトプラスト。細胞壁を取り除くと丸くなる
図1 細胞壁を酵素で取り除いた植物細胞=プロトプラスト。細胞壁を取り除くと丸くなる

図2 根の生え際にこぶを作る病気の病原体である土壌細菌こそ、植物の遺伝子工学を生んだ
図2 根の生え際にこぶを作る病気の病原体である土壌細菌こそ、植物の遺伝子工学を生んだ

そして、何といっても大きいのが、遺伝子導入の技術だ。その1つであるアグロバクテリウム法は、バラやリンゴなどの根の生え際にこぶを作る土壌細菌(図2)を調べていく中で開発された手法だ。この細菌は外来遺伝子を組み入れやすく、かつ植物に感染するとうまく植物のDNAに入り込む。そこで、導入したい遺伝子を細菌に組み込んで、より確実に遺伝子導入ができるようになった。害虫抵抗性のある植物作りも、植物に人間に役立つ物質を作らせる試みも、すべてこれらの成果があってのことなのだ。

 

 

まだまだ広がる学問の世界

植物病理学の研究者

植物病理学を学べる大学