環境・バイオの最前線

水圏動物学

ウナギ、エビ、フグ・・・養殖に始まり、魚の神秘を探り、水産業を支える学問

【BOOK】『ウナギ 大回遊の謎』

塚本勝巳(PHPサイエンス・ワールド新書)

大哲学者アリストテレスはウナギが泥の中から自然発生すると考えていたそうだ。「世界的ウナギ博士」として名高い日本のリーダーが、世界初、大海原でウナギの天然卵と親魚を発見までの長い足跡を語る。実はニホンウナギは日本列島から遠く数千キロも離れた太平洋のど真ん中で毎年、産卵していた。本書は、大海原で親ウナギが産卵する瞬間をピンポイントでつかまえたい、この究極の謎に挑んだ科学者たちの夢と冒険の記録である。<PHP書籍紹介より> [出版社のサイトへ]

水圏動物学ってどんな学問?

養殖技術を発展させるも、感染症や発生・生殖が課題

肉中心の食生活に変わりつつあるとはいえ、四方を海に囲まれた日本では、今なお動物性タンパク質の4割が魚でまかなわれている(図1)。その魚を捕ったり育てたり、売ったりする業種が水産業だ。

図1 日本人1人1日当たりのタンパク質の量
図1 日本人1人1日当たりのタンパク質の量

魚を安定して大量に捕ることは、人々の夢だった。また、よりおいしい魚を食べたいというニーズもある。そんな中で、漁獲量を制御したり、稚魚を捕ってきていけすで育てたり、人気のある品種を卵から育てたり、というような技術が生まれてきた。特に海の魚を人間の手で育てる養殖は、水産業にとって技術的な大革新であったという。しかし時として感染症が流行し、いけす全体の魚が死んでしまうこともあり、また、漁業の情報は漁師各自の秘密にされるため、卵を持つ母テナガエビが1匹1000ドルという高値になったりする。またさらに、ウナギなどはようやく卵から養殖できるようになったものの、十分な数をつくることができないため稚魚を捕って育てるしかなく、いつ捕れなくなるかもわからない。名物の浜名湖のウナギも全国各地(さらには世界各地)で集められたウナギの稚魚を飼育したもの、というのは、今では周知のことだ。


したがって養殖業にとって、魚を病気にしない技術や、卵から発生・生殖させる技術などは、大変重要である。生理学、生殖学を中心とした水圏動物学は、そんな養殖の技術に資するため、人間が食べる魚介類を中心に、その発生・生殖系、ホルモンなどの調節系、さらには呼吸器系などの解明をめざす。対象はウナギやエビ以外に、サケ、ヒラメ、フグ、マグロ、カニなどだ。

興味は養殖業を超えて

ウナギの産卵管理などで成果を上げてきたこの学問だが、天然魚の実験的方法でしか扱えない側面、例えばフグの毒はなぜ存在するのか、といったことについても挑む。実をいうと魚は、管理するといっても陸上の作物や畜産動物などより自然環境に依存する要素が強く、また日本の大学の理学部生物学科がほとんど魚の研究をしていないこともあり、かなり理学的・基礎的研究にまで、研究の幅が広がっている。環境ホルモンで問題視される魚のオス・メスがホルモン次第で変わること、受精しないで子孫を残せるギンブナの生殖などもこの分野で研究する。海生ほ乳類の研究も行う。水族館を持つ東海大学ではイルカ、サメの研究、オホーツク海に隣接する東京農業大学オホーツクキャンパスでは地の利を生かしてアザラシの研究を行っているのだ。

 

水産業の危機に一矢報いるか

現在、水産業離れが進んでいる(図2)。魚が、必ずしも安定して捕れないからだ。稚魚の放流もなされているが、捕れるのは放流した稚魚が育ったものばかりだったりで、海の自己開発力は弱まっている。また、魚は水を介して他の魚と触れているため、感染症が移るとか、抗生物質を与えてできた細菌の耐性遺伝子がすぐ伝播するといった問題も残念ながら起きている。日本のウナギをヨーロッパに持って行きヨーロッパウナギを病気にした例もあるが、現在日本で起こっている病気は、海外からもたらされてしまったものがほとんどである。

 

海洋資源である魚は、管理されなければならない時代になっている。そのためには、魚自体に対する理解を深めるこの学問の知識は非常に有効で、言い方を換えれば、この学問を学んだ人材こそが、農林水産省などで政策方針を打ち出すべき、ともいえるのだ。


図2 日本の漁業生産量
図2 日本の漁業生産量


【展望】

学問的活性度 ★★☆☆☆

社会的要請度 ★★★☆☆

まだまだ広がる学問の世界

興味がわいたら!BookGuide

ウナギ 大回遊の謎

塚本勝巳(PHPサイエンス・ワールド新書)

大哲学者アリストテレスはウナギが泥の中から自然発生すると考えていたそうだ。「世界的ウナギ博士」として名高い日本のリーダーが、世界初、大海原でウナギの天然卵と親魚を発見までの長い足跡を語る。実はニホンウナギは日本列島から数千キロも離れた太平洋のど真ん中で毎年、産卵していた。本書は、大海原で親ウナギが産卵する瞬間をピンポイントで捉えたいと挑んだ科学者たちの夢と冒険の記録である。

<PHP書籍紹介より> [出版社のサイトへ]

サバからマグロが産まれる!?

吉崎悟朗(岩波科学ライブラリー)

日本人はマグロが大好き。しかし、獲り過ぎによる減少が問題に。東京海洋大学の吉崎先生の研究グループは、マグロの数をどうにかして増やせないか研究を続けている。その研究は「サバからマグロ」。サバ類というマグロの近縁種で、「生殖細胞」という精子や卵のもとになる細胞をつかい、代理の親による借り腹増殖というもの。その研究は果たして…。また、この技術を応用した絶滅危惧種の保全にも取り組む。

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フグはなぜ毒をもつのか―海洋生物の不思議

野口玉雄(NHKブックス)※出版元に在庫なし

フグだけではなく、他の魚や貝、カニの仲間や海藻にも毒はある。どのようにして、なぜ毒を持つのか。時に命までも脅かす海洋生物の毒=マリントキシンを追いかけ、中毒事故にもあった野口先生の長年のフィールドワークの成果を踏まえ、わかりやすくまとめた1冊。毒を通して、生物たちの生きるための創意工夫など、自然界の不思議に触れてみよう。

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世界で一番詳しいウナギの話

塚本勝巳(飛鳥新社ポピュラーサイエンス)

ウナギのほとんどが外国産だ。この本では、謎に包まれている産卵場の解明など、その生態や生活環境、ままならない大量種苗生産実現へのヒント、生態学の大切さを細かく紹介。ウナギの完全養殖、安定供給の実現を1日でも早く、と願う世界的な研究者である筆者の、研究生活の集大成がこの本にまとめられている。

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海に還った哺乳類 イルカのふしぎ

村山司(講談社ブルーバックス)

かつて陸上で暮らしたイルカの祖先は、5500万年前、突然、海へと戻っていった。なぜ海中生活に舞い戻ったのか? イルカは女系社会だった!? クジラは歌う? 水中で暮らすイルカは地上の夢を見るか―。「ヒトと会話ができ、文字が読めるイルカ」をめざし探究してきた第一人者が、最新イルカ学のすべてを語る。

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水圏動物学の研究者

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